第193話 傭兵団7、ゲルタ

[まえがき]

2024年9月18日23時

160話において東方艦隊のトップを司令官としていましたが本部長に変更しました。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 結団式を終えた翌朝。

 朝の支度を終えて宿の食堂で朝食を摂り、一度部屋に戻って装備を整えて部屋を出た。

 受け付けに部屋のカギを返して、俺たちは大通りに出てゲルタに向けて歩き出した。

 時刻は7時少し前。俺、エリカ、ケイちゃん、ドーラ、ペラのダンジョンでの一列隊形での移動だ。


 領都の市街から街道に入り、前方に青く山並みが見えるくらいで取り立てて変わったところもなく、一時間ごとに現れる宿場町を通過して俺たちはゲルタに向かって西進した。


 一度小休止を取って5つ目の宿場町に到着したところで12時少し前だったので、宿場町の食堂に入った。

 それなりに食堂は混んでいたが、ちょうど6人席が空いていたのでそこに座り、定食と飲みものを頼んだ。

「ここから2つ先がゲルタだから、歩いて正解だったわね」

「そうだな」

「たまに太陽の下を歩くのもいいものですね」

「馬車と同じ速さで歩くんだもん」

「ダンジョンの中と同じ速さで歩いただけだぞ」

「そうだったの!?」

「そうだったんだ。それにドーラだってほとんど疲れていないだろ?」

「う、うん。ほとんどというか、全然」

「それだけドーラの足が丈夫になったってことだ」

「わたしの足、太くなるのかな?」

「丈夫になることと、太くなることは全然関係ないから安心しろ。こうして歩いて丈夫になれば無駄な肉が取れて見た目が良くなるはずだ」

「そうなんだ。安心した」

「ドーラ、その年で格好を気にしてるのか?」

「当たり前じゃない。何言ってるの?」

「エド、女子なんだから格好を気にするのは当り前よ」

「そうですよ」

 なんで俺が責められるの?

「ペラはそうは思わないよな?」

「いえ。そうだと思います」

 何だよ。


 若干仲間外れにされた感じのあった昼食を終え、俺たちはゲルタに向かって街道を歩いていった。そのころには前方に見える山並みは青みはなくなり黄色くなっていた。


 次の宿場町を過ぎたところで、ゲルタの城壁が見えてきた。

 黄土色の石で組み上がったように見える城壁は結構高くて、街の建物は城壁越しには見えなかった。街の周辺は田園地帯に成っていることが多いのだが、ここも御多分に漏れず田園地帯が広がっていて、ところどころに集落があった。畑の秋の収穫はほとんど終わっているようで、きれいなものだ。今回戦いの舞台となるゲルタを越えた向こう側にも田園地帯が広がっているのだろうが、こちら側と同じように秋の収穫はほとんど終わっているだろう。


 ゲルタの街の入り口の城門前には衛兵が数人立っていて、どういう基準か分からないがたまに通行人が呼び止められていた。人相風体が怪しい人物が呼び止められているのだろうと思ったけれど、いちおう念のため後ろの4人にダンジョンギルドでもらったタグを用意しておくように言った。


 そのあと門前の衛兵の前を通ったのだが俺以下5名、誰も呼び止められなかった。

 誰が見ても俺たちは善良な領民なので、タグの準備は無駄になった。


 ゲルタの門をくぐるとエリカの言っていたように壁に挟まれた通路になっていて、しばらく歩いていくと途中左右の壁に開いた扉があった。

 左の方には荷馬車とか入っていくし、たいていの人は左側に入っていった。


「ここの守備隊の隊長にあいさつしたいんだけど、どっちに行こうか?」

「どっちでもいいんじゃない」

「さっきの兵隊さんに聞いておけばよかったですね」

 俺もそう思う。

「どっちでも入ってしまってそこで誰かに聞けばいいのよ」

「そうですね」

 左側の扉の前で俺たちが乗ったかもしれない乗合馬車がつかえていたので、俺たちは取りあえず右側、北側の扉を抜けて壁の向こう側の市街に出た。


 兵隊が一人扉の先に建っていたので、ケイちゃんがいつものように守備隊の隊長のいるところまでの道を聞いてくれた。

 ケイちゃんはすぐに戻ってきて、

「こっち側で良かったようです。守備隊本部はこの先をまっすぐ進むと広場があってその広場に面した建物のうち屋根に旗が立っているそうです」


 説明をケイちゃんから受けたけど、結局ケイちゃんが俺たちを先導して守備隊本部前に到着した。


 守備隊本部の扉の両側には槍と盾を持った衛兵がそれぞれ一名ずつ立っていた。守備隊本部の建物自体はそれほど大きくはない。もう長いこと平時だったのだろうから、普段の兵隊の数はそれほど多くはないはずだ。それで建物もそれなりなのだろう。


「隊長は会ってくれるかな?」

「わたしたちの見た目、ものすごく若造だし、傭兵団ギルドの時みたいにあしらわれるかもしれないわね」

「それ大いにあり得る話だよな。

 となると、どうすればいいんだ?」

「試しにわたしが衛兵に守備隊長に会わせてくれるよう言ってみましょう」

「それじゃあ、ケイちゃん頼んだ」

「はい」


 ケイちゃんが片方の衛兵の前に歩いて行ったので俺たちも後についていった。


 それで、その衛兵にケイちゃんが守備隊長に取り次いでもらいたい。と、ひとこと言ったら、その衛兵は建物の中に入って行っていき、しばらくして戻ってきた。

「守備隊長がお会いになるそうです。どうぞ」

 その衛兵が先導してくれて俺たちは建物の中に入って行いった。

 建物の中の短い通路をまっすぐ歩き、正面の扉の前で立ち止まった衛兵が中に向かって「お連れしました」と、言ったら、中から『入れ』と、返事があった。


 衛兵が開けてくれた扉から中に入るとそこはそれほど広くはない部屋で、机の他に小型のテーブルと椅子が置かれていて、壁には作り付けの棚があり、飾り物が並べてあった。

「わたしが守備隊を任されているフランツ・ホトだ。

 座ってくれと言いたいところだが、椅子が足りんな。

 立ったままでもいいだろう。それで、きみたちの用件は何だね?」

「わたしたちは5人しかいませんが傭兵団です」

 そう言って、傭兵ギルドでもらった証明書を隊長に見せた。

「傭兵団『5人』?」

 しまったー。もっとまじめな名まえにすればよかった。橋の下の水のごとく後の祭り。

「一応、ここにいる5人なもので」

「子どもが5人?」

「そうなんですけど、これでもサクラダダンジョンギルドではトップチームなんです」

「名まえは覚えていないが、15、6の子どものチームがトップチームだと聞いた覚えがあったようななかったような?」

「それがわたしたちで、ダンジョンギルドでのチーム名はサクラダの星です」

「それは聞いたことがある。ような気がしないでもない。

 それが事実として、どうして傭兵団としてここにやってきたんだね?」

「実は私の父親は、領軍を率いて王都に行ったんですが、今王都はどこかよそ国に占領されてるんじゃないかってブルゲンオイストでうわさになっていまして。それで父親のことが心配だったので情報を得ようと傭兵団を作って傭兵ギルドに登録しました。傭兵ギルドで、王都が陥ちたのならいずれゲルタここに敵が押し寄せてくるだろうと聞いたもので、ゲルタここにやって来ました。敵がやってきたら、手助けさせてもらっていいですか?」

「そうか、きみは派遣隊のライネッケ準男爵の息子さんだったのか。なるほど。

 手助けしてくれるというのはありがたいが、いくらダンジョンギルドのトップチームと言えども今度の敵は大勢の人間だ。たった5人のきみたちにいったい何ができるんだね?」


「とりあえず、敵と戦ってこのゲルタを守る。ですか」

「5人で?」

「5人しかいないので、正面に敵がいるとしてですけど」

「まあ、よく分からんがよく分かった。

 適当にやってもらって構わんから、くれぐれもわが軍の邪魔だけはしないようにな」

「敵が攻めてきたら城壁の上に上がる許可をお願いしたいんですが?」

「城壁の上とて安全ではないぞ? 敵が最初に乗り込んでくるのが城壁だからな」

「そういう意味じゃないんですが、上からだと敵が良く見えるので」

「ただ見物したいというのか?」

「いえ、そこから弓を射ることもできるし、物を投げることもできますから」

「弓を射てくれるのはありがたいが、城壁の上には余分な矢もなければ石など置いていないぞ」

「それは自前で用意するので大丈夫です」

「よくわからんが、一人でも手助けがあればありがたい。よろしく頼む。

 外壁への立ち入り許可を今書くからちょっと待てくれ」

 隊長さんが机に戻って紙を1枚引き出しから取り出して、それに何やら書き込み、最後にサインらしきものを書いた。その紙を俺に渡してくれた。

「邪魔をしなければだれも何も言わないが、もし誰かに何か言われたらその紙を見せればいい」

「ありがとうございます」

 俺たちは礼をして隊長の部屋から出ていき、出口の警備にも礼を言って広場に出た。


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