16話 リュートが知るカナタ。私が知りたいカナタ。

「カナタ、怒ってたね~、そんなに仲間はずれは嫌なのかな?

 私にリュートを取られたって思ったのかな」


「あはは~、怒ってたね~。でも理由はちょっと違うかなぁ」


「そうなの?」

 一緒に旅するくらいの仲良しなら割り込まれたら嫌かもしれないだろうに。


「そうです。結構罪作りな子だね、キミも」


「???」

 よく分からないが、リュートが言うならそうなんだろう。




 カナタを半ば追い出すように見送った私達は

 リュートの案内で2人で文字通り、市街をぷらぷらしていた。


「そういえば、カナタって商会の偉い人なんだよね?本当はすごく、忙しい身の上なのでは…」


 ずっと私につきっきりだったが、

 おそらく私が部屋に引っ込んだ後も遅くまで起きている。


「そうだよ~、まあ、暇なわけはないと思うけど。カナタに何も聞いてないの?」


「いや、さらっと自己紹介はしてくれたけど。

 印象に残ってるのは『恋人や婚約者はいない』ってことでね…やけに強調するからさ」


 はあ、とため息をつく私に


「あっはは、確かに女の子の影は見えないけど、ソコばかり強調するとかも~ね」

 腹を抱える勢いのリュート。


(ソコと、人の感情の『色』が見える祝福ギフトもちだってとこしか印象にない…)



 ーー「あなたは私の、『玻璃はりの花』」


 甘く囁く翠玉エメラルドの瞳。


 視線も、掌も私を離さない。


(あとはひたすら、甘やかな行動をしてきたような…)


 思い出したらぼっと顔が熱くなる。

 目の前にいてもいなくても心臓に悪い。


「へ~え、何思い出したの?カナタってばや~らし~んだ~?」

「なっ違う違う!何もされてない!!」



 少し垂れた紫水晶アメジストの瞳を三日月にして、揶揄からかい倒すリュートに私は脊髄反射で反論する。


「ま、いいけどぉ?あんまり蚊帳の外だと僕、ヤブ蚊に刺されて拗ねちゃうよ。仲間に入れて~」


「私だってなんでこうなった感しかないんだけど…」


「まぁ、そうだよね。

 わけがわからないよね。ハルちゃんにとっては立派な拉致軟禁だしね。


 …らしくなさ過ぎてほんと面白い。」


「面白いのはリュートだけだよ…」


 私の身にもなって考えてもらいたいものだ。


 ふふふ、と含みのある笑顔を見せるリュートに、ため息しか出ない。


「カナタのこと、気になるんだ?」

「べ、別にそんなんじゃない!」


 これまた条件反射で反論する私にはさしてや興味もない様子で。


 輝くような長い銀髪をゆるく結んだ毛先を指に巻き付けて遊んでいた。



(この貴人は…全く)


「カナタの詳しいことはわからないけど、

 たくさん朝ご飯買ってくれたから、お金持ちなんだなとは思ってる」


「…お金持ちの敷居、低過ぎない…?」


 拍子抜けしたように格好を崩し

 まあいいけど、と前置きして


「カナタは貿易商人なんだよ。

 王都では結構名の知れた商会でさ、王侯貴族御用達ってやつ?聞いたことない?イグニード商会」


「上流階級のことはさっぱり」


「先代夫妻が事故で亡くなってそんなに経ってないけど、あの若さで大商会の商会長…1番えらいひと、なんだよ」


 さらーっとしか知らなかった。

 ご両親、亡くしてたんだね…


 「トップの椅子でふんぞり返っててもいいのに、自分から動かないと気が済まない性質みたいでさ、世界中とびまわっているんだってさぁ~」


 僕だったら絶対人任せにして、遊び暮らしたいけどねぇ~と、呆れた様に肩をすくめる。


 優雅に自堕落なことをすらすら口にするリュートこそ、掴めない人だ。


「商会長とかえらいひと?ってでっぷりしたおじさんばっかだと思ってた。

 カナタって、すごい人なんだね」


 だからあのホテルに滞在できるのか…納得。


「そのイメージも大概だけど…わからないでもないかな」


 あははー、と笑いながら続ける。


「確かに、カナタみたいに若くて、僕ほどじゃないけどとっても見た目のいい実業家って滅多にいないから、社交界ではモッテモテなんだよ~」


「生粋のみやびな殿方にはない魅力っていうの?

 カナタは事業で成功し、爵位を賜った新興貴族だからねぇ。

 普段丁寧な物言いだけど、やることけっこうワイルドよぉ?

 あの風体だしいろんなご婦人からお誘いの雨嵐~」


「さりげなく自分アゲしてる!?すごい自信だね」


 そういえば道ゆく人たち、ふりかえって見てたっけ。


 オーバーリアクション気味で色々教えてくれるリュートだったが、


 こちらの彼も負けてはいない。

 物腰の柔らかい、整った顔立ちの美丈夫で。


 軽そうに見せているけど気遣いができて身のこなしも優雅だ。

 世の女性は大抵参ってしまう魅力に溢れているとは思う。思うだけはね。


 こんな男性がいたら目も奪われるのは頷ける。


 だが、リュートの場合は

 女の人だけでなく…男の人まで!!


 目が合う人に手を振ったり微笑みかけたりするからいけない。


 リュートはアイドルか何かかな?

 皆さん熱狂的すぎてちょっと怖いよ。


 この界隈は、男女問わない黄色い声で溢れている。



(あれ?なんか既視感デジャブ。昨日もこんな光景見た気がするよ)



 昨日の人混みで、カナタが調子を崩したっけ。


「…『色』が強いな」


美男子イケメン過ぎるのも大変だなぁ)



 回想終了。



 カナタもリュートも、

 タイプは違うが大変な美男子イケメンだ。


 世の中、多くを持ってる人もいるもんなんだね。

 羨ましいもんだ。


(私は添え物。刺身のつま、揚げ物のキャベツ…)


 あまり持たざる者としては

 なるべく目立たなくいたい。



「しっかしさ、キミの存在は大変面白いよねぇ。あんな方法で連れてくるなんて、どうかしてるとは思うけど。

 あの時のカナタの顔。ふふっ…いいもの見た~」


 あの捕物劇を思い出したのか、クックッ…と堪えきれずに喉の奥で笑う。


「まぁ、僕にとっても大変興味深いんだけど、ね」


 ギラッ、と獲物を狙う様な視線を向けられ、一瞬たじろく。


「な、なに?」


「なんでもな~いよ」


 ヒラヒラと手をふり、追求を許さない。

 リュートは肝心なことは煙に巻くのが上手い。


「もともと私が悪いんだけど、ここまでする!?あれは怖かったよ…

 カナタなら、財布一つにかける労力が見合わないと思うんだけど」


 よくわからないひとだ。

 そんなふうにぼやく私に、

 リュートは含みのある笑顔をみせた。


「ま、まだひと月くらいはこっちにいるし?滞在中にゆっくり知っていくといいよ~

 そんなに悪いやつじゃないよ、カナタは。

 むしろ一途で金あり顔よし優良物件♪」


 ドン、と胸を張る。


「僕ほどじゃないけどね!!!」


「ブレないなぁ、リュート」

 ははは、と乾いた笑いを浮かべる私。


「…ちょーっと、愛は重いかもだけど…」


 目を逸らしながら、小声で補足する声は私には届かない。


「そっか、ひと月後には王都に帰るんだね」


(それまで無難にやり過ごせば、解放してくれるかも…?)


「それはどうかなぁ~?」


「声に出てた!?」


「いや?ふふふ」


(この人も食えない人だよね~)



「ま~ほら、こうやって出会えたのも

 何かの縁だし?

 僕もキミのこと気に入ったし、ここにいる間はキミに楽しんでもらえるように色々サポートするよ~」


「と、いうわけで。この店の籠細工もかわいいねぇ~!いこいこ!」


「わっ!いきなり引っ張らないで~!」


 終始リュートのペースで、私は引っ張り回されることになるのだった。

 

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