第333話 柱の5階層2、球体
柱の5階層に入ることができたのだが、そこは今までの階層のようなジャングルではなく雑木林だった。天井はあるのかもしれないが、頭上は13階層と同じで青空に見える。どうも柱の中の階層は5階層でお終いだったようだ。
つまりサクラダダンジョンというか、4つのダンジョンを繋いだこのダンジョンは13階層で下り階段のような何かを見つけなければここでお終いということになる。ここでお終いなら俺たちがダンジョンを制覇したことになる。
もしかしたらこの階層の中心にダンジョンの全てを司るというダンジョンコアがあるかもしれない。ダンジョンコアはあくまで創作の世界での話ではあるが、期待していてもバチは当たるまい。
今回のダンジョン行はおまけ付きとはいえハネムーンのつもりも若干というかかなりあったのだが、少し状況が変わったようなそうでもないような。
エアロックの先でキューブから出したウーマに俺たちは乗り込んだ。
「とにかくこの階層の真ん中を目指していこう。そうすれば何か分かるかもしれない」
雑木林の木々はいつもと変わらず簡単にウーマによってなぎ倒されていき、ウーマはまっすぐ階層の中心に向かって進んでいった。
そして、予想通り1時間後。
ウーマは林を抜け、前方スリットの先に空き地が現れた。そして白い石柱で囲まれた神殿風のかなり大きな四角い建物が空き地の真ん中と思しき場所に建っていた。
ウーマをその神殿風の建物?の手前に止め、俺たちはペラ以外防具を着けて、ウーマから降り建物の前に立った。
「今まで柱の中心にあった建物は四阿とモニュメントだったけど、これはちゃんとした建物だな」
「荒れている感じは全くしないけど、人が住んではいなさそうよね」
「もし人がいたら、ウーマが近づいて来た時点でなにがしかの反応があったでしょう」
「それもそうね」
「中に入ればすぐに分かる」
「ちょっと怖い」
「今まで柱の中で襲われたことはないから大丈夫だろ。ペラもいるし」
3段ほどの石段を上って石柱を抜け、その先の扉のない入り口の前に立った。
扉から建物の中を見ると、建物の中はしきりとか何もない大きなひと部屋で、部屋の真ん中で暗い灰色の球体が宙に浮かんでいた。そしてその球体の手前に台座というか石でできた机が1つ見えた。
「浮かんでる」
「大きな球だけど何か模様があるみたい」
「近寄ってよく見てみよう」
近寄ってみると、球体は部屋の真ん中で1段高くなった正方形の床の上に浮かんでいた。球体の直径はぱっと見5メートルはある。ダンジョンコアって俺の持っていたイメージは大きくてもボウリングの球程度なんだが。しかも色は白っぽいとか、輝いているとか。
「こんなに大きなものが宙に浮いてるけど、不思議よね。これどうなってるのかしら?」
「謎だな。ダンジョンだから。と、片付けるしかないんじゃないか」
「それもそうね」
石の机の前に立ってみたところ、机の上には何も置いてなかったが、意味ありげに丸い穴がひとつ空いていた。どう見てもバトンを中に突っ込め。と、言っている。
「これってどう見てもバトンを入れる穴だよな」
「早くバトンを奥まで入れてみてよ」
新婚夫婦の会話らしいというか会話らしくないというか。
とにかく腰のバトン入れからバトンを引っこ抜いて机の穴の中に奥まで突っ込んだらカチリとそれラシイ音がした。
その音と同時に目の前の灰色の球体が急に明るく輝いたと思ったらどう見ても宇宙から見た青い惑星そのものだった。ただ、ところどころに明るく赤く光り輝く点が見える。火山? よく見ると他にも強く輝いているわけではないがいろんな色の光を発する小さな点やもう少し大きくてシミのような模様も見える。
何であれ、この球体はこの惑星の姿なのだろう。
もちろん大陸の形も地球とは違う。球体に近寄り過ぎている関係で上半分はほとんど見えないのだが、真下、南極辺りは白くなっているから、真上の北極は白くなっているのだろう。
「これなんだろう?」
宇宙から見た地球を見たことはないエリカがこれが何だかわかるはずはないのだが、はたして俺はこれをどうエリカに説明すればいいのか?
「エリカ。わたしたちが立っている大地って実はものすごく大きな球だって知っていますか?」と、ケイちゃんがエリカに説明してくれた。
「それは知ってる。家庭教師の先生に習ったから」
なんだ。すごいじゃないか。まあ、ギリシャの人もちゃんと大地は球だと知ってたみたいだし、それくらい常識なのか。
「え、うそ。なんで?」と、今度はドーラ。やっぱ、こっちが普通だよな。
「ドーラ。自分が小さな球の上に立っていると思ってみろ。そうしたら回りはすごく急な下り坂だろ?」
「うん」
「ドーラがのっかってる球がドンドン大きくなったとすると、坂はどんどん緩やかになる。分かるだろ?」
「うん」
「もっと、もっと大きくなると、坂と平地の区別がつかなくなるんだ」
「それは分かるけど。一番上に乗っかってればいいけど、横の方にのっかてたら滑り落ちるんじゃない?」
「落ちる方向ってどういうことかというと、実は、ものすごく大きな球の真ん中に向かって落ちるんだよ」
「つまり?」
「横の方に立っている人にとって、周りは坂じゃなくって平地だし、落っこちる方向は球の真ん中、足の方向だから地面が邪魔して落っこちないんだ」
「何だか、分かったような分からないような」
「すぐには分からないかもしれないけれど、頭の中でいつも考えてたらそのうち分かるようになる」
「そうなの?」
「そういうものだ」
「つまりこれは世界を表した一種の地図って事よね」と、エリカ。
「そうだろうな。探せばどこかにヨルマン領とか俺たちのツェントルム辺りの地形が分かるはずだけど、大きすぎるし、上の方は下からじゃ見えないから、厳しそうだな」
「ここ広いからウーマを出せるんじゃない?」
「確かに、ウーマのステージの上から眺めたら上半分もよく見えそうだ」
みんなをその場に残して俺だけ神殿を出て、鎮座していたウーマをキューブに収納してみんなのところに戻って球体の近くに出した。
さっそくみんなで乗り込んで、ステージの上に上がり、ウーマに脚をできるだけ伸ばして甲羅を上に上げるように言ったら、ずいぶん高くなって球体の真上もよく見えるようになった。
「さーて、ツェントルムはどのあたりかな?」
今まで不完全とはいえいろんな地図も見ているし、自動地図も見ているのでヨーネフリッツ全土の形は頭に入っている。
そういった目で球体を眺めていたら、最初にドーラがヨーネフリッツとヨルマン領を見つけた。
「あの辺りじゃない?」
こういうのは若い者には負けるな。アッハッハッハ。
確かにヨーネフリッツだ。思った以上に小さい。
この星、地球より大きいような気がする。
ヨーネフリッツ本土っていびつな四角形をしているのだが、東西1500キロ、南北1000キロほど。それが球体上では結構小さいのだ。
話に聞いていた通り、この前行った西方諸国の先には海峡がありその先にかなり広い大陸が広がっていた。ガレアの地なのだろう。
大森林の先には広大な陸地が広がってた。
比較的陸地の少ない南半球だってそれなりに大きな陸地が何個もあった。
つまり、俺の覇業はまだまだ続くというわけだ。
ハッキリ言って俺の生存中に軍事的な覇業はちょっと無理じゃないか?
「エド。わたし思うんだけど、エドが死ぬまでに、この広い世界を征服するのは無理なんじゃない?」
エリカもそう思ったか。
「俺もそう思う。これはあれだ。軍事的な征服では無理だな。そもそも軍隊が移動するだけでも何年もかかるようなところに攻め込めない」
「どうする?」
「ツェントルムの技術を進めて、科学と技術で世界を牛耳っていく。ツェントルムの技術に頼らなければならないようにすればいいんじゃないか?」
「なるほど。
ミスル・シャフーは文化を進めるために世界を統べろ。と言っていましたが、目的は『この世界に文明をもたらすこと』でした。何も征服しなくていいですものね」
「うん」
「それはそうと、赤い点が何個かあるじゃない、アレってもしかしてダンジョンの入り口じゃない?」
「確かに。サクラダ、大森林のエルフの里の近く、それにベルハイムあたりに赤い点があるから、きっとそうだ。
そういえば、13階層に赤い階段があって上った先でダンジョンから出たら山の中だっただろ?」
「うん、そうだったわね」
「あそこも、ここの赤い点のどこかなんだろうけど、ちょっと分からないな」
「そのうち分かるわよ。3つがこの球の上だとそんなに離れていないから、近くの赤い点のどれかじゃないかな」
「確かに。
ツェントルムの周辺にもいろんな色の小さな点があるけれどなんだと思う?」
「エド。もしかしたら、あれって鉱山では?」
「そう言われればそうだな。色の違いは鉱石の種類みたいだ。
これ、描き写したいけど、相当な量があるうえ相手が丸いから書きづらいよな」
「マスター。この程度ならわたしが全て記憶しますから大丈夫です。どこでも案内出来ますし、地図を描くこともできます」
「おー。さすがはペラ!」
これはすごいことだぞ。まだ見ぬ世界の正確な地図というか資源地図を持っていることになるわけだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます