コンカツ紀
千織
第1話 彼氏と別れる
東日本大震災で、電気が止まり、余震が続き、これから人生どうなっちゃうんだろう……と皆が不安になっている最中、スマホの貴重なバッテリーを使って、私は東京の友人に彼氏の愚痴のメッセージを送っていた。
「なんか、もう別れようかなって思う」
「五年かぁ、まあ付き合った長さじゃないよね。ってか、地震大丈夫? テレビだと津波とか工場の火事映像とか、すごいけど」
「電気は止まってるけど、こっちは大丈夫。水が出てるから切羽詰まってないし。むしろテレビつかないから、何が起こってるか全然わからない」
街から明かりが消え、夜は真っ暗だ。
昔の人が、もののけを想像した気持ちがよくわかる。
さすがにバッテリーが気になって、やりとりをやめた。
翌日、彼氏と一緒にスーパーへ買い出しに行った。
スーパーは入場制限がされ、長蛇の列だ。
全品100円にされている。
大きなスーパーだったから品物はたくさんあった。
いざ、買おうとすると、そんなに買う気になれない。
他の人も買い込んでいる様子はなかった。
はしゃいでいる子どもが、車の侵入を防ぐための小さな鉄棒みたいな柵に乗っかろうとしている。
近くのお兄さんが注意していた。
お兄さんは赤の他人のようだが、そうやって人の子どもまで気にかけるなんてスゴイなと思う。
帰り道、知り合いに会った。
良かったらこれどうぞ、とジュースをくれる。
なんで?
これから、食べ物とか無くなっていくかもしれないのに、どうしてそんな気持ちになるのだろう?
自分は、そういう根っから優しい人間ではない。
こういう時にますますそう強く感じる。
彼氏は一人暮らし。
私は実家暮らし。
彼氏のアパートに寄った。
そして、こう言われた。
「親から、東北はもう駄目だろうから、戻って来いって言われたんだ……」
駄目、って何だ。
親から、って何だ。
いつもふわふわしていて、自分が無い彼氏の言動にイライラしていた。
「……わかった、別れよう」
即決した。
彼はこれを機に、自分の地元に一緒に来て結婚しよう、と言いたかったらしい。
私は、地元の人たちの人間性が好きだ。
彼氏より、地元で生きることを決めた。
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