第283話 神聖教会総本山破壊作戦2


 昨日フリシアから外務大臣がやってきて、こっちはタダの一辺境領だがいちおう友好国ということになった。

 ドリスに知らせないわけにもいかないので、カルネリアへの討ち入りの途中ブルゲンオイストの王城に立ち寄って話をしておくつもりだ。


 しばらく留守にする。と、昨日のうちに行政庁にことわって、俺たちは午前7時にツェントルムを発ちオストリンデンへの街道を進んだ。


 フリシアの連中の馬車を途中追い越すだろうと思ってスリットから前方を見ていたら、1時間もしないうちにそれらしい箱馬車と幌馬車を追い抜いてしまった。

 おそらく彼らはウーマの雄姿を初めてみたと思うが、友好関係を結べて安堵しているのではなかろうか?


 午後5時少し前にウーマはブルゲンオイストに到着したので、そこでウーマから降りて王城を目指した。


 王城まで30分ほど歩き、顔パスで城の中に入っていった俺たちは本棟の中に入っていってドリスを呼んでもらった。


 小会議室でドリスを待っていたら、サリーたち3人を引き連れてドリスが現れた。

「どうかされましたか?」

 そこで、神聖教会の御子に襲われ返り討ちにしたことと、昨日のフリシアとの取り決めの話をかいつまんで話し、土産にもらった王冠をテーブルの上に置いた。

「フリシアの外務卿?がお土産に持ってきたもので、フリシアとドネスコでハルネシアを占領した時手に入れたんだそうだ。ちなみに王笏はドネスコが持っていったとのことだ。

 俺が持っていても仕方ないから、王冠はもう発注してると思うけど、あって困る物じゃないからドリスが使ってくれ」

「ありがとうございます。

 王笏は6カ月、王冠は1年かかると言われていますから、王笏ができ上れば戴冠式を開けます」

「そいつはよかった。

 それでフリシアの公館なんだけど、とりあえず、ドリスたちのために建てたままになってた屋敷を使おうと思うけど、大丈夫だよな?」

「もちろん大丈夫です」

「良かった。必要な時は早めに言ってくれれば新しく建てるから」

「ウーマにご厄介になりますから、そういうことはあり得ません」

「了解。

 それで、フィリシア側が騒ぎを起こさないと言っているからこっちもそのつもりで騒ぎを起こさないよう特にフリシアとの国境近くの領主たちに通達しておいてくれるかな?」

「了解です。

 フリシアのことは分かりましたが、それで?」

「フリシアのことは正直どうでもいいんだけど、御子のことも少しは分かったのでこの際だからカルネリアまで行って、神聖教会の聖地ハジャルにある神聖教会の建物を破壊してやることにしたんだ。それで御子が出てくればまとめてたおす」

「御子をたおすのはいいとして、ハジャルを破壊して大丈夫ですか?」

「俺たちが仕留めた御子の話によると、むこうの総大主教というのが俺のことを敵認定してるというし、向こうから仕掛けてきたわけだから反撃してもいいんじゃないか?」

「そうかもしれませんが、神聖教の信徒たちが敵に回りませんか?」

「総大主教が敵認定してる以上、すでにれっきとした敵だろ?」

「たしかに」

「それに根っこが無くなれば自然と枝葉えだはは枯れる。そういうものだよ。一部残って先鋭化するかもしれないが、普通につぶしていけばいい」

「分かりました。

 わたしにできることはありますか?」

「いや。今回は報告に来ただけだから」

「お泊りににならないんですか?」

「すぐに発つから。それじゃあ」

「ドリス、それじゃあ。みんなもね」

「みなさん、お気をつけて」



 王城から出た俺たちは、例の店に寄ろうと思ったのだが、あいにく店が閉まっていた。

「残念!」「もう少し早くツェントルムを出ればよかった」


 市街地から出たところでウーマに乗りこみ、そこからゲルタを目指して移動した。

 1時間ほどでゲルタの東門前に到着し、そこでウーマから降りて街を横断して西門の先でゲルタ守備隊の兵士たちが敬礼する中ウーマに乗り込んだ。



 ゲルタの西門からズーリまで道なりで1500キロ。ゲルタからその先のカルネリアまでは2000キロから2100キロ。


 夕食はブルゲンオイスト、ズーリ間で済ませていたが風呂はまだだったので、いつもよりだいぶ遅かったが、女性陣、俺の順に風呂に入ってその日は終わった。


 ゲルタから先はリンガレングに警戒を任せ、道なりにウーマはズーリに向かった。

 翌日も変わったことはなく、ケイちゃんは根気よくキューブの練習を続け、今では流れるように物の出仕入れができるようになっている。


 


 そしてその翌日。ゲルタ城塞を出て50時間、1500キロ移動したあたりでウーマはズーリとの国境の峠前に到着した。時刻は午後10時。


 国境のヨーネフリッツ側には簡単な門が建てられていたが、ズーリ側には何も建てられていなかった。門の手前に平屋の建物が建っていてそれが国境警備隊?の詰め所かつ居所なのだろう。


 国境の門は閉まっていたので、開けてもらおうと思ったのだが門番は立っておらず、門自体も狭くてウーマが通れそうもない。

 門の脇が開いていたので、ウーマから降りてウーマを収納し、門の脇をすり抜けようとしたらいきなり詰めその中から兵隊が出てきて誰何すいかされてしまった。


「俺はライネッケ大侯爵だ。国王陛下のめいを受けズーリに赴くところだ」

 ドリスのめいはウソではあるが、この程度の方便は許されるだろう。

「ライネッケ閣下だという証拠でもあるのか!?」

 ごもっとも。

 ということで、ズーリ側にウーマを出してやった。

「こ、これは失礼しました。お勤めご苦労さまです。道中のご無事をお祈りします」

「ひとことかけることを怠ったわたしの責任なので気にしなくていい」

「恐縮です」

 兵隊たちが敬礼する中、俺たちはウーマに乗り込みズーリの道を進んだ。


 ズーリ内の街道は山あり谷あり。道が折れ曲がりながら高度を稼ぐものだから思った以上に距離がかさむ。


 夜の間にズーリを抜けたかったのだが、この調子だと明るい中、ズーリ内を移動することになる。ウーマから降りる気はないのでそこは仕方がない。通せんぼするようなら蹴散らすまでだ。

 

 日が変わる少し前。星明りの中、街道の両側に無数の横穴の入り口が空いた山の斜面が見えてきた。ズーリの街のようだ。

 確かに、ズーリ戦でヨーネフリッツ軍が手こずったのはうなずける。穴の中にこもられたら簡単に掃討できるわけないものな。


 ズーリは耕地不足から食料の5割は輸入と聞く。ズーリを屈服させるのには街道を封鎖するだけでいい。ただ、街道は複数の国につながっているため、一国だけで全てを封鎖することは不可能で、そのためズーリは生き残っていた。

 それを神聖教会の御子が短期間でこじ開けたわけだから、御子も大したものではある。


 翌日。

 午前4時。仮眠程度の眠りから覚めた俺はスリットから外を眺めたところ、まだ暗い中タイマツを持ったズーリの国民が沿道でウーマを眺めている。ただそれだけで何かの攻撃をする様子はない。ウーマは鉱山用ダンプカーみたいなものだし、そんなのに喧嘩を売ろうという蛮勇の持ち合わせはないようだ。


 午前6時に朝食を摂った。

 外はだいぶ明るくなってきているけれど日が昇るのはまだ先だ。


 朝食を終えて、あと片づけも終え、スリットから外を眺めていたら、兵隊が前方に固まっていた。

 何か仕掛けてくるのかと思ったが、何もせずウーマが通り過ぎるに任せていた。彼らがズーリの兵隊なのか、神聖教会の私兵なのか、カルネリアの兵隊なのかは不明だ。どことなくヤル気のなさそうな兵隊だったからズーリの兵隊かもしれない。


 午前8時過ぎ。山岳地帯から道が下り始めた。ズーリを抜けたようだ。

 目指すカルネリアまであと500キロから600キロ。遅くとも明日の午前4時には聖地ハジャルに到着できる。




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