25話 気づいてしまったコイゴコロ2

 エイリーフの中央、この広場に向けて


 庶民の商業通りから富裕層の方々向けの高級ブランド街、職人が集う工房通り、

 歓楽街などが並ぶ何本もの大きな道がある。


 様々な通りが交差する中心にあるこの広場は、どの時間帯もそこそこに賑わっている。


 様々な立場の人たちが、皆思い思いに過ごしている。


 老若男女、街の人々の生活の営みを眺めながら、

 意識を放棄する勢いでボケっとしていたところ


「…さん」


 斜め後ろから声をかけてくる男がいるようだ。

 振り向くのも億劫だったので適当にあしらおう。


「お嬢さん、ここでなにを?」


「ぼーっとしてます」

 見ればわかるだろう。


「暇人ですか?良ければ私とデートしない?」


「いや、間に合ってます」


「…………間に合ってるって、誰で?」

 男の声のトーンが低くなったような。不穏な空気を醸し出す。


「緑の目したイケメン」


「……っ!」


 しつこいなあ、どっかいってくれないかなと眉を顰めながら振り向くと…


「おわぁぁっ!?」

 乙女らしからぬ声をあげてしまった。


「……驚きすぎでしょう」


 しつこいナンパ男が緑の目だった。

 よく知る緑の目の……イケメン。


 本人カナタがいるとは夢にも思わなかった。


 顔から火が出るかと思うくらい、恥ずかしい。

 ここから逃げ出してしまいたい。


「なんでいるのよぉ………」


 気まずすぎて両手で顔を覆う。

 会いたいなあ、などと思っていたから尚更顔が見られない。


「ハナ、驚かせてすみません」


「もっと普通に声かけてよ…」 


「ねぇ、顔見せて?」


「今…ほんと無理…」


「見せて」


 体を縮こませている私の前に回り込んだカナタは、両手を強引に開かせ、私の顔を覗き込む。


 顔も赤ければ涙目だ。ひどい顔しているのに、

 カナタは嬉しそうに微笑んでいる。


「無理って言ったのに…ばかぁ」


「ふふ、すみません」


「なんでそんなに嬉しそうなのよ…」


「嬉しいですよ。あなたが私の事を想って取り乱してくれるなんて


 このままキスしたいくらいだ」


 吐息のかかる距離まで近付く。

 私の顔に、カナタの前髪が触れる。


 長いまつ毛。

 翠玉エメラルドの瞳。


 感情がパンクして、よるべもない私を捉える。


 蕩ける様に甘い、好きが溢れてきそうな眼差し。


 気づかないでいた。気づかない様にしていた。


 あと数センチの距離が、とてももどかしくて。


(…もどかしい?

 ああ、そうか。)


(わかっちゃった。)


 すとん、と胸に落ちる。

 全ての動揺も混乱も、一気に収束する。


 そして。

 妙に冷静になった私は気づいてしまった。

 さっきから生暖かい視線も感じるような。


(って、ここ広場だ!)


「だ、だめっ!」


 反射でカナタを蹴り飛ばし

 …たかと思ったが、体幹のしっかりしているカナタはびくともせずに、


 反動で私の方がひっくり返った。


「ハナ!!」


 私が腰掛けていたのは噴水の、ヘリ。

 カナタが手を伸ばしたが、寸での差で間に合わず。


(ああ、やっちゃった…)


 盛大にひっくり返った私は

 大きな音を立てて浅い噴水に背中から着水した。


 きらきら、陽に透ける水飛沫


 あーー…消えたい。


 全身ずぶ濡れになりながら、私は空を仰いだ。


「頭ごと冷えたわ…ふふっ…あはは!!」

「そんなこと言ってる場合か!」


 慌てふためくカナタを見るのも、悪くないか…

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