捨てネオンテトラ

白杜

捨てネオンテトラ

かつてこの星を支配した末裔が水槽の中きらりとひとり


水泡が弾け鼓膜を狙い撃つ 君の嫌いなロックを流す


捨てネオンテトラは口をぱくぱくと 誰の手だってかまいはしない


魚にも牙があります 噛まれても痛く無いので意味は無いです


消すヒトの無い照明に手を伸ばす 夜ならせめて宇宙に染まれ


目の裏を焼く星ひとつまたひとつ 全部消したら おやすみ、魚座


水族をおいしそうだと笑ったね まあるい口をぱくぱくと 君


最後まで好きになれない君の好き 魚 音楽 浮気 恋人


正直を悪徳にする赤い爪 「目が似てるからこの子にするね」


眩しくて瞼を開く 生きている限り消えない光は赤い


銅像になるにはきらびやか過ぎて ひとりで踊るネオンテトラの


なめらかな光の作る君の名に飛びつく私 夜二時の餌


私よりネオンテトラに割く文字をネオンテトラは読めもしないで


水中は息のできない場所だから 沈めば二度と目覚めぬ画面


死人より多少はぬくい水の中 逃げる姿が一番綺麗


心臓を止めても息をする魚 水の外でも光は光


飼い主はペットに似てる 似ていない ネオンテトラの踊る手の上


毒くらいあれば綺麗に終わるのに ただぱくぱくとぱくぱくぱくり


喉奥に落ちる流れに逆らって 自由とは忘れ続けることだ


光などなくても光る腹の底 ネオンテトラの支配する星

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