第280話 後片付け


 ペラも完治したことで安心してソファーで寛ぎ、エリカたちが帰ってくるのを待っていたら4時過ぎにエリカたちが帰ってきた。

 聞けば、エリカたちは男が暴れたところを俺たちが討ち取ったということだけは知っていた。

 なので、説明は簡単に済ませ、さっそく男の死体の検分に取り掛かることにした。


 ウーマの中ではウーマが汚れるので、ウーマを置いている屋敷の中庭に男の死体を取り出しての検分だ。

 まずは俺とペラとで半分に割れたヘルメットを血と脳漿と何かの体液で汚れた頭から外してやった。

 三白眼は健在で宙を睨んでいる。


「死んだ人間にこういっては失礼だけど、人相が悪いわね」

「確かに。神聖教会の看板を背負ってるとはとても思えない悪人顔だな」

「神聖教会の裏の仕事専門かもしれませんね。名を名乗れば必ず相手を仕留めるとか」

「あり得るな。こいつに単独で勝てるのは、ペラくらだろうし。最初は捕まえようとしてペラも腕を落とされたし」

「何それ!?」

「そこは報告で聞いていなかったのか。最初、こいつを捕まえようとしたんだが、こいつの大剣でペラの右腕が切り飛ばされたんだ。すぐにつながって治ったけどな」

「それって相当な実力者だったって事よね」

「うん。ケイちゃんの矢が通用したからある意味簡単にたおせたけれど、普通じゃたおせないだろうな」

「そんなのがまだ数人いるって事よね」

「そういうこと」


 話しながら今度は男の赤い防具を順にはぎ取っていった。


「そういえば、こいつ遠くからやってきたくせに大剣以外に荷物を持ってなかったな」

「剣の鞘もありませんでした」

「どうなってるんだろう?」


 防具を外し終わったら男の首にペンダントのように細い鎖がかけられその先に小袋が付いていた。まるで俺が首から下げているキューブ袋だ。って、こいつもしかしてキューブを持ってるのか?

 ペンダントを首から抜いて小袋を開いてみたら、キューブが入っていた。

「こいつ、荷物がないから変だと思っていたらキューブを持ってた」

「エド。それって本物なの?」と、ドーラが覗き込んできてそう聞いてきた。


「本物だ。持つと何となくわかるんだ」

「へー、そうなんだ」

「そうなんだよ」


「この男がキューブを持っていたってことは、他の御子も持っているんでしょ?」

「おそらくな」

「神聖教会って、すごいわね」

「そうだな。少なくともヨーネフリッツの王室はキューブを持っていなかったみたいだし」


「何が入っているか分かるかな?」

「分かるし出せる。じゃあ中の物を出してみよう」


 キューブを開く**ことなく、中に入っていたものを男の死体の脇に並べていった。

 衣類、毛布、タオル、食料品、水袋、硬貨がそれなりに入った小袋。ナイフ。そういった旅道具しか入っていなかった。

 容量も俺が首から下げているキューブと違いかなり限られている。

 それでもキューブはキューブ。高価な物であることは間違いない。


「キューブに入っていた男の持ち物の中で、硬貨以外は要らないな」

「そうね」

「じゃあ、ゴミとして処理しよう」

 俺はゴミを自分のキューブにしまった。

「男の持っていたキューブだけど、誰が持っておく?」

「そうねー。鉄塊を投げるペラが持っておくのが一番いいんじゃないかな?」

「確かに。

 それじゃあ、ペラ」

「ありがとうございます」

「キューブを展開しなくても、物の出し入れができるように訓練しておかないとな」

「はい」

「とりあえず、鉄塊は全部渡しておこう」

「はい」


 ペラの前に鉄塊の山を作った。先ほどの感覚から言って、この程度の量ならペラが手にしたキューブに入る。

「まずは、キューブを展開しての出し入れだ」

「はい。

 それでどうすれば展開できるんですか?」

「キューブに向かって『開け』とかそれに類する言葉をかければ、開くんだ。

 慣れてきたらキューブに向かって『開け』と考えるだけで開くようになる。

 さらに慣れてきたら、開かなくても『収納』とか考えるだけでキューブの中にしまうことができるようなる。

 閉じる時は『閉まれ』とかそんな言葉。あとは一緒だな。『収納』の代わりは『排出』とか『出ろ』。そこまでできるように成れば出したいものを思い描くだけで排出できるようになる」

「了解しました。

 それでは、『開け!』」

 ペラが手にしたキューブに向かって声をかけたが、反応がなかった。

「おかしいな。

 ペラ、ちょっと見せてくれるか?」

 ペラからキューブを受け取ってキューブに向かって『開け!』と声をかけたらちゃんと開いた。

 元に戻して今度はエリカが試したところやっぱりちゃんと開いた。

「おかしいな。ペラだと使えないのかな?」

「わたしは、人ではなくドールですから無理なのでは?」

「その可能性はあるな。

 仕方ない。ペラ以外で持っていた方がいいのは誰だ?」

「それならケイちゃんじゃない。ウサツとか矢とか自分で運んでいれば役に立つと思うけど」

「そうだな。それじゃあ、ケイちゃんに預けよう。

 なんであれ暇なときは練習して開かないでも使えるようにならないとな」

「分かりました」

 ということで、男から手に入れたキューブ一式をケイちゃんに渡しておいた。

 四角手裏剣は結局俺がまたキューブにおさめておいた。


 ペラがキューブを使えなかったことは残念だが、ペラが使えたらそれこそチートだものな。ケイちゃんが使うことになったのでそれはそれでよかった。キューブに慣れれば、文字通り連射できそうだものな。


「後は、男の大剣と防具だけど、大剣を扱えそうなのはペラだけだな。大剣なら間合いが広いから今回のように腕を持っていかれることもないだろうし、丈夫そうな大剣だからペラの全力にも耐えるんじゃないか。俺が預かって必要な時ペラに渡せばいいか?」

「はい」


「防具はどうしよう? ドーラの防具だけがダンジョン産じゃないからドーラが身につける?」

「大きさ的に無理」

 ブカブカの防具ではどうしようもないし、ドーラの防具はワイバーンの革からエルフの里で作ってもらった物なので防御力はかなりあると思うから、まっ、いっか。

「じゃあ、ペラ?」

「動きが鈍くなりますから」

「結局、死蔵するほかないか」

「それでいいんじゃない。ライネッケ領の宝物って感じにしておけば」

「そうするか」


 全員が風呂から上がったところで、夕食になった。

 夕食を食べながらの話題は自然と御子の話になった。


「脅威がある以上それを早めに取り除かないと安心して眠れないだろ?」

「こっちから御子に仕掛けるって事?」

「ドリスが送ってくれた密偵から、御子がらみの何かの報告があるまで動きようがないんだけどな」

「なんであれ、どうせ潰すんでしょ? それならこっちから神聖教会に乗り込んだら御子ともども一網打尽にできるんじゃない? こっちにはリンガレングがいるんだし。面倒ならゲルタの西でリンガレングがやったことを神聖教会の本山に向かってやればいいだけでしょ?

 そもそも、あいつが先に襲って来たんだから容赦する必要なんて全然ないんだし」

 さすがはライネッケ領軍本部長のエリカさん。タカ派的発言が素晴らしい。

 あいつが先に襲ってきたのは俺たちにとっては事実だが、相手が認めなければそれまで。とはいえ、問答無用で叩き潰すつもりなので、今さらおまえが先に手を出したから云々などどうでもいいことだし、俺たちが単独で戦うわけだから大義名分など後付けで十分。


「エリカの言うその線***で考えておくか。

 男の死体もそのうちゴミとしてダンジョンで捨てて処分するつもりなんだけど、それでいいよな?」

「もちろんいいわよ」「「はい」」「うん」



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