第194話 傭兵団8、ゲルタ2
トントン拍子にゲルタの城壁に上る許可証のようなものを守備隊長からもらってしまった。
ケイちゃんが直接隊長さんと会話したわけではないが、ケイちゃんのハイエルフオーラが影響したに違いない。
守備隊本部から本部前の広場に出た俺たちは、次に敵が攻め来るであろうヨーネフリッツ本土側である西側の城壁を見てみることにした。
広場から適当に西に向かって歩いて行ったら、城壁の前の道に出た。
城壁に沿って階段が適当な間隔を置いて作られている。
その階段を上って行き城壁の上に立ったところ城壁の上は通路になっていて、見張りの兵隊が西の方を見ながら歩いていたが、俺たちのことを見とがめることはなかった。
これでいいのか!? とか少し思ったが、俺たちの放つ善良オーラが彼らの警戒心を緩めたのだと思っていよう。
通路にはところどころ丸石が積まれた小山があった。積まれた丸石は投石用には大きすぎるので、梯子とかを壁にかけられたら上から落とすのだろう。
城壁の高さは約10メートル。上から見晴らすと、城壁の先は荒れ地が広がっていて、その真ん中を西に街道が伸び途中で南北へ枝分かれしていた。
「こちら側も田園地帯かと思ったけれど、ちがったようだ」
「あっちはヨルマン領じゃないから、誰も耕さないんじゃない」
よく見れば畑の区画のようなものが見えるような見えないような。つまり昔はこちら側が田園地帯だったのだろうが、ヨーネフリッツが東に向かって発展していく過程で西側が寂れていき最終的に耕作放棄されたのだろう。
とにかく、これなら心置きなく戦える。
遠くをじっと見ていたドーラが俺に。
「エド、父さん、ひょっこり帰ってくることってないかな?」
「父さんが王都に行ったタイミング次第だろうな。
王都が敵に占領された後だったら、うまく立ち回って逃げられたと思う。王都にいるところを敵に襲われたのなら捕虜になってるかもしれない」
「もし、父さんが捕虜になっていたら助けに行こうよ」
「一応父さんは準男爵だから身代金さえ払えばいいから、それはそれで何とかなると思うぞ。身代金の相場は分からないけれど準男爵くらいならそこまで高いとも思えないし。
いずれにせよ、父さんは無事だ」
「そうだよね」
「今のところ父さんが敵に捕まったか、うまく逃げおおせたかは五分五分だ。
ロジナ村からサクラダに行って以来俺はとんでもなく運がいいから、五分五分の勝負なら絶対勝つ。つまり父さんは必ずヨルマンに戻ってくるから、その時きっと会えるさ」
「うん」
ドーラも安心したようだし、俺もドーラにそれらしいことを言っていたら自分でも父さんが無事帰ってくると思い始めた。
「ペラ。ここの正面に敵が押し寄せてきて、ここから四角手裏剣を投げたとしてどれくらいまでの敵をたおせそうだ?」
「人間はソフトターゲットですから、この高さでいつもの四角手裏剣なら有効射程は500メートル程度になります」
「分かった」
500メートルもあれば完全なアウトレンジだ。
「ねえ、エド。ペラは難しい言葉をいつも使っているけど、エドはそれを理解してるじゃない。エドってまさか王都にある学校に行ってないわよね?」
「そういった意味ではロジナ村から出たことはないよ」
「つまり、家の人に教わったってこと?」
「そう。かな?」
「エドのお父さんてすごい人なのね」
「それほどでも」
ここは、父さんが教養人であるということにしてしまおう。
「さて、下見はできたから次は宿を探そうか?」
「そうね」
「下に下りて誰かに聞いてみます」
俺たちは城壁の上から階段を下りて、通りかかった兵隊さんにケイちゃんが宿のことを聞いてくれた。
「北側は主に領軍が使っていて一般向けの宿はないそうです。南側に行ってそこで聞いてみましょう」
俺たちはケイちゃんに先導されて、南側の市街に入っていった。
北側の市街は整然とし過ぎてなんとなく硬い感じがしたが、こっちの市街はいわゆる普通の市街だった。
ケイちゃんが道行く人に宿のことを聞いてくれ、俺たちはケイちゃんについて宿に向かった。
宿は駅馬車の駅舎の近くで、それほど大きな宿ではなかったがそこそこ立派な宿だった。
連泊を何日するか考慮するため、宿の込み具合を聞いたところ、空いている。とのことだった。混んでいるようなら長めにとった方がいいが混んでいないなら短めにとって、延泊することもできる。
「何日くらい泊まろうか?」
「少なくとも敵が来るまではここにいないといけないんだから10日くらいとっておけばいいんじゃない。
その前に片が付けばキャンセルすればいいんだし。
キャンセル料を取られたとしてもたかが知れてるわよ」
「それもそうか。
それじゃあ5人で10日。朝夕付きでお願いします」
俺たちは2階の6人部屋に案内された。
ベッドの位置を決めて、キューブの中に預かっていた各自の私物の入ったリュックをみんなに返しておいた。
「あとは、早く敵に攻めてきてもらいたいわね」
「敵の数はどれくらいと思う?」
「そうねー。ヨルマンの領兵の数はおそらく敵も知っているでしょうから、その2、3倍ってとこじゃない?」
「ヨルマンの領兵って何人ぐらいいるの?」
「さー。ヨルマン領は裕福だから、1万人くらいいるんじゃない」
「じゃあ、2から3万?」
「ケチって1万で負けちゃ意味ないし、脅すだけで降伏してくれれば儲けものなんだから、必ず出せるだけの数出して来ると思うわよ」
エリカって、これ系統の教育を受けたことがあるようなことを言う。
「じゃあ、3万の敵を相手に戦うわけか」
「そうじゃない」
「城壁の上からペラに鉄の塊を投げさせようと思ったんだけど、3万もいるとそのうち城壁に取りつかれるよな」
「押し寄せる3万の兵隊をワイバーンのように一人一人たおしていったら、100人もたおさないうちに梯子を持った敵の兵隊が城壁に取りつくと思う」
「じゃあ、敵が城壁をよじ登ってきたらそれを俺たちで斬り伏せる?」
「そうなっちゃうと、わたしたちの周りだけはどうとでもなるでしょうけど、おそらく敵の兵隊はわたしたちを避けて市街に大量に下りて行っちゃうわよ」
「それはマズいじゃないか」
「だから、そうならないように考えないといけないのよ」
なるべくリンガレングは投入したくなかったが、やっぱり投入しないといけないか?
「それで、エリカには良い方法がある?」
「そんなものないわ」
「うーん。
ペラは何かいい手を思いつけないか?」
「敵の指揮官クラスを狙撃してはどうでしょう?
敵の指揮系統を破壊すれば、敵兵は烏合の衆になり積極的攻勢はできなくなります」
「狙い撃ちか。
しかし、そんなに簡単に討ち取れるか?」
「基本的にこちらに向けて直進しているような的ですから確実にたおせます」
力強い言葉だな。
「分かった。その線で行くとしよう。
しかし、それがうまくいくと、俺を含めて残りの4人の出番が無くなるな」
「それでもいいんじゃない。チームなんだし」
「それもそうか」
作戦は一応決まった。あとは敵が現れるのを待つだけだ。そして、父さんは戦いの前後で必ず帰ってくる。そうだろ? レメンゲン。
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