第298話 打ち上げ


 親善試合が終わって、大使殿一行は引き揚げていき、試合場の片づけが終わったところで俺たちも引き揚げた。


 昼食は今日の試合の打ち上げパーティーを予定している。


 屋敷でのパーティーは面倒なので、気楽亭で打ち上げパーティーを行なうことにした。王族の大使殿からすれば面食らうかも知れないが、これからのことを考えれば慣れてもらった方がいい。


 俺たちの屋敷とフリシア公館では、フリシア公館の方が気楽亭のある中央広場に近いので、俺たちはフリシア公館に大使殿を迎えに行き10人揃って気楽亭に向かった。

 こういった経験は大使殿もその随員4名も初めてだろう。


 10人そろっていつもの衝立で仕切った予約席にぞろぞろ入いっていった。

 今日の席次はフリシアの5人と俺たち5人入り乱れての席とした。


 俺 ハンナ・クライン ケイちゃん ケイト・エリクセン ルーカス・シュミット


 エリカ エンマ・シュナイダー ドーラ マキシミリアム・ミューラー ペラ


 料理はまだそろってはいなかったがエールの入ったジョッキが行き渡ったところで。


「今日の親善試合の成功を祝して「かんぱーい!」」


 温いエールを飲みながら、隣のハンナ・クラインと話をした。

 最初は試合の話で残念でしたね。とか試合の話をしているうちに、何のはずみでそうなったのかは分からないが、ハンナ・クラインはフリシアの事情的な話を話してくれた。


 それによると。

 フリシアでは前王の王位継承でゴタゴタがあったため、現在は王位継承順位がきっちり決まっており、王位継承順位第1位である王太子は大使殿の長兄だそうだ。

 そしてハンナ・クラインの主人ケイト・エリクセン王女の王位継承順位は現在第3位なのだそうだ。けっこう高い順位ではあるが、これから王太子が成婚し子どもが生まれれば、順次王位継承順位が繰り下がることになる。まず王位を嗣ぐことはない順位ではある。

 王位は嗣げなくとも本人が有能なら公爵家として立つことは十分あり得ることだそうだ。

 もし俺がケイト・エリクセン王女=大使殿の後ろ盾になれば、新たな公爵家が立つことは間違いない。と、ハンナ・クライン。

 口には出さなかったが、フリシアに有力な味方がいると何かと都合がいいので、ご要望があれば前向きに検討するつもりだ。


 例えば、フリシアに危機が訪れたとき、ケイト・エリクセンの説得に応じて俺たちが出馬してフリシアの危機を救う。そんなストーリーだ。その気になればケイト・エリクセンを立ててフリシアを乗っ取ることも可能だが、ドリスの時と違って今のところ何の大義もないのでそれは最後の手段だ。


 あと、フリシアとドネスコが語らってヨーネフリッツに攻め込んだのは、やはり現王エリクセン1世が描いた絵だったようだ。

 ある意味、アレのおかげでヨルマン公がヨルマン1世となり、ドリスがドリス・ヨルマン1世になったわけだ。

 俺だってダンジョンワーカーからこうして領地を任された大侯爵閣下に成っているので、ある意味、恩がある。


 対フリシア戦略の要になるようないい話が聞けた。


「クラインさんは望みとかあるんですか?」

「王女殿下の幸せだけを望んでいます」

 なるほど。家臣としては70点の回答だな。

 こういった回答が返ってくることを俺が読んだ上で質問した。つまり俺がカマをかけたと、推察した上で回答してもらいたかった。

 俺からすれば、殿下の幸せといった漠然としたものではなく一歩進んで具体的な言葉が欲しかった。

ことあれば*****殿下にお力添え願いします」とかな。


 俺たちの会話を聞いていたらしいケイちゃんが、ケイト・エリクセンの向うで笑っていた。


 向こうの事情ばかり聞いていては不公平だし、今日ドーラにいいとこなしで負けてしまったハンナ・クラインに少しは点数を稼がせてやろうと、ライネッケ領の話をしておいた。

 人口とか、領軍の人数とかを教えておいた。


「失礼ですが、当初のライネッケ領の開発資金はどうされたのですか?」

 おっと、ハンナ・クラインから武官にしておくのは惜しいような質問を受けてしまった。

「ご存知のように、われられ5人はヨルマン領軍、のちのヨーネフリッツ軍に入るまではサクラダダンジョンでダンジョンワーカーをやっていまして、その時莫大ともいえる資金を貯めていた関係で開発が軌道に乗りました」

「はー。それは本当に莫大な資金だったというわけですね」

「そうなんです。今では鉱石などを領外に輸出できるようになり収支が軌道に乗って持ち出しはほとんどなくなりました。アハハハ」

「素晴らしいことです。

 ところで、外国人のわたしでもサクラダダンジョンに潜ってもいいのでしょうか?」

「誰でも潜ることは可能ですが、サクラダダンジョンギルドに登録していないと、ギルドでは成果物を買い取ってくれません。

 もっともギルドの登録に必要なものは成年月日と登録料の銀貨1枚だけなので登録して損はないですよ」

「なるほど」

「今年の暮れまでにはここツェントルムからサクラダまでの街道ができますから、時間があれば行ってみてもいいかもしれませんよ」

「それは面白そうです。

 殿下にお勧めしてみます」

「行くと決まれば、ご案内しますよ」

「そのときはよろしくお願いします」

 ちょっとだけ安請け合いをしてしまったが、別に構わないだろう。


 各人いろいろ情報交換できたようで何よりだ。

 いわゆる居酒屋で王女殿下と大侯爵閣下、それに伯爵と子爵などがエールを酌み交わしているわけだからなかなか面白い。

 ちなみに大使殿のおつきの4人はいずれも貴族の子弟なのだそうだが、嫡子ではないそうだ。

 なんならうちに来て仕官してもいいんですよ。


 そういえば、生前読んだラノベで新たな領主が誕生すると、貴族の非嫡子が仕官のために訪れるという話を読んだことがあるのだが、わがライネッケ領にはそういった仕官希望者は俺の知る限りでタダの一人もやってきていないのだが? わがライネッケ領はそこまで人気がないのか?

 事実として人気がないということだな。

 理由は俺たち5人のことを恐れている? それくらいしか思いつかない。ということはそれが理由なんだろうな。今現在ライネッケ領の開発は順調なんだから、まっ、いっか。



 この日の打ち上げパーティーは3時ごろお開きになり、10人でぞろぞろ気楽亭を出て帰路につき、フリシア公邸前で大使殿たちとサヨナラして俺たちはその先の大侯爵邸に入り中庭のウーマに戻った。

 もはや生前の大学生のノリだな。いや、高校生か。

 エリカたちはそのまま風呂に入り、その後俺が風呂に入った。


 その日の夕食は軽めにサンドイッチで済ませることになった。


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