第42話 招かれざる客
招いても居ない貴方、長引く風邪の様だ。
――――――
「完成した…、ぞ。……ガッ…!!」
「お疲れ!」
「お疲れ様ですシャープさん。フェスト用のエトワール、打刀タイプ完璧です」
ハモンの工房にて。眩い光を放っていた加工カラットとエトワールが、次第に落ち着きを取り戻す。見るからに顔面蒼白のハモンは両腕に繋がれた管チューブを外し、完成品を傷付けない位置まで下がり派手にぶっ倒れた。命を削るモードを終えた技巧師は余程の熟練者でない限り大抵はハモンのように気絶する。
モードは成功したので命に別状はない。故にクリートもフラットも派手に気絶したハモンの心配はせず、完成品の手入れを始めた。手入れ布でサッと拭き終わるとクリートはフラットに完成品を渡した。
「フラット、エトワール渡しといてくれ」「はい!ナチュラさんはどうします?」
「そうだな…取り敢えずは、ハモンを運ぶかな」
「それにしても、これだけ使ってカラットがまだ残ってるなんて珍しいですね」
「もう一作品造れそうだ」
「ナチュラさん、依頼受けてませんでした?アーベントさんから。ポスポロスの技術がどうのって…」
「造り終わったから大丈夫!」
「本当ですか…」
「疑ってる?」
「直前になって間に合わないなんて事にはならないでくださいね!」
「大丈夫…半分は出来てる」
両手でエトワールを持ち、クリートに問う。彼を放っておけばマズイと女の勘が発動し、行動を
通常加工カラットをモードで使用すれば、サイズが縮小されながら最後は米粒サイズになり、自然と消滅する筈だ。受け取った当初より一回り小さくなっているが形状を保っている加工カラット。造った人物を二人は陰で讃えた。フラットの小言を聞きつつクリートは彼女を見送る。
ハモンを引き攣る道中、造るエトワールのタイプを考えるクリート。口角が上がり、テンションも上がっていた。
―――――― ―――
(欠片が疼いてる…)
「ククッ。良くやった星の民スコアリーズへ向かうぞ。精々オレの足引っ張らないように精進しろ」
「ローグとキャスの奴が戻ってねぇ」
「はぁ?」
(ボク達に当たるの止めろよ…)
霊族とファントムが屯う某所。欠片を弄るアクトは欠片の光り方に変化を見受けた。光の濃淡が激しくなり、まるで元の位置に戻りたそうにしている欠片の様子から、アクトはスコアリーズの人間が四方に散った欠片を全て集めたと推測してファントムの連中に指示を出した。
アクトと一切視線を合わさず、現状を告げたコケラ。実際見渡すとキャスもローグも何処にも居らず彼の機嫌は一気に損なった。切れ散らかすアクトに心の中で呟くソワレ。声に出せば面倒な事になると推測しての妥協だった。
「む?ローグが居ない…何処に行ったのだ」 「てめぇこそ何してたんだよ」
「なぁに、暇だったのでな!試し斬りを再開していたんだ。前回の反省を学んで、相手に抵抗してもらう事にした。そうすれば身体が鈍る事はない。ハハハッ!」
「悪趣味な野郎だ」
「コケラも似たような趣味があるだろう?」 「俺は自分で強いと思ってる奴を嬲るのが趣味なんだ。一緒にすんな」
「どーでもいいね!ボクにはなんてったって神器があるんだ!!」
「羨ましい限り…俺もゆくゆくは神器を持ち思いっきり放ってみたいものだ!」
キャスが戻って来た。濡れた髪を拭いたような形跡があり、何処か既視感を覚える登場の仕方だ。実際、同じ行為を繰り返しているのだから既視感は正しい。前回の反省を活かし死臭も拭い去り爽やかな汗を流していた。 キャスとコケラ、何方が悪趣味なのかと問われれば見識ある人間は何方もだ、と答えるかも知れない。然し、残念ながら此処には倫理観が欠如した人間しか居ない。誰も彼等の行動を悪いとは思えないのだ。神器を持つソワレは一人、勝ち誇った様に見せつける。
悔しげに拳を握るキャスとどうでも良さげな態度を見せるコケラ。変わらずに機嫌が悪いアクト。
「話を戻すがローグは何処へ行ったのだ?」 「キャスがどっか行った後にファントムに状況報告ってやつをしに行った」
「なるほど!」
「ふざけるな。今すぐ連れ戻せ」
「ケッ。自分でやれよ」
「あ゛ぁ?!霊族に逆らうのか?」
「…ビューさん、戻りましたローグです」 「スコアリーズへ向かう。今すぐだ」
「遂に我が神器を手に入れる瞬間が…!」 「作戦は?」
「前回同様、陽動作戦は継続だ」
「つまり暴れろって事だろ簡単じゃねぇか」
(有象無象が集結した所で目的達成までの作戦を理解出来る筈もない。無理難題を彼等に突き付けるより単純明快の陽動作戦の方が成功確率は高まる)
欠片を握る手を強め、アクトは再度ローグに戻るように伝えろと命令する。透かさず自分が言われた事を言い返すコケラ。短気な人間を煽れば手が出ると予測するのは容易だ。 ローグの到着が後数秒遅ければ此処は血の海と化していただろう。ファントムへの報告が終わり体制を立て直した彼等は再び神器眠るスコアリーズへ向かった。
ファントムは神器を、霊族は魔鏡を求める。先程まで呑気に浮かんでいた太陽は次第に雲を纏い、身を隠し始める。 ―――――― ――― ―――
ファントム本拠地にて。
豪華絢爛、煌びやかな回廊を歩く男が居た。見上げれば常人には理解出来無い様な崇高な天井画が広がっており、視線を伸ばせば大層な宝飾品が至る所に飾られ、堂々たる姿勢で中心を歩く男の身分が窺える。
「一度の襲撃で成功出来ないとは流石下っ端面白い奇抜だ、とでも言ってほしいのかな?聖職者を母に持つ、ローグ・スキュロスが付いていながら…!奴の実力も所詮は、その程度だった訳だ。余計な仕事増やすな。此方は背信者の処刑で忙しいと言うのに…」
男は憤怒していた。言葉遣いこそ乱れてはいなかったが怒筋が浮かび上がる拳を必死に抑える。長い回廊で擦れ違う者共は男の威圧に気圧され、目を合わせない様に萎縮して小走りに走り去る。
「ウフッ音色が乱れてるねぇ。気分を害する出来事でも合ったのかしら?」
「貴方の故郷の話だ」
「スコアリーズ…あぁ思い出した。神器の話確かに言ったね。まさか失敗したの?」
「そのまさかだ」
「下の子達には難易度高かったのかな?」「霊族も霊族だ。魔鏡を手に入れられないだと?阿呆抜かすな」
「また音色乱れてる…眉間に皺良くないよ」
男に近付ける者は彼と同等かそれ以上の力量の持ち主だけだ。修道女と類似した衣装を身に着ける女が話し掛ける。ブロンド髪の彼女の故郷はスコアリーズであり、ローグ等に街の秘密を言いふらした張本人でもある。
彼女の言う音色とは、感情の隆起の事だ。男の眉間に細長く色白な指先を這わせ、音色の乱れを整えようとした。女の行為に無反応な男は足を止めない。
「故郷を思い出したら久し振りに詠いたくなった…聞いてくれる?」
「本気で言ってるのか?」
「嘘よ冗談。じゃあね弟くん!」
女はウィンクを最後に男の前を立ち去った。結局何故話し掛けたのか分からず仕舞いだが女の性格からして大した理由は無いのだろう。 男は漸く、足を止めた。目的の部屋に到着したからだ。重厚感溢れる重い扉を開け、中にいる人物と正面から目を合わす。
「名指しで呼び出すなんて珍しいな。お父様」
「…計画変更だ」
「は?」
「騎士長リオンの所有するエトワールはガラクタで無いと判明した。暁月まで時間はある…。霊族へ渡す前にファントムへ招いてやろう」
(お父様の悪い癖が出た…)
「強制的に連れて来れば良い?招いても自分からは来ないと思うな」
「自分から来るさ。姫が攫われれば必ずな」 「フッ…。任務のついでに攫ってあげるよ」 「任務?」
「背信者の処刑、無駄に逃げる弱者をこの手で葬り去る任務の事だよ。特に
スカーフェイスの男をお父様と呼び最低限の敬意を払う。彼は先日、アルカディア王他と会合をした者だ。会合時にリオンの所有するエトワールはガラクタと評されていたが、状況が変わった。リオンと戦ったとある霊族の話を小耳に挟み、滾った。 罠と分かっていて飛び込む馬鹿は居ないが、身近な人物が囚われの身となれば飛び込む馬鹿は居る。スカーフェイスの男は音も無く悦に浸った。表情から察しての事だ。お父様の子は何としてでも息の根を止めたい背信者が居るらしい。お父様、直々の任務より優先順位が高い。
(女神も霊族も、弱者はどうだっていい。強者のみの世界こそ理想郷だ)
―――――― ―――
「あ〜あ引退したいなー」
「だったら俺様に錫杖を譲れ」
「駄目駄目、譲り先は決まってンだから」
訓練場の簡易休息スペースに寝転ぶタクトは大きな欠伸をして胸の内を謐く。直ぐ側まで来ていたリフィトはタクトの引退発言に驚きもせずエトワールを寄越せと言う。それもそのはず、引退と謐くのは普段からの口癖のようなもので一々反応するのも疲れると言うもの。
?「え、旦那引退するのか…!?」
「今の頭主様が引退したら俺もそうしよー かなって考えてる」
「錫杖はどうするんだ?俺に譲るのか?!」 「俺様だろ。オルクでは扱えん」
「何だとぉ!?」
「お前ら少しは引退を悲しめ…」
「分かったぜ、俺じゃなかったらエースに渡すんだな!あいつも強えから!!」
「その話は追々やるとして…」
一々反応する人間が一人居る。オルクだ。バカ正直に驚いたが一連のやり取りは今までで三度程行われており、これが四度目だ。タクトの引退よりも彼が持つ錫杖タイプのエトワールの譲り先の方が気になるらしく、本人からすれば少々落ち込む。
「リフィ準備は出来てるか?」
「はっはっー!技巧師に造らせた秘密兵器は完璧だ。俺様に任せろ」
「無茶だけはしないように」
「何の話だ?」
「霊族から欠片を奪い返す算段さ」
「ん?」
タクトとリフィトは何やら対戦術を画策しているようで霊族とファントムを迎え撃つ準備は完璧らしい。オルクは特に話を聞いてはいないので終始疑問符を浮かべていた。
因みに訓練場ではリオンとランスが組手に勤しんでおり、耳を澄まさなくとも戦闘音が聞こえる。時折、言い争う声も聞こえる…。 ――――――
天音Side
「天気が悪くなってきた…最近雨多い?」 「この世界はね、一度雨が降ると継続的に降ったりするんだ。この分だと、もう一雨来そうだね」
「へー…」
(変な世界…)
「天音は此処とは別の世界で暮らしてたんだよね?」
「うん」
「向こうだと雨は降らない?」
「雨が多い時期はあるけど…この世界とは違うかな、…」
ソプラの家がレコートにより大破したのでスコアリーズにある宿屋で天音達は宿泊していた。フェスト目的で来る客人や様々な街を放浪する旅人が主な利用客だ。実際、天音達以外の客人もちらほら見掛ける。スコアリーズにとって重要人物である事は間違いないのだが、宿代は一銭だって妥協させてくれない。
部屋割りは男女で別れているが一階を下れば憩いの場であるラウンジがお目見えする。天音とリュウシンはそのラウンジで他愛無い会話で過ごしていた。因みにティアナは勝手に女子部屋に入ってきた挙げ句、悪びれる様が無いスタファノを懲らしめている最中だ。
「そういえば昨日懐かしい音が聞こえてきたなぁ。リュートの音が!」
「聞こえてた?」
「やっぱり!リュウシンが弾いてたんだ」 「とある理由で、ちょっとね」
「気になる…」
「フェストが無事開催されたら教えるよ」 「開催されるよきっと!リュウシンの演奏また聞きたいな」
「いいよ。リュート取ってくる」
「ほんと!?待ってるね」
「あ、そうだ天音はアカメさんの所へは行かなくて良いのかい?」
「アカメさんは明鏡新星の合った場所で欠片と、にらめっこしてるってさ。鏡が元通りになったら……リュウシンが託された吟遊詩の本当の歌詞も分かる…よね?」
「うん…!絶対分かるよ。楽しみだな」
稽古見学から帰った後、天音は懐かしい音を聞いた。メトロジアに降り立ち初めて聞いた玲瓏たる美音が織り成すリュートの演奏を。あの日、強烈に惹き付けられた音を彼女は憶えていた。そこはかとなく呟いてみれば予想通りの答えを得られた。ただ、リオンが半壊させたリュートが何故手元にあるのかはまだ秘密らしい。
余程気に入っていたのか、天音は一度しか聞けなかった吟詠をそれとなく口ずさむ。リュウシンも弾き足りなかったのか、快く承諾すると楽器を取りに席を立った。
結果から言おう。リュウシンの演奏を聴く事は叶わなかった。理由を言おう。
「「!!?」」
「コレって!?」
「来た…天音は此処を動かないで!…って、あ〜動いても良いけど安全な場所に居てね」
「うん、ありがとう」
「行くぞリュウシン!」
「ティアナ、…」
(何時の間に…)
「それと、伝言だ。一応伝えておく」
「?」
爆発音が意味する事、敵襲。リュウシンは天音の方を振り返り結界が張られる宿屋から出ないように伝えるが、天音の表情を見て諦めた。天音はアカメから欠片が足りない、霊族が持っていると事前に聞かされており、それらを無視して宿屋で待てるほどお利口さんではなかった。
リュウシンの数メートル先にある曲がり角から、ティアナが飛び出して来た。俊敏な動きで先を行くティアナだが彼女の性格を鑑みれば態々リュウシンの元へ行かず、一人で宿屋を出る筈だ。妙だとは思っていても指摘はしなかった。理由が分かったのは天音から離れたタイミングで彼女が伝言を伝えた時。
天音の位置では二人の会話を聞けなかったが彼女の側に近寄る人物が居た。
「はや〜」
「スタファノ!…大丈夫?」
「へーきだよ。ティアナちゃんは照れ隠ししてるだけだから」
「あはは…」
「天音ちゃんは行かないの?」
「行くよ。戦えはしないけど私にも出来る事がきっとあるから!」
「立派だね」
「そう言うスタファノは行かないの?」
「オレ?どうしよっかなぁ…戦うのは面倒臭いしなぁ…。でも、そばに居ても良い許可貰ったから行くかも」
のそりと近付いてきた長耳の男、スタファノは過ぎ去って行くティアナ達を見送る。平然としているが彼の顔面には、くっきりと平手打ちを食らった腫れ後が残っており天音は顔を見るなり、ティアナに殺られたのかと理解した。 天音は居ても立っても居られない様子で意思を固める。敵陣ド真ん中へ行く訳では無く、あくまで自分の出来る範囲を見極め進む。
霊族もファントムも天音の事を知らないとは言え、見つかれば碌な事が無いと分かっているので十分な距離を保つつもりだ。
「先行ってるね」
「行ってら〜」
――――――
―回想―
「…!」
「行くの?」
爆発音の直後、ティアナは直ぐさま部屋の扉を開け出て行こうとするがスタファノに衣服の一部をちょんと引っ張られ立ち止まった。
「ティアナの邪魔はしない…から、そばに居させてほしい。お願い……!」
「フンッ…邪魔しなければ、あたしは何でも良い。あんたが何をしようと自由だ」
「!霊族が最後の一欠片を持ってるって。スコアリーズの皆が取り返そうと計画を立ててる」
「…」
「独り言〜。リュウシンにも教えてあげたら?」
彼女の側に居れば、自分の深層心理が分かるような気がしてならない。勇気を振り絞って願えばティアナはキッパリと一線を引いた。
長耳をピクリと動かし得た情報をティアナに伝える。ただの独り言であり気紛れの行為だった。ティアナも理解しているので敢えて聞き返さず、信じた。
―回想終了―
――――――
リオンを含めたエトワール使い等は訓練場に集まっていた。足並みを揃えたのではなく、偶々全員が居たのだ。訓練場は円形舞台から遠いが二つの場所は一直線上で結ぶ事が出来、何かあれば直ぐさま駆けつけられる位置にある。故に、招かれざる客達に最初に気付いたのは彼等だった。
「来たな…!」
(神器はあの人が持ってるとは限らない…)「リフィ分かってるな」
「嗚呼、霊族とファントムらしきアストを感知した。舞台の上だ」
「おーけー。八秒後に始めてくれ…!」
「なぁキャスも居るんだろ!早く闘いてぇ!おーーっぃ…?!エース??」
「…」
「お、おお…」
アスト感知の範囲は鍛錬を積めば広げる事が出来る。戦士の中ではリフィトが一番広範囲を感知出来るのだ。飛び出そうとするリオンを制し、タクトとリフィトが前へ出て最低限の作戦の確認を取った。
少しばかり不満げなリオンだったが、郷に入っては郷に従えと背中で語られ彼にしては珍しく留まった。
オルクはキャスとの熱き闘いを楽しみにしていたので堪えきれなくなり、大声で呼ぼうとするが途中で隣のエピックに鳩尾を殴られ、断念する。
「旦那行っちまったな」
「なんでリオンがタクトさんを旦那呼び?」 「何となく」
「叔父さん…それは?」
「貴様に教える義理は無い」
「…そうですか……」
「リフィト何持ってんだ?」
「技巧師共に造らせた秘密兵器だ!!」 「かっけぇ…!!」
「…くっ」
リフィトが手に持つ楕円形の物体はエトワール使いの無茶な依頼に対応した技巧師が超特急で作製した物で敵襲に当たっての秘密兵器だった。叔父に無視され心の中で密かに舌打ちするランス。口に出せば半殺しは免れないので仕方無くの妥協だ。
―――
円形舞台にて。
「む?!オルクの声が聞こえたような…!」 「ボクのエトワール何処かな!?!」
「暴れてやるぜぇ!!!」
ド派手に、とまではいかないが舞台上にキャス、ソワレ、コケラの三人が登場する。三者三様の目的が出来ており既にローグの描く陽動作戦とは違う結果になりそうだ。
三人は各々の行きたい方角へ行こうとしたのだが彼等の前に一人の男が現れた事で注意が削がれてしまった。
「君たち…態々舞台の所に行かなくても良いと思うな…。壊されたくないんだよね……」 「あ?建物は壊してなんぼだ!!」
「いや、言い方を間違えたかな?舞台を巻き込みたくないんだよね…爆発に!」
「「「!!?」」」
闘う前から気疲れしたような態度のタクトを三人は舐め腐っていたが彼の言葉が途切れた瞬間、盾変化で円形舞台を覆い尽くし守りの態勢に入ると間髪入れずに謎の物体が頭上で大爆発を起こした。三人は衝撃派で僅かに飛ばされるが爆発から己の身を守る盾変化が間に合っていたらしく然程傷を負ってない。
それもそのはず、頭上で爆発した物体は三人の位置とはズレていたのだ。
「っっ何すんのさ!」
「驚いた…だが大した事は無かった」
「まさか俺がこの程度の爆発で、くたばるとでも思ってたのか!?」
「思ってないよ」
?「チッ」
?(誘導された)
「霊族!?」
「確か…ビューさんと呼ばれていたな。何故彼が急に舞台の上に現れたのだ?」
「それは…」
「はっはぁっー!どうだ手榴弾タイプ!!」 「ポスポロスの技術を詰め込んだ武器だ。ちょーど円盤と耳飾りがあったもンでね。有り難く使わせてもらったよ」
リュウシン達が聞いた爆発音の正体は味方が投げた手榴弾タイプであった。最早ただの手榴弾では?と言うツッコミは無しで願おう。
盾変化を解除したタクトと爆発により生じた煙幕からアクトがガンを飛ばしながら舞台上に出現する。舞台付近に居たが舞台上には居なかったので突如現れた彼にファントム側も混乱していた。
舞台下には合流したリフィトが叫び、存在感を顕にする。アスト感知で場所は判明済みであっても正確な位置に手榴弾を投擲出来るのは彼の鍛錬の成果だ。
「オレを狙ったな」
「どう言う事だ?難しい事は分からん」
「二つ使ったんだ」
「派手な爆発に紛れて、二つ目をオレの近くへ飛ばした…避ける位置を誘導するように」
解説するとこうだ。リフィトは訓練場から二発の手榴弾を投擲した。普通の手榴弾であれば円形舞台へは届かないが、ポスポロスの機械仕掛けの技術と技巧師の器用な手解きにより生み出された手榴弾だ。仕掛けが作動し、見事狙った場所まて届いた。
一発目は広範囲に及ぶ大爆発でファントムの三人を撹乱し、ほぼ同時に放った二発目はアスト感知した霊族の居場所の手前に落ちるようにして小規模な爆発を起こし、霊族が避けるのに最適な建物として円形舞台まで誘導した。円形舞台を覆う程の盾変化を熟すタクトも初見の絡繰を使い熟すリフィトも熟練の強者だが、数秒の間で気付くアクトも中々の逸材だ。
「大正解!地下へは行かせんよ」
「俺様の凄さ思い知ったかッ!褒美に三発目をくれてやろう!!行け手榴弾タイプ!」「バカッ」
(盾変化が間に合わん…!!!)
?「とりゃぁーっ!」
「!?」
「オルク…」
「よく知らねぇけど、これで良いか?」
「フッ…本当に助かる」
調子に乗ってしまったリフィトは隠し持っていた三つ目の手榴弾を敵目掛けて投げた。 然し円形舞台の盾変化は解除したばかりで今、爆発すれば舞台は粉々になる。タクトが必死に舞台を守ろうとするが間に合いそうに無い。…そんな危機を救ったのは遅れてきたオルクだった。彼はエトワールの性質上、羽子板の様に両刃斧を扱ってきたので対処は容易い。爆発が起こる前に手榴弾を上空へ飛ばしてニカッと笑みを浮かべた。
「オルクでは無いか!息災か?」
「キャス!闘おうぜッ訓練場で待ってるぞ」「折角だ。闘いながら訓練場に行こう!!」「良いなソレ!」
お互いのエトワールを掲げ再会を喜び合うオルクとキャス。倒すべき敵同士である事は自覚しているが、まるで旧知の仲のような二人に重苦しい空気が吹き飛ぶ。満面の笑みで闘いながら訓練場へ向かった。
「ボクのエトワールどこ〜!?」
「!ランス、神器を見つけた。お前に任す」 「はいっ!やいファントム!!打刀タイプのエトワールなら此処に有るぞ」
「ホントだ!!!みぃつけた!!」
「勝手にバラすな」
「どうせ闘うだろ」
「暫しの共闘だな。付いて来い!」
(神器は僕が必ず取り返す)
「俺様の相手も見つけた。案外近くに居たな旦那!先行くぞ」
「頼む」
タクトはソワレが背負っている三叉槍タイプのエトワールを見つけ、舞台下に駆け付けたランスに報告した。彼はソワレの性格を吟味しリオンを指差した。打刀タイプのエトワールを前にすれば舞台から離れてくれると踏んだのだ。単純なソワレ、予想通りに動く彼女と闘うのはリオンとランスだ。
リフィトも含みのある笑みを最後に円形舞台を離れた。最後に残ったのはスコアリーズの戦士タクトとファントムの戦士コケラと霊族のアクトだけだ。
「で、オレと闘って勝てる気でいるのか?」 「さー。ソイツはどうかな」
―――――― ―――
ソプラSide
(そろそろ出るか……)
スコアリーズ、二回戦目が始まる―。
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