商人ジノ放浪記

らくしゅ

宿場町 いち

俺を奴隷落ちから救ってくれたのは、異世界から来た。商店コンビニスズキ、経営者の蛍と店長と言う世話係の花桜。相談役の那由他。


俺はこの世界を観察すべく雇われた。条件は1日銀貨1枚、10日間は、行商人に化け。布小物を背負い村や街を巡り、10日過ぎにコンビニと繋がる湯屋に戻り自室で休む。


集計 売り物を入れ替え補充、異世界の道具を忍ばせた帽子を被りまた出立する。今回も日の出から歩き初め、途中何ヵ所かの休息場で足を休め。疲れ重くなる足取りを急がせ何とか野宿は避けられた。東西南北 街道が5本交わる大きな街へとたどり着いた頃には、陽も沈み辺りは薄暗くなっていた。奴隷の時も流民生活も基本歩きだが、半日以上の長歩きは…疲れる。


さて今夜の宿は、素泊まりか飲み屋兼宿屋か荷物も大きいのは、背負い袋だけだ。邪魔には成らない。古くから街道が、重なり交流で栄えた町は、賑わっていた。灯りの魔石が、灯る戸口の開いた賑やかな一軒目を覗いてみたが、防具や武器を身に付けた柄の悪そうな男達が、行商人姿の俺を見て手を振り追い払う。厄介事は、避けよう。


2軒目は、満室で受付の親父が、反対路地の商人達が、泊まる宿を教えてくれた。教えられた道筋を歩き宿に着くとそこは、大部屋素泊まり。夕飯と少し酒も飲みたいと言えば、向かいに軒を並べる。飲み屋で食べてから来いと言われた。数件ある飲み屋を眺め歩き、入り口で煮込む鍋の匂いに引かれ近付けば、らっしゃいと俺と似た年頃の男に声を掛けられる。


「猪の筋煮込み、小銅貨5枚だよ。どうだい1杯…毎度〜おひとりさ〜ん。好きな席に座ってくんな」煮込みの匂いに釣られ頷くと奥からも元気な子供の声が、俺を迎える。家族で店をやっているようだ。奥角のテーブルに座り商売品が、入った背負い袋を奥横に置き縛り口を確認する。帽子に仕込まれた骨伝導イヤホン。仕組みは、判らんが、遠くに居る花桜の声が、聴こえる『ジノさん〜商品は、少し無くなっても袋のお代わりは、沢山有るから食事時間は、リラックスしてくださいねっ』まだ慣れない商売。持ち去りや置き引きについ気負ってしまう。


髪の短い少年が、煮込みを置き支払いを待つ。銅貨(1000)を1枚渡しワインも頼んだ。頷き少年が、厨房へと向かう。その後ろには、店を入る時に俺の後を付いて来た。店公認のパン売りが、籠に入れている硬いパンをもじもじと差し出す。こちらの世界の商売は、1品商売と多くの商品を扱う商会に分かれている。それを言うなら俺も商会か。微かに何かが、右耳から聞こえる。聞き取れず音量を上げた…タイミングで花桜のそのパンが、欲しい〜が、大音量で耳に響く。思わず声を上げそうになり息を飲み込んだ。


首を傾げ俺を見る子供に何でもないと手を振ると追い払われたと思ったのかしょんぼり出口に向かう。慌てて呼び止めパンが、欲しいと言えば、くるりんと踵を返しニコニコと籠を差し出す。中には、俺の手のひらサイズの見慣れた硬いパンと酸っぱいパンが、あり硬いのを3個に苦手な酸っぱいのを1つ買う。見れば酸っぱいのが、1つ残りそれも買い銅貨を渡す。小銅貨9枚釣りの少銅貨1枚は、駄賃だと言えば、子供は何度も頭を下げ帰って行った。


背負い袋より白い大きな綿袋を出しパンを詰め。背負い袋の上に乗せる。花桜に渡された綿のテーブルクロスを敷き硬いパンを小型ナイフで薄く切り分け。さてとスプーンを持ち猪煮込みをひとくち。じっくり野菜と煮込まれた猪の肉は、ホロリと口の中でほどける。薄く切り分けたパンを煮込みに付け食べるとそれも旨かった。


ワインと温かい煮込みとパンを食べ満足した俺は、宿へと身支度を初める。ワインピッチャーを持ち店内を回っていた。女将らしき女が、近寄り旨かったかいと俺に声を掛る。空の器を見て奥へお会計だよと声を掛ける。先程の少年が、銅貨を女将に渡し、煮込みとワインで小銅貨7枚だねと釣り銭を受け取る。


向かいの宿へ行こうと腰を上げるとまぁまぁ急ぐ事も無いだろう。とカップにワインを注ぎ奢りだよと言い、女将が、テーブルの向かいに座る。


面倒事かと気構えるとパンを入れた大きな綿袋が、欲しいと言われた。右耳から花桜の声が聴こえ 笑顔…笑顔だよの励ましに引きつる口元をピクッつかせてしまう。女将の要望を聞きながら荷をほどく。揚げ油を濾す綿布が、欲しいと言われたが、全て袋に仕立ててあり綿布は、無いと言えば、その大袋で良いとパンを入れた大袋を指差す。


ならばと1番大きな綿袋を取り出し見せる。入り口に居た店主も見に来て在るだけ欲しいと言われた。値段を聞かれ合成皮に刷り込んだ。リストを出し銅貨1枚と伝えると女将は、俺の手元からリストをひょいと取り上げ。リストを見るが、文字が読めない女将は、入り口に座り店主と話をしている。少し身なりの良い青年を呼び付けリストを読み上げさせる。


ぶっぶっ言いながら上から商品名と価格を読み上げる。青年 は何度も女将に止められ、その都度…俺はその品をテーブルに並べた。女将がお気に召したのは、シュシュと手荒れ用のクリームと深いポケットが、付いている厚い腰エプロン。

いつの間にか厨房から見に来た娘達や何事かと覗き込む商人達に囲まれている。


女将の買い上げ品は、綿袋 手荒れクリーム 小さい娘が、抱き締め離さくなった。薄く綿を入れてる見本だった。猫の縫いぐるみ銅貨1枚など少銀貨1枚分。花桜の指示で、初商売サービスにシュシュを1袋(12個入り )を女将に渡すと遠巻きに見ていた娘達が、袋を受け取り好みの色を選び始める。あの煮込みを運ん来た少年も手首に巻き姉達と笑い会っていた。


やり取りを見ていた商人達も脇に出していた腰ポケットとトートバッグなどを買ってくれ。こちらは小銀貨3枚の売上げ。俺達にはサービスは、無いのかと言われ厚手の小さい茶巾袋を渡すと小銭入れに良いと喜ばれた。


価格表を読み上げた青年も腰ポケットを買い、作りの良さに勤める商会に並べても良い出来だと誉めてくれた。花桜のヨッシャが、耳元から聞こえ笑ってしまった。


品物を背負い袋に戻し 女将に礼を言うと今夜の宿は、有るのかと聞かれ向かいの素泊まり宿に行くと言えば、馴染み客のみ泊めているが、あんたなら問題無いだろう。4人相部屋で朝食付き銅貨5枚。小まめに掃除してるからキレイだよと笑った。


この世界の素泊まり宿の大部屋は、どこも薄汚れた板張りの寝床が並び、泊まり客の体臭にダニ避けの香を炊く者もおり入り雑じった独特の臭いは、慣れた俺でもツライもので、女将の申し出は、有りがたく。泊まる事になった。昔は誰でも泊めていたが、と少年の様な娘を見つめる女将の視線が、一瞬悲しげに曇り直ぐ元の女将の顔に戻る。


「身綺麗な客のほうが、揉め事は少ないからねぇ。客が店を選ぶなら店が客を選んでも良いだろ。こっちだよ」

女将に案内され2階に上がる。階段の先に廊下が、続き手前の部屋に案内される。4隅にあるベッド下には、荷物を横から出し入れする。板鍵の付いた棚が、設えている。板張りのベッドの上には、畳まれた寝具が、置かれていた。真ん中にテーブルと椅子が、置かれ新しくは無いが、手入れの良い小綺麗な宿だ。


「棚の板鍵は、無くしたら弁償金・金貨1枚。高い?…扉を丸ごと交換するからねぇ。厠と水場は、店裏だよ。お湯?有るけど…湯浴み?。お貴族さまかい。大鍋ひとつなら銅貨1枚だよ。夜は冷えるお湯は、後で手桶に入れて持って来るから拭くだけにして 明日共同風呂に行って来な」共同風呂の場所と市場の元締めの店を教えた女将は、立ち去り直ぐ戻って来た。


「宿泊代は、先払いで…3泊…15銅貨。確かに受け取りは、要るかい」宿の連泊先払いには、日付と受け取った代金を記載した厚手の板辺が、客に渡され退室時に宿へ返される。支払いの揉め事回避に小売り商でも使われており板辺の裏には、店の焼き印が押されている。回収された板辺は、まとめて職人が、表を削りまた利用される。

受け取り板は、湯と一緒に持たせると言い女将は、店へと戻って行った。✴️

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