第7話 初めての討伐依頼 初回なので、少し張り切ってみました

「ゴブリンは耳だけ取って、後は証明部位を取って、残り全部アイテムボックスに入れれば効率がいいかな」

 城門までの道すがら、マリーと軽く作戦会議を行う。

「そうですね。普通なら大きな荷物になり行動が制限されてしまうため、良くて数匹が限度でしょうが、私達は問題ありませんね」

 やはりアイテムボックスを要求したのは正解だったな。

「ところで旦那様、先程の狼藉者ろうぜきものを倒したあの技は? 普通に殴るだけでは骨までは折れないと思うのですが」

「ああ、あれは「魔力」を腕に集中させただけだ。技と言う程でもないさ。それに完全に制御出来たわけではなかったな。おかげで過剰に魔力をまとわせてしまったよ」

 そう。俺があの男相手に試したかったのは、魔力の行使に関してだ。本当なら「ファイアーボール」とか「ウィンドカッター」みたいな魔法をぶっ放してみたかったが、流石に屋内で使用するのは躊躇ためらわれたよ。悪い事で目立つ気はさらさら無い。

 しかし……相手の拳が砕けるとは思ってもみなかったな。いや、初めてにしては上出来と考えるべきか? 一応、成功はしているわけだし。どちらにしろ、これからの戦闘で練度を高めるとしよう。

「ところで、マリーの世界では「魔法」とはどんな扱いだったんだ?」

「そうですね……誰もが扱える便利な力、でしょうか」

 誰もが扱える……か。もしも元の世界に魔法が有ったのならば……一体、俺はどの様な人生を送っていたのだろうな。

「討伐初日ではあるが、日が落ちるまで粘ってみたいと思う。どの程度稼げるのか確認したいし、鍛錬も兼ねてな」

 初日からやり過ぎかと思うかもしれないが、むしろ初日だからこそだ。ここで問題点や改善点を割り出しておくのが肝心だ。修正する時間がたっぷりとある。

「それがよろしいかと。私も色々と試してみたいと思います」

 マリーも乗り気で何よりだ。そうこうしているうちに城門にたどり着く。

「おっ、どうやら無事に登録出来たようだな」

 門番のグレッグが俺達を発見し話しかけてきた。

「その節はお世話になりました。お陰様で冒険者登録できましたよ。ありがとうございます」

「いいってことよ、ところでこれから仕事かい?」

「はい、森へ行って魔物の討伐を」

「そうか、森はあっちの方向だ、見えるだろう?」

 そういってグレッグが指を指した方向には確かに森が見えた。そこまで遠くはないな。

「それとあまり奥へ行くなよ? 厄介な魔物がいるからな」

 とりあえず肩慣らしを兼ねているからな、調子に乗って奥まで入り込まないように注意せねばな。

「はい、気を付けます」

 そうして俺達は真新しいギルドカードを見せて外へと出る。歩く事、十五分程で森の入り口についた。思ったよりも早くついたな。以前より歩くスピードが上がったような? そこでふと思い出したが、神によって若返ったし筋肉も付いた。それならばこの速度にも納得がいくというもの。

『森』といっているが、木が所々生えた草原というのが正解だな。見渡しも悪くない。

「敵に囲まれないようにだけ気を付けていこう」

「はい。お互いに注意しましょう」

 森へ入って間も無くして、マリーが足を止めナイフを抜き戦闘態勢をとった。それに倣い俺も槍を構える。

「足音がします……恐らくゴブリンですね」

 すると目の前に現れたのは、子供位の身長、緑色の肌、頭に一本の短い角……想像した通りのゴブリンの姿だった、しかも二匹。ここは各個撃破だな。

「はぁっ!」

 先手必勝! 素早くゴブリンに接近し力強い踏み込みからの一閃! 喉元を一突きし一撃で仕留めた。うむ、我ながら上手くいったな。同時にマリーの方も敵を片付けていた。

「さて、右耳だったな」

 素早く討伐部位を切り取る、さてこれをどうするか……何か手頃な物が――あったな。

「これに入れておくか」

 モブオから譲り受けた――もとい奪った財布型の子袋。これに入れよう。ちなみに中は小銭しかなかった。小銭をアイテムボックスに移して討伐部位を入れた。

「ゴブリンの死体はいかがいたしますか?」

 そうマリーに問われた俺は、

「ゴブリンの死体は素材にならない。通常ならそのまま放置するのだろうが、今回は有効活用させてもらう。撒き餌に使おう」

 血の匂いを撒き散らし、魔物をおびき寄せる作戦だ。森の入り口でやれば大量の魔物に囲まれる心配も無く、魔物を探し回る手間も省ける、一石二鳥の作戦だ。と言う訳で早速始めるとしよう。

 ゴブリンの死体を見晴らしの良い場所に放置する。魔物が集まって来るのを木の影に隠れて待つ。すると予想通りにグラスウルフが三匹寄ってきた。

 さて、こいつ等で少々実験させてもらうとしよう。マリーにアイコンタクトを送り、タイミングを合わせ飛び出す!

 狼たちはこちらに気付き振り向くが、既に槍を突き出し一匹を仕留めた。マリーも一匹倒しているが、俺の方が次の攻撃に移行するのが早い!

 二匹目も素早く槍を突き刺し難無く仕留めた。うむ、目論見は成功したな。

「旦那様の飛び出しが異常な速さでしたが、何かしたのですか?」

 討伐部位を集めながらマリーがそう問いかけてきた。

「ああ、今度は足に魔力を纏わせ、脚力を強化して突撃してみたが、思った以上に効果的だったな」

 必要な部分に魔力を纏わせてパワーアップ――身体強化だな。この技法を使えば戦闘の素人である俺でもある程度戦えるな。これを基本戦術としよう。

 続いて現れたのは恐らく兎……キラーラビットだろう。

「恐らく」といったのは俺の知っている兎と違い過ぎるから。大型犬並みの体格、短い耳、だがモコモコの体毛、鋭い前歯など、見知っている姿に似ている部分もある。

 高いジャンプからこちらに襲い掛かってくる! だが、

「空中(そこ)に逃げ場はないぞっ!」

 向かってくるキラーラビット目掛けて槍を突き出す。キラーラビットは避けることが出来ず喉元を貫かれる。そして地面に落ちて動かなくなった。

「よし。この調子でガンガン行くぞ」

 そうして日が暮れるまで魔物と戦い続けた。しかし、魔物の素材の為にまたしても「ファイアーボール」を放てなかった。魔物を黒焦げにしてしまったら、素材が無駄になってしまうからな。

 俺は……いつになったら「ファイアーボール」を使えるのだろうか……。早く……派手で格好良い魔法が……使いたい……。





「そろそろ帰ろうか」

 空を見上げると、日が傾き夕暮れの時間が近付いて来た。

「はい、ですが少々狩り過ぎたのでは? 討伐部位も袋に入り切りませんし……」

「まあ、少々張り切ってしまったのは認めよう。それと町に帰ったら大きな袋を購入せねば……」

 モブオの財布程度の大きさじゃどうにもならんか。まあ、体力的には余力も残しているし、問題はないだろう。明日からはもっとゆとりを持って狩る事が出来るはずだ。

「最初からアイテムボックスに入れてしまうのは駄目なのですか?」

 というマリーの問いに、

「アイテムボックスの価値がわからない現状でそれは避けたい。希少性が高いとなれば、殺してでも奪おうとする輩が現れるやもしれない」

 更に言えば、俺の所持するアイテムボックスは指輪型だが、それが一般的かどうかも調べなければな。とはいえ今回は代案もないので仕方がない。

「入りきらない分はアイテムボックスに入れるとしよう。さてさてどれ程の値が付くかな?」

 正確な時間は分からないが、およそ3~4時間くらいか? 時計が無いのは不便だな。どうにかして手に入れる事はできないものか。

 撤収作業を素早くこなし帰路へ着く。町の門まで辿り着いた時には、空はすっかり茜色に染まっていた。何とか日が落ちるまでに帰ってこられたようだな。

「よう、帰ってきたか」

 行きと同じ様に、グレッグが話かけてくる。しかしこいつは何時休んでいるんだ?

「グレッグさんも、お疲れ様です」

「な~に、これが俺の仕事さ。お前達も若いからって無茶をせず、しっかり休めよ」

「はい」

 グレッグとの会話もそこそこに、冒険者ギルドへと向かう。中に入ると先程訪れた時よりも賑わっていた。依頼を終えた冒険者達でごった返していた。受付嬢のハンナも忙しそうだ。少し待ってから受付に向かうか。

 一段落して人も減った頃合いを見て受付に行く。するとハンナが笑顔で迎える。

「レオンさんにマリーさん、お帰りなさい」

「只今帰りました。早速で申し訳ありませんが、討伐部位はどこに出せば?」

「はい、こちらに提出してください」

 そういって金属製のトレーを出してきた。とりあえず子袋分から出すか。

「うわ~……大量ですね」

 これくらいで驚いてもらっては困る。

「実はまだあるんですけど……」

「? それでしたら、ここに出していただければ……」

「ここに乗り切るかわかりませんが、いいですか?」

「えっ?」

 驚くハンナを尻目に、アイテムボックスから残りを取り出す。人が減っている今なら、ばれたとしてもそれ程の騒ぎにはならないと踏んでいるさ。

「こ、この量は⁉ それに今どこから……まさか……?」

 呆けていたのは僅かな時間だった。

「す、すみませんでした! 直ぐに査定を始めますね……皆、手伝って! 数が多いから!」

 そう言って同僚に手伝いを頼むハンナ。流石に一人では捌けない量だったか。

 時間にして十分程だろうか。集計作業が終わり、ハンナが結果を報告する。

「ゴブリン一匹が100G、それが25匹、グラスウルフが200Gで20匹、キラーラビットが150Gで20匹……合計9500Gになります。凄いですよ、新人の方がこれだけ持ってくるのは」

 別のトレーに今回の報酬が載せられ、受付に置かれた。どうやら良い感じのようだ。確かに新人があれ程狩る事はないだろうな。

「それと、レオンさんとマリーさんのお二人は、今回の功績で『Dランク』になります」

 何やらランクが上がったらしい。まあこれも狙い通りだ。『初日からDランクに昇格した新人』となれば話題性は抜群だろうよ。

 おいおい、目立たない様にするんじゃなかったのか? とお思いの諸君……説明しよう!

 俺が過去に言った「目立つ行動」とは、ドラゴンを倒したり、最強クラスの冒険者を倒したり等、明らかに異常と言える戦果を挙げる事を指している。しかし今回やった事は、底辺冒険者を殴り飛ばす、少し多めに魔物を倒す、この二つだ。

 まあ、多少やり過ぎた感は拭えんが……それでも誤差の範囲で済ませられる程度だろう。だから今回の事は、俺的にはセーフ判定を下したいと思う。

「凄いですよ! 初日でランクアップは初めてですよ!」

 興奮しながらハンナが大きな声でそう言った。ギルド内に居る人々がこちらを注視していた。よしよし、これで知名度が少しは増えるだろう。少し……だよな?

「ところで、素材の提出は裏手に行けばいいんですよね?」

 さて、金を回収し次の目的地へと向かうとするか。

「はい……あ、良ければご案内しますよ?」

「いいんですか? こちらとしては助かります」

 どうやら一緒に来てくれるらしい。

「担当者に説明が必要ですからね……」

 まあ、このまま行けば大事おおごとになるだろうな。もっとも、しっかりと説明した所で、結局騒動になるのは避けられんだろう。

「では、行きましょうか」

 こうして俺達は裏手にある『素材買い取り所』へ赴くのだった。

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