魔法科学と防衛士
資涼 ツナ
第1話
世界はある事件を皮切りに、急変を遂げることになる。
2025年に起きた、大規模な同時に多発した異界裂から現れた魔物と呼ばれる存在の襲来。通称、異界大侵攻。示し合わせたかのように、世界各地に現れた異界裂は、異界と呼ばれる別世界に直接繋がっており、この世界とは異なるもうひとつの世界として存在している。
これまでには異界裂の出現こそあれど、大体的な被害は無く、当時は何処からか謎の生命体が来るなどありえないとオカルト視する者も少なくなかった。
そのような油断から平和は突如として崩れた。
これまでに存在しえなかった魔物という脅威の襲来。これにより例外無く世界各国は大打撃を喰らい、やがて混乱の渦中に巻き込まれることとなる。
時は流れ10年後の2035年。世界は魔物が扱う魔法という未知の戦闘技術への理解を深め、対抗策を持ってして異界の脅威を排除せんとしていた。
「今、異界対策庁所属の
上空からアナウンサーがヘリから身を乗り出しそうなほど興奮した口調でリポートしている。
テレビからでもその迫力はひしひしと伝わってきた。
それを朝食を取りながら、ゆったりとリラックスしながら見る男が一人。名は
「おにぃ、いいの? もうこんな時間だよ」
ブロンドの柔らかな髪を持つ少女が煌矢を心配そうに見つめる。彼女は煌矢の妹の
ちょうど今起きてきたらしい。
そのニュースに見惚れ、時間を忘れていた。
「あぁ! やべぇ!」
「行ってらっしゃ〜い」
「朝飯はそこにあるから! じゃあ行ってくる!」
煌矢は足早に家を後にした。
一歩外に出ると既にあたりは迦具土隊を応援する声で溢れている。かつてない活気だった。
街中に設置された巨大ディスプレイもその活躍を大体的に映し出している。
そこに映し出されている街並みは、おおよそ10年前のものだった。家屋の倒壊など被害は多けれど、確かに懐かしさを感じるものばかり。
今となっては技術の進歩が進み、街並みも大きく変わっている。
街は異界からの魔物に対抗する為、様々なロボットや設備、新素材や一部の魔法が使われるようになり、以前のような木造建築は数を減らした。
代わりに、一昔前ならばサイバーパンクと言われていたであろう近未来的な建物や機能性に富んだ衣服が増えたように感じる。
「いつか俺らの故郷も……」
魔物により占拠された、かつての故郷を思い返していた。きっと、このまま異界対策が進み、押し返すのだろう。
そんなことを考えながら足早に学校へと向かう。が、もう間に合わないぐらいの時間に差し掛かっていた。
「流石に使うか……」
焦る気持ちからか、足取りは一段といつもよりも速くなる。
風魔法を使い、最短ルートで跳んで走ってを繰り返し、通っている学園まで辿り着く。
校門を通り足早に階段を登り教室の戸を開けた。
ここは日本
「おはよう、今日は早かったな。まあ、あと10分だけど」
友人の
「おはよ。……じゃあまだ寝れたな」
「おいおい……」
ひと安心すると、急に気分が酷く悪化してきた。車酔いに近い感覚だ。
最近は連続して魔法を使うと体調が崩れることがある。あまり気にしてはいなかったが、今日は顕著に現れた。
「……て、なんか、顔色悪いな? 今日は技工科が見学に来る日だから万全に挑みたいとこだが……無理すんなよ? とりあえず演習場にいくか?」
「どうせすぐ収まる。いこう」
既に大多数の生徒は演習場へ向かっているようだ。
技工士。技術と知識を持って防衛士の装備を造る職業。ここ日本神護学園には普通科の他に、防衛科と技工科が存在する。煌矢らは防衛科に属している。
「どんな技工士が良いんだ?」
「俺は可愛い子が良いな〜うへへ」
専属技工士は意向や互いの適性、性格を元に決められる。また、技工士側は防衛士の訓練演習を見学した上で相手を候補に入れることが出来る。防衛士はその中から一人を決める形をとることになる。
基本は防衛科の方が人が多いため、専属技工士がつかない人も出てくる。そうした場合や選ばなかった場合は学園支給の最新鋭の装備を扱うことになる。その為、こちらの方を使いたい人の割合が比較的多いのだとか。
「可愛い子か……まず女子がいるイメージが無いな。それに、装備だって最新鋭のものを使った方が戦闘力や生存率は上がるだろ。その点はどうなんだ?」
「……んー、やっぱ特注ってのがそそるよな。唯一無二の俺だけの装備! いや、痺れるねぇ」
「分からなくは無いな。俺も専属技工士が欲しい側だし」
「どんな専属技工士が欲しいんだ?」
その問いを投げかけられたあと、少し考えた後に出てきた答えは意外と単純なものだった。
「そうだなぁ、面白いヤツとか」
「面白いヤツ……? 俺みたいな?」
「まあ……?」
演習場へ向かう準備をし、同時に目の前に出現した白い異界裂の中へ入る。
これは異界につながっている異界裂がこの世界に出現するメカニズムを応用したもので、中には人工の世界が用意されている。プログラムにより作られた魔物や建物を自由に出すことが出来るハイテク空間だ。
また、学園生はある程度の広さがある人工世界を与えられる。その為、中にはこれを自身の部屋のように扱う者もいる。
そうこうしている内に、一限目のチャイムが鳴る。今日の一限目は専属技工士が見学を行う時間となっている。
演習場には見慣れた顔と、そうでない顔が入り交じっていた。
「えー、本日は合同演習として、皆様には専属技工士、専属防衛士の候補を決めて頂く日となっております」
学園長の言葉が放送を通して響き渡る。
つらつらと眠くなるような長い話を綴ったあと、締めの言葉として――
「防衛士にとっては命を預ける存在となる上に、自身の得意分野を装備の面で伸ばす機会となります。技工士にとっては技術力を上げるまたとないチャンスです。皆様、心して挑みましょう。それでは各教師の指示に従い行動してください。以上」
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