学校 新メンバーデビュー作

創作集団「Literature」

がらぱご素/終わらない舞台

夢から覚めて


 一番最初に確かめる。

いつも隣に居るはずの彼女を

彼女は微笑みながら…

その白く、細い手をこちらに向ける

「おはよ、どうしたの?朝からそんな顔をして」

と、優しく問いかけた。

あぁ、良かった。今日も独りじゃない。

「ううん、なんでもないよ」

そう目を眇めながら答えた。

 彼女はとても優しい眼差しで私を見つめていた。

「ねぇ…昨日のまだ覚えてる?」

そう彼女は問いかける。昨夜、そう

私達は目で、唇で、身体で、心で

自分達を確かめた、身体を重ねて。

今の私は貴方と私を知っている、誰よりも、そう思った。余韻が冷めつつ外出の準備をする二人。


 私達は今日、死ぬ。それ以上でもそれ以下でもない、所謂、心中というものだろうか。

 今日死ぬというのにいつもの大学へ行く、そう、二人で。

外へ出ても私は何も楽しくはない、不快な程に居る人間、耳障りな雑音、それらを耐えつつも私達は深い街の奥の学校へと向かう。

 毎度の様な講義を終え、二人で食事をし、そして散策をする。台本のような進み方だ。何も無い生活だけれど、孤独でないとなると、嬉しい。

 残り少ない時間を噛み締めながら、私は歩く。

「貴方妙に今日は元気そうね」

彼女に言われた、そう言われると確かに元気なのかもしれない、最期だからだろうか。

「重荷が無くなったからじゃないかな」

あまり考えず返した。そして着いたのは、ただのさびれた公園。葉が茂り、風がそよぐ夕暮の中、他愛もない話をする。会話の中、突然静寂が二人の間を通り過ぎていった。よくある無言の時間、それすらも愛おしく思えてきた。

 夜に近づく頃、台石に乗りながら彼女が言った。

「もう、終わる?」

私は唾を飲み、考えた。

自分では長考したと思ったが、実際そうでもないようで、答えはすぐに出た。

「いいよ」

そう私は言った。

 彼女はそっけなく、恐怖の心がないようで、ただ

「そっか」

とだけ返した。

 手を繋ぎながら、最後の場所へ行く。

終わり、ただの終わり、そう考えた。

何故か私にも恐怖は無かった。


暗い道を進む、昼とは変わり、もう今は誰もが眠り着く夜になった。

二人は丘を登る、薄暗い、定間隔にある

街灯だけを頼りに。街を抜け出し野に出た時、頭上には十六夜の月があった。

二人ために用意された舞台のように。

観客は居なかった。


 野に座り込み、私は用意した薬を飲みあった。リスパダール、デパス、諸々…

飲みすぎて若干気持ち悪い。

横になり、月を見上げながら手を取りあう。

「私、全部が退屈だった」

胸の内を開ける。

「そんなこと、知ってるよ」

彼女は言った。

「貴方は優しいから、人と関わるのが億劫だったんだよ、私のために」

ーーーーちがう

私は私のために貴方を死なせた、独りで居るのが怖いから。けどそんなことを言える訳は無い。

「私の最初と最期は全部貴方のためだったよ……」

二人は手を強く握りあった、次第に世界が夢になっていく。

二人で一つの世界で。

「またね」

それに私は答えて言う。

「うん、ありがとう」

彼女は私の手を強く絡めた、二人の意識は消えていった。

月のスポットライトの下

暗い街の片隅、観客が独りだけの舞台には、今も無機質な少女が居る。

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