14話 お風呂は最高の贅沢!からのー、テラスで朝食を。

 言われたとおりに部屋に直帰した私。


 着いた時はまだ夕方に差し掛かるくらいだったのに。


 窓から差し込む光と、鳥の囀りさえずりは紛れもなく朝だと告げていた。



 あれ…なんで朝日なんでしょう?

 夜ご飯食べた記憶もありませんが。



 そして。


「お風呂、入り損ねたぁっ!」

 絶望しかない。


 この部屋の嬉しいところ。

 奥続きにバスルームがついてるんです!


 真っ白い陶器のバスタブがあるのだが、

 蛇口にある魔法石であっという間に好みの温度でお湯が入る。


 リッチで便利な素敵魔道具がついてるのだ。


 一般家庭で陶器のバスタブなんて、なかなかお目にかかれませんよ!

 豪商か、王侯貴族か…

 お金持ちの象徴である。


 蛇口の魔法石があるお家は中流庶民以上だよ。

 庶民は共同井戸も現役です。


 しかもそれが平気で何個もある客室…

 ブルジョワ仕様最高!


 お風呂入り放題って、最高の贅沢!


 ちょっとだけー横にーとか思ってたんだよ。

 すぐ起きるつもりで。


 気づいたら、いや。

 気づく間も無く寝てた。


(…朝まで!!!)


 このベッド様は最恐過ぎる。

 このジャケットも…。


 カナタのジャケットを羽織ったまんまで寝落ちした。


 認めたくはないが、コロンと混じったカナタの匂いが心地よくて、ついつい…


(お借りしたジャケット、シワシワにしてしまった…怒られるかな。)


 仕方がない。魂の洗濯はまた後で。

 今回はシャワーで我慢することにした。


 一晩寝て、スッキリだね。

 寝たら気持ちを切り替えられるのは私の数少ない長所の一つで。


 私は手早く身支度を整えるのだった。



 ・・・・・・・・・・・



 支度を整えリビングスペースに顔を出す。


「あれ、2人揃ってる。おはよ」

「おはよ~ハルちゃん、良く寝たみたいだねぇ」


「ずっと起きないから、心配しました」


 リュートとカナタは先に起きていたようで、既にそこそこ支度が整っていた。

 早起きだね。


「ごめんね、すごいたくさん寝たよ…夕飯食べ損ねた。」


「顔色は、大丈夫そうですね。昨日は1人にしてすみません」


「酷いよねぇ。カナタってばハルちゃん放置して~」


「わかってます。でもあの場にいる方が余計傷つけることに…」


 いつものリュートの軽口だったが、引け目があるからか真正面から受け止めるカナタ。


「あはは、大丈夫、わかってるから気にしないで!たくさん寝てむしろ元気だよ。ありがと」


 …と、私がリビングに顔を出す頃にはいい匂いの朝食の支度と、2人がソファに座ってくつろいでいた。


 美形はなんでも絵になるねぇ。


『明日は、てゆーか、しばらくはカナタの部屋でルームサービスを取ろう!そんな気分!連絡してあるからね、決定♪』


 そんなことを別れ際に言っていたことを思い出す。


「天気が良いから、外で食べましょう。」


 リビングの南向きにある

 両開きの出窓からバルコニーに出られるようになっている。


 バルコニーもガーデンテーブルが置けてくつろげるくらいには広さがある。

 天気がいいときや、湯上がりなんかは最高だろう。


 円卓テーブルに、真っ白いテーブルクロスの上に

 所狭しと並ぶ朝食メニュー…見た目に美しく、


(優雅な朝食だあ。)


 今日も春の日差しが柔らかくて気持ちいい。


「さあ、食べよ!カナタの奢りだからちょっと奮発しちゃった」


「リュート君が威張ることではないだろう…」


「ふふっ、美味しそ。いただきます」

 どんな時でもお腹が空くのが私の体。


 人目を気にすることなくできる食事は、正直今の私にはありがたい。


 優しい気遣いと美味しい朝食が、私の心に沁みわたった。


 …


 和やかな朝食を終え、リビングに戻り食後のお茶と果物を摘んでいると、


 カナタは仕事用の装いに身支度を整えていた。


 パリッとノリの効いたシャツに、仕立てのいいスーツ。

 カナタの瞳の色が映えるよう整えられたヘアスタイル。


 着こなしも堂に入っていてとても似合っている。

 働く男の戦闘服だ。


 ほお、とつい見入ってしまった。

 広い背中は頼もしくて、格好良い。


 視線を感じたのか、カナタはわたしと目が合うと優しく微笑む。


(じっくり見てるのバレた…)

 気恥ずかしくなり目を逸らす。


 私が借りた上着は共寝してしまった為随分皺になってしまっただろう、申し訳ないとお返ししたが

 気にすることない衣装もちだった。

 お金持ちめ…



「こんな時に大変不本意ですが、今日は外せない会談があります。」



 瞳と同じ翠玉エメラルドのカフスボタンをつけながら、カナタは心底残念そうに肩を落とす。


「私としては少しの時間もあなたから離れたくありませんが、今日はずらせない案件なんですよね」


「ほー、これは逃走チャンス?」

 本気で逃げられるとは思ってないけれど。


 眉間に皺を寄せながらため息をつくカナタに、私も臆せずに軽口言えるくらいにはなっていた。


「…私の不在間は、部屋に閉じ込めておきましょうか?」


 ピタ。と身支度をする手が止まる。

 空気が変わる。


「無理強いは趣味ではありませんが、その様なことを口にするなら、仕方ありませんね。

 拘束する魔道具は、色々ありますよ?」


 カナタの口元は微笑んでいるが目が座っている。多分本気で言っているんだろう。



「じょ…冗談だって」

 背筋が冷える…



「じゃあ、カナタの代わりに僕が責任を持ってエスコートするよ~?ハルちゃん。」


 はいはーい!と挙手しながらリュート。


「ただ閉じこもって待っているだけなんてつまらないでしょ?

 ーーーーーキミの退屈を僕に預けてよ。何倍もの笑顔にして返してあげるから」


 私の手を取り、ウインクしながら提案する。


(キザだなぁ~)


 それなのに嫌みにならず、スマートに映るのは顔面偏差値の高さがなせる技なのかもしれない。


「…リュート君と二人きり?」

 心底嫌そうな顔でカナタは眉根を寄せる。


「その方がいいでしょ?」


「~~。不承不承ながら、そうですね」


「……ん? カナタ的には私を一人にしない方が安心じゃないの?」


 リュートの提案に終始煮え切らない顔をするカナタが不思議で、つい間に入ってしまった。


「そ…れは…~~~~~~」

「ねー、なんでだろうね?おっかしいね~カナタは」


 肩を震わせて笑いを堪えているリュートに、カナタはまなじりをギリギリと釣り上げる。


「ふーーーーーん」

 ニヤニヤ楽しそうなリュートの

 お顔の様子が一大事である。


「…リュート君、後で覚えていてくださいね」


(二人は本当に仲がいいんだなぁ)


 友人同士のわちゃわちゃを温かい目で見守っていた私であった。


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