第3話 ルナ

 ルナが棺から出ようと立ち上がる。


 「あれ。これなんだろう」


 ルナが棺の中に何か落ちているのを見つける。

 埃が溜まっており取り出したそれはどうやら古びた肩掛けの鞄のようだ。


「うわぁ。ぼろぼろ。ってか普通に触れる!」


「一緒に入ってたのならおそらくルナの鞄じゃないか?」


 記憶のない彼女は首を傾げるが「レームも見る?」と渡してきた。

 受け取った鞄は特に変哲もない普通の埃だらけの鞄のようで中には何も入っていなかった。


「特に何もない気がするね。普通の鞄みたいだね」


 レームの質問に少女は中をごそごそと探る。

 なんと小さめの鞄だが少女の肘くらいまでスポっと入ってしまった。

 明らかに外観からは想像できない容量だ。


「レーム! この鞄中がすっごい広い!」


 ほぉっと驚き広げた鞄の口からレームも覗き込む。

 再度覗き込むがレームにはなんの変哲もない鞄にしか見えなかった。


「これは恐らく魔法鞄マジックバックだね。他の探索者が使っているのを見た事があるよ」


 レームの言葉に少女が「すごーい!」と歓声を上げる。


「ん? 何か入ってる」


 少女は腕を肩まで鞄の中に入れ探す。

「よっ」っと言って取り出したのは古びた巻物と意匠な竜が掘られたガラスの小瓶に入った真紅の液体だった。

 レームは少女の持つ小瓶を爪先で軽く突くとコツコツと音が鳴る。

 見た事もないような美しい細工が施された小瓶にレームは感嘆の声を上げた。


「何かの魔法薬だと思うんだけど分からないなぁ」


 小瓶をルナに返し次は巻物を預かろうとしたが、風化が激しくルナの手の中で結んでいた紐が切れて巻物はレームに向けて解かれてしまう。

 巻物に書かれた複雑な文字列が淡く光りレームは驚いてその光景をみていた。

 光を放つ文字は巻物から飛び上がりレームに向かって飛び額の中へと吸い込まれていった。

 レームは一瞬の出来事だったが特に変化がない。

 ルナも慌てて「大丈夫!?」と心配してくれた。

 その時だ。


「おわっ! なんだこれ」


 ただジッと文字列を見ていただけだが脳裏に文字が浮かんだ。


~~~

スキル『鑑定』の巻物(使用済)

 使用した者はスキル『鑑定』を覚える事が出来る。

~~~

 

それはレームにとって衝撃的な文面だった。

珍しいなんてレベルではない超希少アイテムであるスキル巻物スクロール

歴史上では迷宮でのドロップは確認されているがいずれも天文学的な金額でやり取りされていた筈だ。 


「すまない。故意ではないが君のアイテムを勝手に使用してしまったみたいだ」


 レームは素直にルナに詳細を伝える。


「んー私は別に気にしないんだけど...それじゃあレームが私を助けてくれたお礼って事で! どうかな?」


 ルナはレームに微笑みを返したのだった。

 一度気を取り直し、折角なので手に入れたスキルの使用を試みたいが。


「レーム。早くここから出たいんだけど」


 と言うルナの一言で一旦レアールの街に戻る事となった。

 地下から外に向かい階段を上がり見慣れたフィールドへと戻って来る。


「わぁ。綺麗な場所。凄い凄い!」


 新緑の隙間から降り注ぐ木漏れ日に照らされたルナは神秘的だった。

 彼女はまるで木々を初めて見るように全てを珍しがった。

 帰る途中数匹の牙鼠と遭遇したが、いずれもルナには目をくれずレームだけを狙い襲ってくる。


「これでこっちから触れると私も役に立てるんだけど」


「それなら戦闘も楽なんだがなぁ。でも何かいる事は感じているみたいだね。途中ルナの方を見る個体がいたように感じたけど?」


「私も思った! 何度か目が合ったし。魔物にも霊感があるのかもねぇ」


 迷宮内はどこも広大なフィールドだが『牙鼠の森』は二日もあれば全てを見て回れる程度の広さしかない。噂では大陸丸ごと入る程のフィールドを保つ迷宮もあるらしいのでいかに小さな迷宮かが分かる。


 二人はレアールの街に戻ってきたが入口に立っていた街の警備隊も誰もルナの事が見えていなかった。


「私こんな賑やかな場所に来たの初めて! レーム見て! あれ可愛くない!?」


 声の方を見ると路面に若い女性向けの服が飾ってある。

 服の周りにはルナと同世代らしき少女達で賑わっていた。

 正直おっさんであるレームには十代の服の良さは分からないがルナに似合いそうなのは解る。


「ルナにも似合いそうだね。しかし流石にあの子達の間に割って入るのは勘弁してくれ」


 ルナは困った表情のレームを見て声高らかに笑った。


「取り敢えずギルドに寄ってもいいか?」


 レームの言葉にルナも頷き二人は歩いて行く。


「足...大丈夫?」


 ルナは隣を歩くレームが右足を少し引きづっているのに気が付いた。


「あぁなんでもないさ。昔の傷が痛むだけだ」


ルナは肩を貸してたくともすり抜けてしまう自身の身体にやきもきする。

 ギルドに到着し二人は中に入ると、白級の受付にいつも通り受付嬢のミナが座っていた。


「レームさんララキノコとピリカ草のクエストお疲れ様でした。牙鼠の駆除も感謝します。只今報酬をお持ちしますね」


 ピリカ草五つとララキノコが三つ、牙鼠の尾は六尾だ。

 ピリカ草は五百ダリー、ララキノコは四百五十ダリー、牙鼠の尾は三百ダリーで買い取ってもらえた為千二百五十ダリーを受け取る。

 千ダリーは大銀硬貨一枚、十ダリーは大銅貨一枚となる。

 ミナに礼を言ってギルドを出るとつい報酬に頬が緩んでしまった。


 「レーム嬉しそうだね」


 「まあこの瞬間の為に働いてるようなもんだからね」


 二人はレームの借宿に戻ると背負っていた荷物を床に降ろしてようやく一息ついた。


「先に汚れを落としてくるよ」


 レームはシャワーを浴びて出てくるとルナがジト目で見てくる。


「いいなあ。私もお風呂入りたいしこのローブを着替えたい!」


 ルナの着ていたローブは明るい所で見ると一層見すぼらしく古びたローブだった。

 レームは床に、ルナはベットの上に座ると人生で初めてスキルを授かったレームはソワソワしながらルナに話しかけた。


「少し試してみたい事があるんだけど、手伝ってもらっていいかい?」


 「なになに?」と返事をするルナに、レームにはただの古びた鞄にしか見えない魔法鞄マジックバックを借りると鞄に意識を集中させた。


~~~

魔法鞄マジックバック

 容量:特大

 ???が作成したマジックバック。

 使用権限:ルナ

 時間停止機能、外見変化機能付き

~~~


「おぉ!」 と一人驚き納得しているとルナが横から騒ぎ立てる。


「ごめんごめん。んー見えない部分があるけどこれアイテムだよ!? 後使用者権限がルナだけっぽい」


「おー! ってそれは凄いの?」


 正直魔法具なんて扱った事がない為そこまで詳しくはないが、魔道具はいずれにしても高級品で中でも魔法鞄マジックバックなんてその中でも有名な高級品だ。

 残る機能をルナと共有し外見変化の昨日に食い付いたルナは捻ったり「可愛くなーれ!」と呪文を唱えたりしていたが変わらなかった。

 

「次はアイテムを入れてみるか」


 先ずはレームが持っていた下級の回復ポーションを入れようとしてみるが、何かの力でバックの口に傷薬を入れようとしても弾かれてしまう。

 次にルナに頼み入れてもらおうと考えるがルナはポーションの瓶を触れずにすり抜けてしまった。

 これには正直二人供がっかりして溜息を吐く。


「なんか期待外れ~」


 ルナが口を尖らせた。

「そうしたら今度は」とレームが呟きルナの事をじっと見つめる。


「ちょっ! なになに! ようやく私の魅力に気付いたのかしら」


 などと慌てるルナを無視して集中した。


~~~

???

???????

~~~


「ありゃ。ルナの事を鑑定してみたんだけど全く見えなかったよ。君が特別なのか俺のスキルの熟練度がたりないのかこれは検証が必要かもしれないね」


 と言った後ルナと視線が合うと少し怒った表情のルナがいた。


「デリカシー! 女の子を無断で鑑定するなんてどういう事ですか!」


 一旦中断して平謝りをした後ようやく機嫌が直る。

 今後は気を付けようとレームは心に決めた。


「それではようやくコレですな!」


 ルナが鞄から取り出したのは竜の模様のついたガラスの小瓶。

 中の真紅の液体が光に反射をして妖しく煌めいている。

 なぜかこの瓶と巻物はルナも触れる事が出来た為、受け取って自身で持つ。


「それでは早速」


 小瓶に意識を集中する。

 

~~~

ディアベルの涙

 神ディアベルの涙。

 迷宮から稀に産出される。

 別名「エリクサー」 飲んだ者の存在の格を上げる事が出来る。

~~~


 レームは愕然とした。

 隣りではまたもルナが騒ぎ立てたが今回は中々我に返る事が出来ずにいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る