第4話 初めてのダンジョン配信


 迎えに来てくれた星野と共に、俺が菊川へと転生したダンジョンにやってきていた。

 ちなみにここはさいたま市という街で、このダンジョンはオオミヤダンジョンという名前らしい。


 それから道中で色々と聞いたが、俺の今の手持ちの金は912円。

 元の世界と比較すると、銅貨1枚が100円。銀貨1枚が1000円。金貨1枚が10000円。白金貨1枚が100000円って感じ。


 つまるところ菊川が抱えている借金3000万円というのは、白金貨換算で300枚ということで……。

 菊川がどれだけの借金を負っているのかを、俺はようやく知ることができた。


 正直未だに現状を理解できていないが、元の世界、体に戻れる保証がない以上、俺はこの菊川雅紀として生きていかなくてはいけないため、死ぬ気で3000万円を稼がないといけない。

 それに……元の世界に戻る鍵となるのは、ダンジョンであることも間違いないはず。


 未知だらけのこの世界で、唯一元の世界と同じなのはダンジョンであり、そして俺が転生した場所もダンジョン。

 借金がなくともダンジョン攻略は行わないといけなかった訳で、良い方向に考えれば一石二鳥って訳だ。


「よーし、いよいよダンジョン攻略だね! 気合いを入れて行こう!」

「……なぁ、ずっと気になっていたんだが、そのお面みたいなのは何だ? 何か凄い装備なのか?」


 星野は道中の車という乗り物の中から、この変なお面を身に付けている。

 ダンジョンに入るってタイミングでも身に付けているため、流石に気になって訊ねてみた。


「このお面は何の変哲もないただのお面だよ! ダンジョン内ではネット配信をするから、身バレ防止のためにつけてるの! このご時世、ネットリテラシーが一番大切だから!」


 色々と説明してくれたが、言っていることの半分は理解できなかった。

 『ネット配信』については、車の中で説明してくれたから分かる。


 写し出した映像を誰にでも見られるようにできる技術のようで、俺がミノタウロスを倒した姿も『ネット配信』によって世界に配信されていたらしい。

 あの俺の周りをふわふわと浮遊していた物体が、配信していた写映機だったみたいで、そうとは知らずにぶっ壊してしまったが……20万円はするものと教えてもらった。


 あの機械の持ち主が出てこなければいいのだが、出てきたら弁償しないといけない。

 まぁ3000万円に20万円が追加されたところで今更感はあるが、手持ちが912円しかない俺にとっては大きな痛手。


「そのお面に何の効果もないことは分かった。俺は着けなくても大丈夫か?」

「菊川さんに任せるよ。身バレしたくないなら着けることをおすすめするけど!」

「どちらでもいいなら着けなくていいかな。それじゃダンジョンに行こう」


 そんな会話をしながら、俺達はダンジョンの一階層へと入った。

 昨日入ったから分かるが、一階層から三階層まで出現する魔物はゴブリンや一角兎、ドロスライムと言った最弱の魔物ばかり。

 特に気合いを入れる必要はない。


「それじゃ配信もつけるよ! あっ、そうだ。配信では舞って名乗ってるから、ダンジョン内では、星野じゃなくて舞と呼んでね!」

「分かった。ダンジョンでは……いや、これからは舞って呼ばせてもらう」

「分かった! それじゃ配信を始めるからね! んんッ、『こんにちはー! マイマイチャンネルの舞でーす! 今日もダンジョン攻略配信をしていきますねー!』」


 可愛らしい声でそう自己紹介をした舞だが、不気味な仮面を被っているせいで怪しさ満天。

 見てくれる人が増えないと嘆いていたが、絶対にこの仮面せいだと思う。


「『そ、し、て……攻略の前に重大発表があるんですが――なんと今日からパーティでの攻略を行うことにしました! そのパーティメンバーは、昨日ミノタウロスを倒して話題になった菊川さんです!』」


 俺の紹介が入り、機械を俺の方に向けてきた舞。

 手では自己紹介をしろと合図を出しており、こっ恥ずかしいが自己紹介を行う。


「き、菊川だ。よろしくお願いする」

「『今日からは菊川さんと一緒に攻略するから、みんなもどんどんコメントしてねー!』」


 舞が背後から俺を写してくれており、早速現れた魔物と戦うことになった。

 全世界で見られていると思うと緊張するが、相手はドロスライムだし緊張していようが楽に倒せる相手。


 ぽよんぽよんと跳ねながら近づいてきており、ドロスライムなんかと戦うのはかなり久しぶりだな。

 使用する魔法は……【フレイムアロー】でいいだろう。


「【フレイムアロー】」


 片手を突き出し、ドロスライムに対して炎の矢を放つ。

 核を狙ったこともあり、【フレイムアロー】一発でドロスライムは蒸発するように消えた。


:すご

:レベル1なのに、本当に魔法使えてるじゃん

:てか、本当にレベル1なん?


「わわ! 一気にコメントが三件も来た!」

「コメントに返事をした方がいいのか?」

「同接30人程度じゃ、1時間に1件コメントが来るかどうかだったから全然分からないんだけど……返事をした方がいいんじゃないかな? というか、もう同接200人を超えてるんだけど!」


 そういうものなのか。

 ずっとソロだったから、こうして舞とダンジョンに潜るっていうのだけでも新鮮なんだが……顔も見えない人と会話をするっていうのは全くの未知の体験。


「もうレベルは1じゃない。ミノタウロスを倒して10上がったから、今のレベルは11になってる」


:魔法はどうやって使ったの?

:無手だし、魔法使いなん?


「魔法を使った方法は――秘密だ。無料でホイホイとは教えられない」

「あー……! 同接が10人減っちゃった!」


 一瞬答えそうになったが、有益な情報や面白い情報は隠した方がいいと思って隠した。

 お金を稼ぐには、同接……つまり視聴者数を稼ぐのが大事と舞は熱弁していたが、3000万円を稼ぐにはどこかで集めた視聴者から金を貰う必要がある。

 

 元の世界で俺が一番惜しみなく金を使ったのは情報であり、有益な情報は高値で売れることを身に染みて知っているからな。

 ここからは、公開する情報と非公開にする情報を上手く使い分けるつもり。


「攻略していれば勝手に人は集まるから、いちいち一喜一憂しなくていいだろ」

「配信初心者なのに、なんでそんなに達観していられるの!? こんだけ集まったの初めてだから、勿体なく感じちゃうんだけど!」

「その仮面を取れば集まると思うけどな。ちなみにこの舞だが……仮面の下は超絶美人だぞ」

「ちょっ!? 菊川さん、何を言ってんの!?」


:えっ?

:声が可愛いと思って見てたけど、顔も美人なん?

:うわー、めっちゃ見てぇ!

:なんかそう言われたら、変な仮面で顔隠しているのエロく見えてきた


 コメントの流れが一気に早くなり、俺じゃなくて舞に関するコメントが一気に増えた。

 ……うーん、このコメントとの会話は中々面白いな。


 顔や名前が分からないからこそ、思っていることを何でもコメントできる。

 悪口や汚い言葉なんかも書きやすくなってしまうだろうが、上っ面じゃない部分で会話できている感じがして俺は非常に好み。


「わわわ! 一気に五十人も増えた! どっから人が増えてるんだろ、コレ!?」

「人が増えているっていうか、人が減ってないんじゃないか? 何でもいいからとりあえず攻略を続けよう」


 まだドロスライムしか倒していないからな。

 期間が一年と限られている訳だし、攻略できるところまで攻略したいため俺は先を目指して歩を進めた。


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