第15話 一度なら偶然で済ませられるが、二度目となれば……
町の門まで到着し、門番のグレッグにプリムラの事を説明した。といっても本当の事は言えないので、マリーと同じで村の幼馴染という事にした。当然グレッグは訝しんだが「お前さんの連れなら問題無いか」とあっさり通してくれた。因みに通行料はきちんと払ったとだけ言っておく。
急ぎ報告をしなければと思い、早足でギルドへと向かった。
「あっ、レオンさんにマリーさん……と、そちらの方は?」
ハンナにもグレッグにしたのと同じ説明をした。ハンナは「こんな綺麗な人が二人も傍にいるなんて、レオンさんは果報者ですね」と言われた。疑う事を知らないその清らかな心を、褒めればいいのか心配した方がいいのか……悩ましいな。個人的にはハンナはそのままでいて欲しいが。
「それで今日の成果はどうでしたか?」
「ええ、とても手強い魔物と遭遇しました。図鑑に
そもそも、ギルドにある図鑑は周辺に生息する魔物しか掲載されていない簡易版だ。王都に行けば魔物大全集とかあるのだろうか?
「! わかりました、では買い取り所の方へ」
俺の言葉で察したのだろう。
「おう! 来たか坊主ども。今日はどんな珍しいモン持って来たんだ?」
買い取り所に着くと、バルガスが満面の笑みで迎えてくれた。強面の顔の所為で子供が見たら泣き出しそうだな。
「ああ、こいつだ」
そう言って、虎の首と胴体を取り出した。
「なっ! こいつは「アサシンタイガー」じゃねぇかっ!」
バルガスが叫ぶと、周囲の作業員がざわつき出した。
「あれがアサシンタイガーか、初めて見た」
「俺もだ」
驚きと戸惑いの溢れる作業場に、バルガスの怒声が響きわたる。
「誰か支部長を呼んで来いっ! 大至急だっ‼」
バルガスの怒号を聞いてしばらく呆けていた作業員だが、言葉の意味を理解して慌てて部屋を飛び出して行った。
「バルガスさん、こいつはそんなに珍しいのですか?」
「珍しいのは勿論だが、それよりも問題なのが……」
一旦言葉を区切り、大きなため息をつきながら、
「こいつらは滅多な事では縄張りを変えないんだ、森の奥深く――樹海の様な場所がこいつらの縄張りさ。そしてこの国には生息していないんだ」
そう言った。つまり、アサシンタイガーがあの場所に居たのは、
「国境を越え、あの森に来なければならなかった「何か」があった?」
その時、奥の扉が開き支部長ライアンが現れた。
「やあ、レオン君。仕事が早くて助かるよ」
穏やかな口調だが、表情は険しい。
「それが良い事なのか悪い事なのかは、分かりませんけれどね」
「それは勿論両方だよ。報告が早ければ、それだけ準備の時間が作れると言う事だからね。それと同時に『大氾濫』の可能性が高まったという事でもあるがね」
準備不足で戦う事になるより遥かに良いだろう。
「王都にあるギルド本部に応援を要請した。近いうちに兵士や冒険者が増員されるだろう。それまでは君達のパーティが頼みだ」
「頑張ります」
しかし、王都の冒険者か……どの程度のレベルか興味あるな。
いつも通りに残りの魔物の素材を渡し、昨日の分の代金を受け取ってこの場は解散となった。
早めに切り上げて戻った事で、日暮れまでは未だ時間がある。使った回復薬の補充がてら三人でショッピングを楽しんだ。服を選ぶのに少々時間がかかったが、黙って耐えるのが男というものだ。二人でこれなのだ、三人になったらどうなる事やら……
宿に戻って、女将のポーラに一人分追加で泊まりたいとの旨を伝えたら、問題ないとの返答だった。
案の定俺達が泊まっている部屋に入ると「この様なお部屋で寝泊まりするのですね!」と、目をキラキラさせて興奮していた。
夕食の時に「どれから食べればよろしいんですの?」とマリーに聞いていた。マリーは「好きな物から食べていいのですよ」と優しく答えていた。
そして部屋に戻り夜も更けた頃、不意にマリーが立ち上がった。
「では、私はしばらく外に出ていますので……」
マリーが気を利かせて言ったセリフだが、プリムラが不思議そうな顔をした。
「どうしてマリーが外に出る必要がおありになりますの?」
「えっ? それは……これから旦那様とプリムラが初夜を迎えるからですよ」
「ええ。ですからワタクシが初夜を迎えるのと、マリーが外に出る事に何の関係がおありなのですか?」
「?」
「?」
会話がまるでかみ合っていない。どうやら初夜に対する認識――生まれと育ちの違いが出てきたな。
「マリー。君の常識では、初夜は夫婦二人きりで迎えるものだと、そう思っているね?」
「はい。それは当然だと思います」
普通の家に生まれればそう教わっているのが常識だ。
「プリムラ。君の常識では、初夜に未届け人……つまり人に見られながら行うのが普通だと思っているね?」
「ええ。でなければしっかりと初夜を迎えられたかわからないではないですか?」
簡単に言えば庶民の生まれか、貴族の生まれかの違いだな。
「これで分かったと思うが、二人の認識の違いは、生まれや育ちで変化するものだ。プリムラ、これから夫婦の契りを交わすわけだが、マリーが居ても問題無いな?」
「勿論ですわ。母や城のメイドからそのように聞いていましたので。てっきりマリーもそのつもりかと」
今のマリーの服装は、寝間着代わりのメイド服なので、尚更そう思ってしまったのだろう。
「そう言う事だマリー。君さえ良ければ同席して欲しい。俺としても君をのけ者にしているようで気が引けてしまう」
「わかりました。ご一緒させて頂きます」
何とも奇妙な感じになったが、これからもこの方向でいくのだろうか? まあ、生まれの違いどころか世界すら違うのだから『私達らしさ』という事でいいだろう。
「さあ、ワタクシはどうすればいいのかさっぱりですので、あなた様に全てお任せ致しますわ」
そう高らかに宣言するプリムラ。そんな所も愛おしく思うのは贔屓目だろうか?
プリムラを抱き寄せてキスをする。
「ん……あなた様……」
顔を紅潮させ、潤んだ瞳で見つめてくるプリムラ。彼女の服に手をかけ、優しく脱がせていく。因みにプリムラの服は、この町で買ったワンピース風の衣装だ。これが王侯貴族の者が着る様な豪奢なドレスだったら、流石の俺でもお手上げだったな。それこそマリーに助力を仰ぐ事になっただろう。
生まれたままの姿になったプリムラの肩に手を置き、ベッドに優しく横たえた。
どれ程時間が経ったのだろうか。数分だろうか? それとも数時間か? 時間の感覚が分からなくなる程に濃密な時間を過ごしたという事だろうな。
俺もプリムラも、荒い息を吐きながら情事の余韻に浸っていた。
「……ワタクシはしっかりとお勤めを果たす事が出来たでしょうか?」
不意にプリムラがその様な事を言い出した。何を言い出すかと思えば。
「問題無かったよ。俺もそこまで経験があるわけではないが……これは『夫婦の共同作業』だ、一緒に上達出来るよう頑張ろう」
「ふふ、そうですわね。では、次の方が待っていますので、早速頑張って下さいな」
彼女が何を言いたいのかは直ぐに察する。
「……いいのか?」
「ええ、勿論ですわ。ワタクシ達は『家族』です。遠慮など不要ですわ」
他者にも気を配れる良い娘だな。今は自身の事で精一杯なはずなのに。プリムラを嫁に出来て、俺は果報者だ。
「マリー」
呼ばれたマリーは、ビクンと肩を震わせた。
「聞いていたのだろう? 次はマリーの番だ」
「い、いえっ! 私は……」
マリーは語尾を
するとプリムラが追撃をかける。
「ワタクシだけ見られるのは不公平ではございませんか? 家族なのですから、平等にしませんとね?」
プリムラにそう言われてしまってはどうしようもない。マリーは観念して覚悟を決めたのだろう、メイド服を脱ぎ、ベッドに侵入してきた。
「あ、あのっ、恥ずかしいので出来ればそんなに見ないで欲しいのですが?」
最後の抵抗と言わんばかりに、そうお願いするが、当然プリムラの返答は、
「却下ですわ♪」
とても素晴らしい笑顔だった。
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