第210話 ウーマに招待
ライネッケ遊撃隊が始動して4日が過ぎた。訓練はいたって順調で、兵隊たちは号令通り動けるようになってきており、隊列での行進訓練が主な訓練内容になってきている。
父さんが言うには、いたって順調。そして、募兵のくせにみんな体力があるということだった。
これは兵隊たちは俺の部下扱いということで、レメンゲン効果で体力が底上げされたのだと思う。目論見通りといえば目論見通り。最高の部隊に一歩近づいたと思っていいだろう。
ペラとドーラは伝票仕事をあらかた覚えたようだ。ヨゼフに言わせるとかなり優秀だそうだ。お世辞にしても何となくうれしい。
そして明日は5日に1度の休養日。
夕方隊舎を離れる前。
ウーマに父さんたちを招待するため俺はドーラを連れて父さんの部屋に行った。
「父さん、明日休みだけど、何か用事がある?」
「特にないから、隊舎でゆっくりしようと思っている」
「それなら、ヨゼフさんと一緒に俺たちの住んでいる倉庫に来ない?」
「そうだな。そうしよう」
「明日の11時ごろ迎えに来るよ」
「了解した」
「二人とも忘れずに着替えを持ってきてくれる? 下着だけでいいんだけど」
「下着? なんでまた?」
「それは当日のお楽しみ」
父さんは不審そうな顔をしていたが
椅子が一脚足りなかったので隊長室から、ドーラの椅子を借りることにしてキューブにしまっておいた。
帰り道。俺だけ寄り道して、エールとブドウ酒を中ぐらいの樽で買った。注ぐためには樽を寝かせて栓を緩めないといけない。
買った樽はウーマに戻ってから食料庫に入れておいた。明日までにはある程度冷えるだろう。
ふるまう料理については、ハンバーグをメインにして、付け合わせに温野菜。いつものスープに、つまみとしてトカゲの唐揚げ、ソーセージ各種、チーズ各種、キュウリのピクルスなどの漬物各種を用意している。ここ2、3日。ウーマに帰ってから風呂と夕食を終えてから用意したものだ。
ペラが尋常でないスピードで下ごしらえしてくれるので、すごく楽だ。
そして翌日。
俺は父さんたちを迎えに隊舎に向かった。
駐屯地の出入り口に父さんとヨゼフさんが立っていた。
「父さんたち、荷物は?」
「軍のリュックしかないし、下着だけだから、丸めてポケットに入れておいた」
確かにズボンのポケットが膨らんでいる。
「持ってるんならいいよ。
それじゃあ行こう。ここから30分ほどだから」
「俺は土産をなにも用意していないから途中で買い物したいんだが?」
「気を使う必要なんかないから」
「実の子どもであってもけじめだけはつけないとならんのだ」
「そう言ってくれるだけでいいから、みんな待ってるし急ごう」
「そうか。まあ、それなら仕方ない」
やや速足で倉庫に歩いて行ったところ、倉庫前にエリカ以下4人が出て俺たちを待っていた。
「みんな揃って、済まないな」
「それじゃあ、中に案内するよ」
俺が先頭になって通用口を開け、倉庫の中に入った。
その後、父さん、ヨゼフさん、エリカたち。
「なっ! なんなんだー!」
「俺たちの家」
「カメじゃないか?」
「うん。見た通りカメなんだけど、中は部屋があって家なんだ」
脚を折って腹を地面につけたウーマの横に回ってサイドハッチを開けて中に入り、父さんたちに早く入るようせかしてやった。
「ホントに家の中ではあるが、部屋の雰囲気が普通の家はないぞ。それに、外から見たのと全然広さも形も違うんじゃないか?」
「普通じゃないからこれでいいんだよ。
食事が先より風呂が先の方がいいだろ?」
「風呂? 今は冬だから、そうそう風呂に入りたくはないんだが、そのための着替えだったのか?」
「そうなんだけど、ここの風呂は水風呂じゃなくってお湯の風呂なんだ」
「お湯の風呂?ってお湯の風呂なのか?」
「温かいお湯の風呂」
「温かい?」
「そう温かい水だからお湯」
「それって王侯貴族が入るというお湯の風呂ってことか?」
「父さんも一応貴族なんじゃないの?」
「そういえばそうかもしれないが、俺はまだ一度もお湯の風呂に入った記憶はないぞ」
「だから、入ってみれば分かるから。
ちょっと使い方が難しいから俺も一緒に風呂に入るよ」
「何だか分からないが、お前がそういうならそうしよう。ヨゼフいいな?」
「はい」
エリカたちは半笑いで俺たちの会話を聞いていた。
風呂場の前の棚からカゴを三つ持って風呂に入り、俺に続いて父さんたちが風呂場に入ってきた。
「なっ! なんじゃこれはー!」
口で説明するのは面倒なので、俺はガーゴイルに向かってお湯を出すよう命令した。
勢いよく湯舟の中にお湯が入って行き、湯気も立ち始めた。
「本当にお湯が出てるぞ。ヨゼフ、見てみろ」
「スゴイですねー」
「一体どうなってる?」
「父さん。いいから、服を脱いで。脱いだ服はこのカゴに入れてそこらの棚の上に乗っけておいてよ」
「あ、ああ分かった」
二人と一緒に俺も裸になった俺は首から革ひもでかけていたキューブから3人分のバスタオルと体を洗うためのタオルを出した後一緒にかごの中に入れておいた。
「いま急に真っ白なタオルがエドの手に現れたように見えたが、どうなってるんだ?」
「いろいろあるんだよ。いろいろ」
「いろいろあるのか?」
「そう。いろいろ」
俺たちがそんなことを言いながら真っ裸になった頃には湯舟にお湯が一杯になっていてガーゴイルからのお湯は止まっている。
「裸になったら、そこらに置いてある桶でお湯をすくって体にかけて、軽く体を洗ってからお湯の中に入る。
こんな感じ」
俺がかけ湯をして、軽く手で各所をすりすりしてから再度かけ湯をして湯舟に浸かった。
俺を真似して、父さんとヨゼフさんもかけ湯をした。
「ホントにお湯だぞ」
「お湯がこんなにたくさん。信じられません」
その後、父さんがお湯に足を付け、そしてゆっくり腰を下ろして肩までお湯に浸かった。
「うぉー。何だこれは、すっごく気持ちいいぞ。まさに王侯貴族の気分だ!」
「気持ちいー」
「ふー。
ひょっとして、エドは毎日お湯の風呂に入っているのか?」
「そうだよ。隊から帰ってきたら毎日入ってるよ」
「いくら貴族になったからといってそんな贅沢をしていいのか?」
「これはタダだから」
「なっ、なにー!」
「ここはカメの中なのは分かるだろ?」
「もちろんだ」
「このカメって、ウーマって勝手に名前を付けたんだけど、サクラダダンジョンの中で見つけたアイテムなんだよ」
「そういうことだったのか。なるほど。いわゆるダンジョンの不思議アイテムってことだな」
「そういうこと」
「そういえば、この前サクラダダンジョンのトップチームだとか言ってたものな」
「そう」
「体が温まったら、体と髪の洗い方を教えるよ」
「あのなー、俺は自分で頭も体も洗えるぞ」
「それはそうなんだけど、いろいろあるんだよ」
「いろいろ?」
「そう、いろいろ」
俺が先に湯舟から上がって、父さん、ヨゼフさんが上がるのを待って、まずは蛇口の説明をした。
「このパイプからお湯が出てくるんだ。お湯の出し方は口で『出ろ』とか言えばいいから。お湯を止めるときは『止まれ』」
「父さんやってみて」
「出ろ。
うわっ。ホントに湯が出てきた」
「お湯がもし
「分かった」
「それで上に小さな穴が沢山空いた金物のキノコのようなものが壁についてるだろ? そこからお湯が雨のように降ってくるんだ。使い方はさっきと同じ」
「分かった」
「下の棚の上に並んだ変わった入れ物が、灰の上澄み代わりで汚れを落とす素なんだ。左側が体用。真ん中が髪用。右も髪用なんだけど洗った後のゴワゴワを治す薬みたいなもの。
どの入れ物も上のポッチを押したらポッチの横から液が出るから。
まずは体を洗う灰の上澄み。これをこうやって濡れタオルにかけて、そして体を拭いていく。
そうすると泡が立って汚れが落ちるけど、父さんたちの場合は初めてだから最初はあまり泡が立たないかもしれない。一度洗ったあと、壁からお湯の雨を降らして体のヌルヌルとタオルのヌルヌルを流してからもう一度同じ感じで灰の上澄み代わりをタオルに付けて体をよく拭いていけば泡が立つってきれいになるから。
それじゃあ、やってみるから」
俺はそうやって実演してみせた。
「おー、泡が出てる」
まあそうなんだけど。
「じゃあ、二人やってみて」
二人が俺の真似をして体を洗っている間に俺はシャワーで体を流しておいた。
「確かに一度じゃ泡が立たないな。どれもう一度」
父さんたちは俺が説明したことをちゃんと覚えていたようで、2回目はちゃんと泡が立った。
その後、シャンプーの説明、リンスの説明をして実演してみせ、二人が頭を二度洗い終わりリンスもしてシャワーですっかり石鹸成分を落としたところで、再度湯舟に浸かった。
しばらく湯舟に浸かった後、湯舟から上がり、体をバスタオルで拭いて新しい下着を身に着けその上も着たところで風呂から出た。
二人の使ったタオルは俺が預かり、俺の使ったタオルと一緒に洗濯機に入れておいた。
風呂場から出たところでドライヤーで髪と体を乾かして見せて父さんとヨゼフさんの髪と体が乾いたところで食堂のテーブルに案内した。
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