ゴッドボード・オフライン

黒夜

第1話 ゲームの世界


ある日、この世界に現れた神はこう言った。


『この世を遊戯溢れる世界に変えて見せましょう』


その宣言と共に世界の環境、地形、生態系がガラリと変わり、この世に迷宮やモンスターが溢れかえるようになった。


現代の人々は突然の出来事に動揺し、しかし新たな世界に適応しようと団結した。


この世界を変えた神の名はアメノウズメ。


自分は異世界から来訪した神だと言い、世界を変革させた後、消息不明になった。


神の詳しい正体はまだ判明されていない。


その目的も行動原理も解明されていない。


ただ、神の正体を探りながら、人類は新たなこの世界にこう名前を付けた。


神の盤上のゲーム世界──『ゴッドボード・オフライン』と──。





高校の屋上で俺こと丘宮御和理おかみや おわりはお昼寝に耽っていた。あ~、眠くて仕方ない。

お昼休みで昼食を摂った後は屋上で一人お昼寝をすると決めているのだが、今日はなかなか寝付けない。


スマホのアラームはばっちりセットしたし、お昼に食べた妹の手作り弁当も問題なく完食した。

眠ることに憂いはないはずだがどうしてだろうか……。


うとうとと、頭を前後の揺らしていると、敵感知スキルに反応があった。敵感知スキルとはモンスターが近くにいると反応するスキルで、ほとんどの人間がこの感覚を所持している。

俺は眠気をどうにか堪えて起き上がり、晴れ渡る空を見上げた。


すると俺の頭上数十メートルをブルーワイバーンが飛行していた。ブルーワイバーンとはその名の通り青いワイバーンで竜種の下位種だ。普段は大人しく、人目の多いところに現れても滅多なことじゃ人間を襲うことはない。

たが、相手が襲ってこないからといって大人しくしている人間ばかりじゃない。

これはいい経験値になると思い、右手を下にサッと振り、メニュー画面を出す。

俺の視界に現れた半透明のメニュー画面から、アイテムボタンをクリックして自分が所持する直剣──アブダニールを出す。


手元にアブダニールが現れ、その柄をしっかり握る。この剣はある上位竜を倒したことでドロップしたアイテムだ。なかなかの耐久性を誇っているため普段から愛用している。

立ち上がり軽く屈伸運動をしながら鞘を床に捨て、俺は空に浮かぶブルーワイバーンに向かって跳躍する。


数十メートルの高さを助走なしに超えた俺は、上からブルーワイバーンの右翼に向かって剣を振り下ろした。


ズバッ!


剣の切れ味は凄まじく、一太刀で右翼を切断した。


ブルーワイバーンはグルルゥと悲鳴をあげながら広い中庭に落ちていく。

俺も自然落下に任せて中庭に降り、着地を決める。


「ごめんな? 俺の経験値になってくれ」


悲鳴をあげこちらを見つめるブルーワイバーンに向かって俺は歩いて近づく。

俺の接近を感じたのか、ブルーワイバーンは口に青い炎を収束させる。ブレスだ──。


俺は疾風スキルを発動させ、ブレスを放つ前のブルーワイバーンの隣に一瞬で移動する。風の恩恵を受けたスキルの効果だ。

俺を見失ったブルーワイバーンは首をこちらに傾けようとしてくるが、その前に俺がズバッとその首を切り落とした。


ブルーワイバーンの首が転がり、その瞳から光が失われる。

三秒ほど経ったのち、青い光の粒となってブルーワイバーンの体は消滅した。

経験値が入ったことを知らせるメッセージが表示さる。


ドロップアイテムは何もなかった。

俺は屋上に向かって再び跳躍して、置いてきた剣の鞘のところに向かう。

鞘にアブダニールを戻しメニュー画面を操作してアイテムボックスに戻した。


このゲームのようなシステムの世界は、俺が生まれる以前、神の登場によってもたらされた物らしい。

以前はメニュー画面もモンスターもいない平和な世界だったらしいが、俺は今のこの時代に生まれて良かったと思う。


この世界が好きだ。屋上から見える迷宮や綺麗な大樹などももともとこの世界にはなかった物らしく、昔の人はこの光景を見ることができなくて可哀そうだと感じる。

昔は地球温暖化などの環境問題もあったそうだが、世界樹やそれに続く大樹の存在によって解決されつつあるとのニュースもある。


世界樹たちは二酸化炭素をたくさん吸収してくれる。環境にやさしい存在とのこと。

俺には綺麗で大きな樹にしか見えないが、世界にとっては嬉しい存在みたいだ。


『グルルルゥー!』


遠くから聞き覚えのある声が複数した。声のする方向を見ればブルーワイバーンの群れがこちらに接近中だった。どうやら自分たちの群れのうち一匹が倒されたことに気付いたらしい。大変お怒りのご様子。

テレレン♪と放送の流れる音がした。


『生徒職員の皆さん、ただいまブルーワイバーンの群れが校舎に接近しています。戦える生徒職員一同はすぐに校庭に集まりブルーワイバーンの討伐をお願いします』


テレレン♪と音が響き放送が終わる。この学校だけではなく今の時代どこの家庭、施設にもモンスター接近感知器が設置してある。これでいつでもモンスターが接近することがわかり、奇襲を避けることができる。

それによって放送部もブルーワイバーンの接近を事前に生徒に知らせることができたのだ。


俺は少し残念な気持ちになった。どうせならこちらに接近するブルーワイバーンすべて、自分の経験値にするため倒したかったんだが……。

しかし経験値を求めるのは俺だけじゃない。


この学校の生徒も職員も自分のレベルを上げるためブルーワイバーンを討伐したくて仕方ないだろう。

ここで俺がでしゃばり、すべてのブルーワイバーンを倒したりしてみれば、一気に学園の嫌われ者になってしまう。


普段から一人で行動している俺は、誰かに嫌われてもあまり気にしない。

けど嫌われるより人畜無害な人種と思われるほうが何事も楽だ。

だからここは、大人しくしていようと思う。


屋上のベンチに座りながら校庭のほうを眺めていると、生徒職員がぞろぞろと流れるように湧きだした。

皆それぞれの武器を手にし、ブルーワイバーンを待ち構える。

そして一人の生徒が空高く跳躍し、ブルーワイバーンの一体に剣戟を浴びせたところから集団戦が始まった。


さきの高く跳躍した生徒に続き他の生徒も跳ぶ。身体能力が高い生徒がブルーワイバーンを地上に落とし、皆で一斉に仕留める作戦のようだ。

こういった集団戦の場合、手に入る経験値は自動的に均等に振り分けられるシステムになっている。


個人的に集団戦は苦手だ。

なにせ経験値が均等に配られる分、手に入る経験値はごく少々だ。

集団戦ばかりしているとなかなか自分のレベルが上がらない。

ソロで行動していれば経験値を独り占めできるうえ、戦いのセンスも磨くことができる。


集団戦だと周りに気を配りながら戦うことになるので、自分の戦い方を周りに合わせた消極的なものにしなければならない。

個ではなくチームプレイを重視した戦い方はカッコいいが、自分で進んでやりたいとは思わない。


俺はただ静かに、戦況を眺め続ける。






名前:丘宮御和理

歳:15歳


レベル:156

加護:???


HP:6500

腕力:1200

敏捷:1020

知力:905

防力:1500

魔力:600


所持スキル:いろいろ……。

ユニークスキル:???

魔法:???

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ゴッドボード・オフライン 黒夜 @fujiriu

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