第4話 再会
俺と新が午後のゼミが行われる教室に着くと、まだあまり人は来ていなかった。
そんな中、俺が教室を見渡していると、大人しそうな女の子が目に入った。ゼミの歓迎会でもいて、何か変な視線を感じた子だ。
その女の子が気になりつつも、俺は気にしないようにして席に座る。
しばらくして、温厚そうで年配な先生が来てゼミが始まった。俺と新はゼミを何となくで決めたので、先生や何をするかなど、ゼミについてはあまり詳しくない。興味があるものがなくて、新と一緒にしたんだっけ。
ゼミが始まってからは、今後の予定やゼミについての大まかな説明があった後、自己紹介の流れになった。ゼミは十五人ぐらいいるが、俺の名字が「有明」と
今回も案の定というべきか、五十音順の流れになったので、自己紹介は俺からとなった。
「えーと、有明 楽です。アニメとか好きです。出身は香川なので、一人暮らし中です。よろしくお願いします」
特に特徴もない無難な自己紹介をして、一安心……と思っていると、またあの女の子から視線を感じる。でも今までの視線とは何か違うような気が、今度は良い視線のような感じというか、不審な視線から好意の視線に変わったというか……
俺がますます分からなくなって悩んでいると、次の自己紹介をする人はその大人しそうな女の子だった。
「私は、
自己紹介が終わった後も、どことなく俺を気にしていたような気がした。
それに、この名前は聞いたことがある。もうずいぶん昔の事の話にはなるけど、知り合いに一人、同じ名前の子がいた。
「あの子、可愛いじゃん。それにアニメ好きだし、楽もついに彼女できるんじゃね?」
新が軽口で俺に話しかけてくるが、今はそれどころじゃなかった。もしそうなら説明がつくけど、昔の事でもあるので信じ難い。その気持ちが、ゼミ中に心の中でグルグルと回っていた。
◇◇◇
ゼミ終了後、帰りの準備をしているときに、俺は肩を叩かれて上野さんに話しかけられた。
「やっぱり、あ、あの……有明 楽くんですか?」
「い、いや人違いでは?」
俺はドキっとして、つい誤魔化してしまう。
上野さんは俺の言葉を聞いて、多少迷いの表情をしたが、なおも俺に話しかけてくる。
「出身も香川だし、顔がそっくりだもん。本当に人違いだったら申し訳ないんだけど、絶対そうだと思う!」
上野さんは少し興奮しながら、俺の顔を見て強く言う。こうなると、俺も素直に言うしかない。
「確証は持てなかったけど、やっぱり
「そうだよ! 久しぶりだね、らっくん!」
その会話を聞いて興味を持ったのか、新がニヤニヤしながら、「どういうことか早く説明しろ」という表情をして、俺の言葉を促してくる。
「香川にいた時、短い間だったけど仲が良かった女の子がいてな。小学四年生の時に転校したんだっけ?」
「あの頃は、パパが転勤が多くて大変でね。でも、らっくんと仲良くなってからの二ヶ月間ぐらいは、本当に楽しかったよ」
「唯が覚えているとは、正直思ってなかった」
「酷いよらっくん。私にとって、あの時の事は本当に大切なんだよ?」
上野さんこと唯は、転校生でいじめられっ子だった。俺も当時いじめられていて、唯の事は少し気になっていたが、強がりで唯には話しかけなかった。唯の強さも見ていたし、俺が女の子に泣きつくような感じで仲良くしよう、とは言えなかった。
そんな中、急に天気が荒れた日があった。午後から警報も出て、家族に迎えに来てもらって下校するという形になった。
そんな時、何かの巡り合わせのような形で、最終的に俺と唯が教室に残った。俺も唯も宿題が終わって、することがなくて暇だったんだっけ。
俺が自由帳を取り出し、当時流行していたアニメのイラストやゲームの事を描いていると、
「有明君もそのアニメ好きなの⁉ 話そうよ!」
と、明るく唯が話しかけてくれた。あまり絵も上手くなく、自由帳を馬鹿にされたこともある俺にとって、その言葉はめちゃくちゃ嬉しかった。
静かだな、と思っていたけどそれは俺の勘違いで。本当は、明るくてこんなにも良い子じゃん、と思ったのを覚えている。
「上野さんも、アニメとかみるの?」
「私も好きだよ! あと名前でいいよ。上野さんだと、何か寂しいもん」
「そっか。じゃあ、俺も名前でいいよ」
「でも楽くんだと言いづらいし、らっくんにしようかな!」
きっと、唯は転校が多くて友達が出来なかったのだと思う。だからこそ、名前で呼んでほしかったのだろう。友達って、そういうものだから。
そこから夏休みに入って、俺と唯は多くの日で一緒に遊んでいた。アニメごっこやゲーム、たまには運動や勉強もして、本当に充実していたと思う。
だけど、そんな楽しい時間は一瞬だった。また唯の転校が決まったのだ。当時は携帯なんて持っているはずもなく、一生会えないとワンワン泣いたっけ。
でもそんな姿を、他の人に見せるのはカッコ悪いと思っていた俺は、ずっと冷静なフリをし続けた。
「らっくんも強いよ。だから大丈夫」
「……唯も、広島に行っても頑張ってな」
最後に言われた唯の言葉のおかげもあってか、俺はいじめられる事もなくなって、友達もできた。唯との出会いは、間違いなく俺の人生の重要なポイントだろう。
ただ、もう五年以上前の事に加えて、遊んだのも二ヶ月ぐらい。流石に昔のようにはいかないし、忘れていてもおかしくない……と先ほどまで思っていた。
「なるほどな。楽と上野さんは幼馴染、ってことか」
「新の言う通りだよ。唯が広島にまだいて、しかもこの大学にいるとは、夢にも思わなかったよ」
「パパも仕事面で落ち着いてね。それに、この大学は生徒も多いからなかなか気がつかないよね」
こうして久しぶりの再会にテンションも上がって、話も盛り上がる。これからまた、変わった楽しい大学生活が送れるかもしれない、と夢を膨らませた。ただ、その明るい空気は一瞬にして壊される。
「唯、迎えに来たよ。今日はどこ行こうか?」
唯を迎えに来たのは、どこか透き通った良い声で、イケメンで学内で超有名の男……
「し、渋谷先輩……」
渋谷先輩だったのだから。
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