第275話 お疲れさん会2。鉱山
ツェントルムに帰還して、いつもの気楽亭の隅の専用個室でお疲れさん会を催した。
飲み食いしながら話は温泉保養所からカルネリアに移っていった。
「それはそうと、カルネリアをどうするか? が、当面の課題と思うんだ」
「ヨーネフリッツの中にまだかなり浸透してるんでしょうね」
「国の真ん中はケイちゃんとペラのおかげで掃除できたようだけど、結局大元を絶たないとだめだろ?」
「ということは、カルネリアに対して軍を動かすって事よね」
「最終的にはそうなる。
だけど、その前にズーリとハイムントのどちらか、ないしは両方を片付けようと思う」
「通り道だもんね」
「うん。
ズーリについては、ヨーネフリッツ軍が5年ほど前に大失敗してるから気を付けないといけないと思うけど、兵隊を連れずに俺たちだけで突っ込んでいき、ズーリの都らしき場所に迫れば降伏するんじゃないか?」
「そうならありがたいけど、結構粘るかもしれないわよ?」
「小規模な部隊でチョロチョロ出てこられると大敗北を与えられないしな」
「そういった国をカルネリアはどうやって下したんでしょう? カルネリアってヨーネフリッツと比べれば弱小ですよね?」
「確かに不思議だよな」
「カルネリアがズーリに侵攻したことを、ヨーネフリッツ、ドネスコ、フリシアの3国が見逃したことも謎よね」
「というか、3国が干渉する暇を与えずにカルネリアがズーリを下したって事じゃないか?」
「そうするとまた、弱小カルネリアがズーリを簡単に下したことが謎のまま残っちゃうわよね」
「ねえ。わたし思ったんだけど」
「ドーラ、何か思いついた?」
「うん。カルネリアにウーマとかリンガレングとかペラさんがいるってことないかな? もちろんわたしたちのウーマとかじゃなくって、似たようなものって意味だけど」
「俺たちがウーマとかを持っている以上、他の誰かが持っていても不思議じゃないと言えばその通りだな」
「でも、ウーマやリンガレングほどじゃないと思うのよね。少なくともリンガレングはないんじゃない?」
「そうだな。リンガレングがあれば味方は無傷で100戦100勝だ。それくらいならズーリとハイムントで満足する必要ないものな」
「とにかく、カルネリアのことを知らなければ始まらないんじゃない? リンガレングほどじゃなくても万が一似たような化け物が現れたらこちらもタダじゃ済まないわけだし」
「言えてるな。ということは何とかしてカルネリアに密偵を潜り込ませる?」
「ねえエド。密偵って何?」
「ああ、密偵というのは、目立たないように敵の近くまで行って観察したり、ウソのうわさを広めたり、場合によったら敵の中の個人に何かを仕掛けて味方に引き入れたりする連中のことだ」
「そうなんだ。エドってアルミン兄さんも知らないような難しい言葉を知ってるよね」
「たまたま知ってただけだ」
「ふーん。たまたまだったんだ」
「そうなんだよ」
「ふーん」
「エドが難しい言葉を知っているのはおいて、
カルネリアに密偵を潜り込ませるんだったら、神聖教会の総本山がある聖地ハジャルに巡礼の振りをして送り込めばいいんじゃない? たしか、ヨーネフリッツからでも巡礼者ならズーリを抜けられたはずよ」
「それがいいかもしれないな。化け物が実際にいるのなら、ズーリの人は見てるはずだし、ズーリでも何がしかのことが分かる」
「ズーリが独立を捨てカルネリアの属国になったということは、通常不本意ながら属国になったんですよね?」
「普通はそうだろうな」
「ということは、ズーリ内にカルネリアを良く思っていない勢力がいるんじゃないでしょうか?」
「必ずいるだろうな」
「密偵を使ってその連中に渡りをつけ、こちらに引き入れてしまうのはどうでしょう?」
「いい案だと思う。その反カルネリア勢力がいたとして、どういったエサで釣れるかな?」
「ヨーネフリッツが戦争を仕掛けたという
「だろうな。
俺たちは、ズーリに邪魔されずにカルネリアに侵攻できればそれでいいんだけど、軍隊はさすがに通させてはくれないだろうな。
何はともあれ、探れるものは探らないと始まらないから、エリカは明日ブルゲンオイストから使者が来るようならその使者でもいいし来ないようならこっちからに伝令を出して、カルネリアを調べるため密偵をズーリに送ってくれるようにドリスに依頼してくれるか? その時俺たちの目的もドリスに伝えてくれ」
「了解」
「2カ月もあればある程度様子がつかめるだろ」
「そうね。
じゃあドーラ副官、ドリスに送る手紙の文面は任せたわよ」
「えっ! じゃなくって了解です」
翌日。
エリカとドーラをウーマから送り出し、一度ウーマをキューブにしまってから屋敷の外に出し、俺とケイちゃんとペラが乗り込んでウーマは鉱山に向け出発した。
鉱山までの道はまだ舗装されていないので、荷馬車での物資の輸送はできないわけではないが鉱石となると重量がかさむため鉱山から市街にある鉱石ヤードまでの運搬は難しい。
そういうことなので俺が積極的に鉱石を運搬している。もちろん俺がいつも面倒みられるわけではないので、採掘した鉱石用のヤードは広めにとっている。ヤードの周りには側溝を掘り、雨水などは側溝から一度清澄池を通って近くの小川に流される。
科学的な廃水処理をしているわけではないので、危ない金属も排水に含まれる可能性があるが、今のところ排水の流れ込む小川の生態系はいたって正常に見えるので、ヤバい廃水が流れ込んではいないと思う。将来的に化学が発達すれば、ちゃんとした廃水処理施設を作る必要があるが、少なくとも俺が生きている間に鉱毒事故など起こらないのではないだろうか。
ウーマで順に鉱山を巡り、俺は山積みにされていた鉱石をキューブに収納しつつ露天掘りを視察していった。
この世界にはまだ火薬があるわけではないので、ツルハシとタガネとハンマーでの力仕事だ。掘り出した鉱石はカゴに入れてそれを背負って鉱石ヤードまで運ぶ。採掘の過程で生まれた鉱石ではないただの石であるズリもズリヤードに運ばれているのでそれも俺が回収する。ズリそのものに利用価値はないのでそのうち捨てないといけないが、
ちなみに、鉱山労働はどの鉱山でもかなりの重労働なので、1日あたりの労働時間は5時間とかなり短く設定している。
作業している連中からすれば、俺が回ってきた=鉱石とズリを運び出してもらえる=領主が頑張ってくれている。という、一体感を持つことができると思う。待遇改善も大切だがトップを身近に感じることも大切だと俺は思っている。
鉱石ヤードとズリヤードが空になったら次の鉱山に回り、全部のヤードを片付けてツェントルムに戻た。
ツェントルムでは区画整理を進めていて、鍛冶工房は工業区画の中にまとめられて鍛冶工房群を作っていてその鍛冶工房群に隣接して鉱石用ヤードを設けている。そのヤードの鉱石ごとの指定場所に鉱石を積んでいった。
作業は午後3時には終わったので屋敷に戻って、そこでウーマから降り、中庭に出したウーマに再度乗り込んだ。
「エド、ご苦労さまでした」
ケイちゃんが淹れてくれたお茶を飲んで寛いだ。
うまい!
労働の後のエールもいいが、お茶もおいしい。
4時少し過ぎにエリカとドーラが帰ってきたので、女子たちは風呂に入り、その間に俺は夕食の準備をあらかた終え、エリカたちが風呂から上がるのを待った。
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