24話 気づいてしまったコイゴコロ

「あれから何日か経ったけど、特に何もなかったな?」


 うららかな日差し。照らす日の光も強くなりつつある、薫風くんぷうの頃。


 そんな陽気にも私はアホな顔して広場の噴水のヘリに腰掛けている。


 これネックレスを付けられてから

 明るいうちの1人行動もある程度は容認されているので、天気のいい日は離れすぎない程度に散歩がてら出歩く様にしているのだ。


(…飼い猫から飼い豚になってしまうのは避けたい。)


 外の風にあたり

 気分でも変わればすっぱり忘れられるかと期待したが


 何日か経っても漣のように押しては返る羞恥心に

 私はいささか挙動不審になっていた。


 (ああ~!!無意識とはいえ穴があったら入りたい!!!)


 あの夜は私が悪かった。疲れて帰ってきたカナタに多大なるご迷惑をかけて…


 あろうことが私が…

カナタをベッドに引っ張り込んだ!!

……そうで。


 平謝りする私に「貸しひとつですね?」と良い笑顔で悪魔は宣告する。


 高利貸しに違いない。

 取り立てが恐ろしい…


 しかし、迷惑をかけただけあり

 すごくよく眠れたのだ。


 それはもう、ぐっすりと。

 

程よく鍛えられた腕に包まれるのは安心できたし

 いい匂いだったし、いい夢見たし


 (なんかすごく、幸せで、甘い夢だった…なぁ。)


 思い出すと羞恥のあまり身悶えそうになるのを必死で抑える。


 (嫌じゃなかった。)

 

 むしろ。

 ひとりより、2人の暖かさが恋しい。


 (……カナタと一緒が嫌じゃなかったって、なんて破廉恥なやつなんだ。)


 (なんか泣きそう…)

 

あれだけ接触してくる彼を変態紳士と言い続けていたけれど、


 私の方が変態淑女だったとは夢にも思わない。


 はあ~、っと大きなため息をつく。


 側から見たらアホな顔も極まっていることだろう。


 (ここに来るのも久しぶりだよね)


 少し前まで毎日のように通っていたのに遠い昔の様に感じる。


 濃厚を煮詰めたような日々である。時間経過も音速に感じるのも無理はない話で。


 小綺麗に整った姿にも違和感を感じなくなってきていた。


 (今では私の方がスリにあう立場になりそうだよ…)


 衛兵に突き出されると怯えていたのも最初の方だけで、今はすっかり順応してしまった。


 人間、楽な方に楽な方にと流されていく生き物だと証明した私だった。


 優しく甘やかされているが、

 この関係は居心地が良いがとても曖昧だ。


 カナタはあれこれ私を構うけど、

 肝心なことは口を噤む。


 (これから彼はどうするんだろう?)


 もう直ぐリミットが来る。

 2人が王都に帰ってしまう日。


 (私は、どうしたい?)


 自分の胸に手を当てて考えてみる。

 この先を。


 首のネックレスに手をやる。


 (カナタはこれをどうする気なんだろう)


 外してもらわないと困る。


 王都へ戻って、流れられないといずれは  捕まってしまう。


 だけど、繋がりを失いたくないって思う私もいる。

 相当問題のある代物だとわかっているのに。

 本当にどうかしている。


 一緒にいたら、感化されてしまうのだろうか。


 それとも。

 このまま2人について行って


 (王都でも同じように囲われる?)


 飼い猫のように。


 カナタは立場のあるお貴族様だ。

 

 今はなくてもしかるべき家柄のお嬢様と縁談もあるだろうし

 私がいつまでもそばにはいられないだろう。

 きっとそれは周りが許さない。


 (多分。カナタが他の誰かをあの翠玉に映す様を見続けられるほど、私は強くない。)


 やっぱり行き着くとこは

 またどこかで、同じ生活に戻るだけ。


 また夜に1人で寂しくて泣くんだろうか

 涙を拭いてくれるひとも

 抱きしめてくれる人もいない


 頭を撫でてくれる大きな手も

 私を見つめる翠玉も、ない。


 想像しただけなのに。

 どうしようもなく、寂しい。


(別れは、慣れているはずなのに。)


 一度甘いと知ってしまった果実は

知らない頃には戻れない。

 満たされれば満たされるほど、渇く。


 「…カナタ」


首の翠玉アミュレットに触れると、ほんのり暖かく感じる。


カナタに護られている様に。彼の魔力がこもっているからだろうか。


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