第296話 フリシア大使着任3


 フリシアからの大使一行の歓迎晩餐会。

 口直しのフルーツの後は、チーズの盛り合わせにハジャルで手に入れたポートワイン風甘いワインだ。


「このワインはもしかしてカルネリアワインですか?」

「名まえは分からないんですが、確かにカルネリアのハジャルで手に入れたものです」

「ハジャルですか?」

「はい」

「これは聞いていいことか分かりませんが、閣下は神聖教の信じていらっしゃる?」

「まさか。うちはアララさまを信じてます」

「そうでしたか。

 しかし、なぜ神聖教会の聖地にいらっしゃったのですか?」

「なぜかわかりませんが、わたしは神聖教会から敵認定されていたらしく、その関係で御子と呼ばれるおかしな男が一度ここにやってきて暴れたんですよ」

「神聖教会の御子といえば神聖教会での最強戦士という」

「そうなんでしょう。結構丈夫でしたよ」

「それをたおされた?」

「あの時は3人がかりでたおしました。

 まあ、そのお礼にちょっとハジャルまで出かけていって、ワインなどを回収したんですよ」

「お礼にちょっと出かけていって?」

「はい。ちょっとだけ。お礼に。

 そのとき神聖教会のトップの総大主教さんを探したんですがいらっしゃらなくて。まっ、そのときたまたま見つけたのがこのワインです。お礼に行っただけなのにお礼されちゃったってことです。アッハッハッハ」

「ハハ、ハハハ。そうだったんですね。ハハハ」

 渾身のギャグだったのに、乾いた笑いで返されてしまった。

 大層な量のお金までお礼されたとは言えないよなー。そういえばもうすぐ蔵ができ上るんだった。


「そういうことですから、遠慮せずどんどん飲んでください。

 そこのきみ。大使殿にドンドンお注ぎして。他のみなさんにもね」

「はい」


 その日の晩餐会は2時間ほど、6時過ぎにお開きになった。

 大使たちは馬車は使わず徒歩で屋敷ここまでやってきたそうで、うちの人間を付けて送り帰した。


 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 晩餐会を終えてフリシア公館に帰ったケイトたち。

 部屋に入って公式衣装から普段着に着替えた。ライネッケ領から侍女を有償で派遣してもらっているが、侍女とは名ばかりで基本的には掃除とお茶を淹れる程度しか仕込まれておらず、着替えの手伝いなどできなかったので、ケイトは全て自分で行なうしかなかった。侍女を連れていかれない以上そういったところは覚悟していたので特段気にすることもなかった。


 着替え終わり、居間に入ってソファーに座り寛いでいたところ、本国から連れてきた4人がやってきた。


「みんな、お疲れさまでした」

「いえ。仕事ですから」

「みんな、エドモンド・ライネッケについてどう思った?

 マックスから順に言ってくれる?」

 文官であり、ケイト・エリクセンと共に派遣された4人の中では筆頭のマキシミリアム・ミューラーが指名され、ケイトの問いに答えた。

「ひとことで言えば得体のしれないお方です。

 殿下と話されている姿を観察していたのですが、何を考えているのか全く表情に現れないし、どこを見ているのかさえも分かりませんでした」

「なるほど」

「じゃあ、エンマは?」

 次に名指しされたのはエンマ・シュナイダー。二人目の文官である。


「おそらく先ほど供されたカルネリアワインは最上級のもの。おそらく1本金貨100枚は下らない逸品です。

 わたしが見ているだけで10本は空きました。わたしたちに有り余る財力を誇示していたのでしょう」

「アレは、ハジャルに行ってもらってきたという話ですが、話の流れからしてハジャルに討ち入って強奪したって事でしょ? 財力というより武力を誇示したのかもね」

「そうですね。いずれにせよ陛下が最も気にかけておられる人物であることは理解できました」

「そうね」


「ルーカス?」

 ルーカス・シュミットは二人の武官のうちの一人である。

「あの部屋にいた5人が5人とも一切のスキがありませんでした。特に左端に座っていた女性はそこにいることは分かっているのですが気配が全くしませんでした」

「セラフィム子爵ですね。エドモンド・ライネッケにだれが一番強いのか聞いてみたのですが、彼女が5人の中で最強だそうです」

「なるほど。理解できます」

「最後に、ハンナ。何かある?」

 ハンナ・クラインは二人目の武官である。

「とにかく出される料理が全て絶品でした!」

「そうでしたね。

 陛下の命ですがこんな田舎にやってきて、どうなることかと思っていましたが、今まで食べた食事で今日ほどおいしい食事は初めてでした」

「ですよねー。

 殿下にお供させていただいてラッキーでした!」


「これからの予定ですが、これまで打ち合わせた通り、文官の二人は街を歩いて街の規模などを探ること。武官の二人は領軍の駐屯地に行って訓練を観察し兵の練度などを探ること」

「「はい」」

「とはいっても、エドモンド・ライネッケが操るカメとクモが出てくれば兵隊なんて無意味だと陛下がおっしゃってたし、兵の観察は疑われないようほどほどでいいわよ」

「はい」


「あと、ルーカスとハンナは模擬試合頑張って」

「殿下。負ける未来しか見えないのですが」

「わたしもです」

「勝ち負けは二の次でいいのよ。納得できる試合なら」

「それも難しいような」「おなじく」

「仕方がないわね。とにかく頑張って」

「「はい」」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 一方こちらはエドモンドたち。

 晩さん会が終わり後片付けはなんちゃって侍女たちとその他のレンタル使用人たちに任せて屋敷の中庭に鎮座するウーマに帰ってきた。


 そして、各自服を着替えてソファーでゆったりくつろいで反省会を始めた。


「ケイト・エリクセンを見てどう思った?」

「ドリスとはちょっと違ってたけど、さすがはお姫さまって感じだったわね」

「ドリスは国を捨ててそれなりに苦労していたから、その辺りで今度のお姫さまと感じが違うんじゃないか?」

「そうかもね。

 何度も言うけれど、こうやってエドに似合いそうなお姫さまをフリシアが送ってきたってことはそういうことよね」

「まあな。そういう意味合いもあるだろうし、人質を差し出したって意味合いもあるんじゃないか?」

「人質?」

「そう。大事な王女を差し出している以上フリシアはヨーネフリッツに手出ししないって意味だろ?」

「そうか。そういう意味もあるわけね」

「そこまでされた以上、こっちから姫さまを害してフリシアに攻め込めないしな」

「たしかに。そういう意味だと、フリシアの王さまは策士よね」

「そうじゃないか。以前フリシアがドネスコと語らってヨーネフリッツに攻め込んだのも、フリシアの今の王さまが絵を描いたかもしれないし」

「ああー。それはあり得る」


「その王さまが送り込んだわけだから、それ相応の人物って事だろ」

「それ相応の人物であるということは、フリシア国王はエドのことをそれ相応と思っているってことですよね」

「それはそうでしょ。フリシアはドリスのところに大使を送らずここに大使を送ってきたんですもの」


「わたし、エドについてロジナ村を出て、ドリスお姉さんともお近づきになったし、今度はフリシアの王女殿下だよ。これから先一体どうなっちゃうんだよー」

「それに今では伯爵閣下の副官だし、子爵閣下だし」

「エド。よしてよ。そういえばわたし、子爵って言われているけど、副官はまだしも全然子爵っぽい扱い受けてないよね? この前なんて一人で石像と戦わされるし」

「そうかー?

 一般人なら気安く大侯爵閣下に話しかけられないのにドーラ・ライネッケ子爵閣下は気安くエドなどと言う愛称で話しかかけてくるけどな」

「だって兄妹きょうだいじゃない」

兄妹きょうだいだって、親しき中にも礼儀はあるんだぞ。

 例えば、公式の場にドーラとアルミン兄さんがいたとする。

 そのときアルミン兄さんはドーラのことをドーラって呼び捨てにせず、閣下付きで呼ぶことになるんだからな」

「うそ!」

「ほんと」

「えー」

「そういうものなの」

「そうなんだ。

 じゃあわたしこれからエドのことエドモンド大侯爵閣下て呼ばないといけないの?」

「呼んでもいいけど、面倒だろうから今まで通りでいいよ」

「うん」


「それはそうと、向うの武官二人との試合は誰が出るかな。ペラは確定として、ケイちゃんは弓矢だからなしとして、エリカか俺かドーラ。

 相手は剣みたいだけど、ドーラでいいか? ペラどう思う」

「いいんじゃないですか」

「えーーーーー!!!!」

「じゃあそういうことで。ドーラ、負けてもいいから頑張れよ」

「負けていいなら棄権するもん!」

「それはダメ」

「もう」


 ということでフリシアの武官との対戦はペラとドーラの子弟コンビが出場することになった。


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