27話 初めてのデートとハナキの意外な趣味嗜好

 意味深すぎるお召替えを終えた私たちは、カナタのエスコートでデート、とやらをしにきている。


 イグニード商会から馬車に乗り、降りたのは見覚えのある通りだった。


「ここって…」

「思い出の場所。ですかね」


 カナタとリュートをターゲットに決めた表通りだった。


「私にとっては惨敗の初記憶だよ。」


「惨敗の初記憶も私なんて、嬉しいですね」


「………」

(なんでも初めては私がいい、とか言ってたな)

 わかりやすく顔に出してげんなりしてやった。


 カナタの腕に手を添えて歩く。

 いつもと違う装いで、淑女レディ扱いするカナタ。

 いつも通りでないのは、空いた手のひら。


(変な感じ。

 手、繋がないんだ)


 いつもより少しだけ空いた距離がもどかしい。

 格好だけは近しいのに。


(でも、私から言うのもなんか負けた気がする)


 妙なところで意地を張ってしまう。

 が、微妙にきまりの悪い私の様子を、カナタは聡く観察しているの知っている。


「……ハナ、この先の店に行ってみませんか?

 人も多いし、逸れないようにしないと」



 カナタは私の添えた手を外し、繋ぎなおす。



(この人は…こういうところがおとなだなあ。)

 じんわり、温かいものが胸を占める。


「うん。」

 カナタの手を握り、笑い返す。



 ・・・・・・・・・



「わ~、いろいろあるねぇ」


 キョロキョロ、店内所狭しと並ぶ多国籍感の漂う商品を見渡しては目を輝かせる。


「そうですね、ここの店の品揃えは面白いと思います。」


「前にリュートと来てなかった?」


「ええ、良くご存知で」


「見てたもん。ターゲットだったし。

 ものすごく目立ってたしね.2人とも」


 このお店で買い物をしているのをさりげに追跡していたのも遥か昔のことのようだ。


「リュート君は人目を引く体質ですからね。それででは?」


「それだけじゃないと思うけど。カナタもキャーキャー言われてるじゃない」


「嬉しくないですけどね…」


 祝福ギフト持ちのカナタにとっては集団だと好意であっても暴力になる。気の毒な体質だ。


「人混み来てるけど大丈夫?

 具合悪くなっても今日は帽子もないし…」


 まだ昼過ぎで、人通りは多い。

 以前具合を悪くした時より混雑しているので、いやでも気になってしまう。


「大丈夫。お守りもあるし。あなただけ見ていますから」


 カフスボタンに目をやるカナタ。


「またそーいうこと言う…

 あ!これ前にいた町で見たお菓子だ!ここで売ってたんだ」


 何気なく手に取ったのは、鮮やかな花の形をした焼き菓子だ。


 なかなか前衛的な配色で、口にするのに勇気が必要だが、美味しいんだよね。


「ん…ああ、これはフォルテ地方の名産ですね。相変わらず凄いセンスだ…

 ここから結構遠いけど、ハナはそこにもいたことがあるんですか?」


「うん、2~3年前くらいかなあ。見た目はともかく食べ物が美味しい町だったよね。


 1人になってからは一箇所に留まれなかったからいろんなとこにいったよ。ふふ、懐かしいな」


 おじさんがいなくなってから、私は状況に合わせて数週間から半年くらいの期間で住む街を変えていたのだ。


「そうですね、フォルテは特に鶏料理が絶品でしたね。」


「ね、あまり美味しいから長くいついたら太ってたかも…」


「ははっ、ハナは痩せすぎなのでもう少し肉付きが良くなってもいいと思いますよ。

 これからもたくさん餌付けしないと」


「うっ…それは困るなあ.これ以上ぷにぷにになったら動けなくなっちゃうよ」

(商売上がったりだ)


 カナタは屈託なく笑い、2人で店内を見て歩いた。


 カナタは職業柄か大変博識で、私が手に取るもの

 全ての知識に精通していて、かいつまんで説明してくれるのでとても楽しい。


(さすが、世界を股にかけているだけある)


「ここは港町なので、異国のものも多く入っていますね。あなたは何か気になるものはありましたか?」


「見てるだけでも満足だけど…あ、これかわいい~!!」


「どれど……れっ!?」


 カナタは絶句する。

 私が示すものがそんなに可愛かったのか。


 おどろおどろしい、大変可愛らしいぬいぐるみを抱き上げる。


「これ、なんてかわいいの!このツヤツヤした内臓!」」


「内臓…はみ出ていますが…」


「これが可愛いポイントだよ~!」


「夢でこんにちわしそうな絶望感漂ってますよ、お嬢さん」


「このうつろな目がいいんだよぉ~、かわいい~い!」


 すごく愛らしいぬいぐるみに、私の気持ちは昂りつい早口になってしまう。


「ものすごいセンスを感じる。

 …地域限定をやってる様ですが、まさかのシリーズものなのか。

 バージョン6…『チラリズム・セクシー臓物』

 こんなに展開して需要あるのか?」


 センスの塊のようなぬいぐるみに

 カナタは苦虫を噛み潰したような顔をする。


「あるでしょ、こんなに可愛いんだよ!毒々しくって、尖った感じ?たまんない!好き~!!

 あ、でもこっちのタイプも可愛いなあ」


「…『手がもげたって、足があるからいいじゃない』シリーズ?…うわ、グロいな。


 何が受けるかわからないものですね。

 もしかして、ウチでも仕入れたら売れる?


 いやまさか。うーーーーーん」


 カナタはこの『可愛すぎるぬいぐるみ』の棚の前で眉間に皺を寄せながら葛藤するのだった。

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