第186話 ブルゲンオイスト4


 領都見物のため領主城前でエドたちと別れたエリカたち3人はどこか名所はないかと考え、とりあえず旧市街を巡ってみることにした。


 1時間くらい歩き回ったものの名所的なものはどこにもなかった。

「季節ももうすぐ冬だし、あまり面白そうなものはないわね。

 それはそうと、ケイちゃん、宿までの道は覚えてる?」

「お城がいつも見えていますから一度お城まで戻ればあとは覚えています」

「よかった」

「名所は諦めて、なにか甘いものでも探しませんか?」

「それもそうね。領都なんだからいいお店がきっとあるはずよ」


 エドモンドの風俗センサーはさび付いているが、エリカの甘味センサーは優秀で、ケイちゃんとペラを引き連れて歩くエリカはそういった店をすぐに見つけてしまった。


「なんだか、良さそうな店じゃない?」

「そうですね。さすがは領都といったところでしょうか」


 店の中はしゃれた感じで、二人席と4人席が半々だった。客層もサクラダと比べて上品そうに見える。


 今日のエリカたちは3人なので空いていた4人席に座ったら白いエプロンを着けた女子店員がやってきた。

「ご注文は?」

「ちょっと待ってね」

 エリカは向かいに座ったケイちゃんとペラに見せるようにテーブルの上に置かれていたメニューを手に取った。

「お茶と、お菓子と、軽食じゃない。思った通り!

 何食べようかなー。ケイちゃんは何にする?」

「そうですねー、このパンケーキクリームイチゴ添えかな」

「名まえはおいしそうだよね。じゃあわたしもそれ。ペラは?」

「わたしもそれで」

「お茶は適当でいい?」

「「はい」」

「それじゃあ、パンケーキクリームイチゴ添え3つとこのお茶を3つ」

「かしこまりました」

 エリカが3人分の代金を女子店員に払った。

「お金は出しますよ?」

「これくらいいいよ。ペラも気にしないでね」

「ありがとう」「ありがとうございます」


 エリカから代金を受け取った女子店員は一礼して奥の方に帰っていった。


 10分ほどでトレイを持った先ほどの女子店員が戻ってきて3人の前にナイフとフォークの添えられた小皿とお茶を置いて一礼して帰っていった。


 パンケーキクリームイチゴ添えは、あまり厚くないパンケーキを2枚重ねた上に真っ白のホイップクリームがたっぷりかけられ、そのクリームの上にスライスしたイチゴがぐるりと輪を作っていた。

「うわー! こんなの初めて!」

「きっとおいしですよ」


 エリカがさっそくナイフとフォークでパンケーキを一切れ切って口に入れた。

「この白いのがクリームだよね? おいしー! イチゴも甘ーい! パンケーキが軟らかくておいしいー!」

「ほんとにおいしい」

「おいしいです」


「ブルゲンオイストに来てよかったー。これもペラの言うこと聞いたからだわ。ペラ、ありがとうー!」

「いえ。わたしは何も」

「そんなことないわよ。ペラがアノ時領都に行こうって言ってなかったら絶対領都になんか来てないから。

 ドーラちゃんにも食べさせてあげたかったわね」

「持ち帰りができるか聞いてみましょう」

「それもそうね。エドにも食べさせたいし。

 すみませーん!」


「はい。何でしょう?」

「これ持ち帰りができる?」

「持ち帰りできますが、これですと横に広い上に重ねられないため、一人前ずつ箱に入れることになります。これ用の箱は1箱大銅貨2枚になりますががよろしいですか?」

「それでいいから5人分お願いね。値段は?」

「小銀貨5枚と大銅貨10枚ですから、銀貨3枚になります」

「エリカ、今度はわたしが払うから」

「いいの?」

「大丈夫」

 ケイちゃんが銀貨3枚を支払い、女子店員は奥に帰って注文を伝えた。


 ……。


「おいしかったー!」

「おいしかったですね」

「おいしかったです」


 ケーキを食べ終えてお茶を飲んでいたら、5段重ねの木の箱を抱えて女子店員が戻ってきた。

「ありがとう」

「いえ」


 お茶を飲み終わったところで3人は席を立った。

「それではわたしがこの箱を持ちます」

「斜めにすると横によっちゃうから気を付けてね」

「大丈夫です」

 ペラはそう言って5段重ねの木の箱を両手で抱え持った。

「それじゃあ、荷物もあることだし宿に戻ろうか」

「そうですね」「はい」


 店を出た3人は、ケイちゃんを先頭にして宿に向かって歩いて行った。


 しばらく旧市街の通りを歩いていたら前方から騎馬列に続いて黒塗りの馬車列に出くわした。

「なんだろ? 立派な馬車だよね」

「騎兵隊が先導していましたし馬車に立派な紋章が描かれているとことを見るとそうとう偉い人たちのようですね」

「王さまだったりして。さすがにそれはないか」

「それもそうですね。でも、かなり馬車の数が多いですから、本当に何なんでしょう?」

「お祭りでもあるのかなー。そうだとうれしいんだけど」


 馬車列が通り過ぎたあと、旧市街の壁を越えて3人は宿に帰っていった。


 宿に帰ると、受付で帰宿を告げたところカギは貸し出されていたので、3人はそのまま部屋に戻って行った。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ドーラと宿の部屋に戻ってベッドに座ってとりとめにない話をしていたら、扉が開いてエリカたちが帰ってきた。


「二人とも、帰ってたんだね。お父さん元気だった?」

「父さん、部隊を連れて王都に行ってるそうで会えなかった」

「そうだったんだ。残念だったわね。というか、王都に部隊って? エドのお父さんて本物の軍人さんだったっけ?」

「いちおう、軍功で騎士爵になったって言ってたから軍人と言えば軍人なんじゃないかな」

「そうか。でもなんでまた?」

「おそらくだけど、ズーリとの戦いが長引いてる関係と思う」

「つまり応援に行くって事?」

「うん」

「それは心配よね」

「うん。だけどどうしようもないから無事を祈るだけしかできない」

「そうね。

 そうそう、今日はおいしいお店を見つけたの。

 ペラ、箱をそこのテーブルの上に置いてくれる?

 部屋に置いたあった小さなテーブルの上にペラが抱えていた厚さはあまりない正方形の木箱を重ねておいた。

「箱を開けて見てみてよ」


 エリカに言われるまま箱のフタを取ると中から見覚えのある物が出てきた。

「パンケーキクリームイチゴ添え! これって、領主城からそんなに遠くないとところにあった軽食屋の?」

「あら? エドこれ知っての?」

「うん。ドーラと店で食べた。それで、お土産に他のを選んで買ってきたんだ」

「なんだ。でもおいしかったでしょ?」

「おいしかった」

「このケーキだけでもこの街に来たかいがあったわ」

 エリカの言いそうな言葉だ。

「今すぐ食べないでしょ?」

「うん」

「だったら、キューブに入れててくれる?」

「了解」

 エリカたちが買ってきたお土産をキューブに収納した。

「それじゃあ、俺たちが買ってきたお土産を見せるよ」

 そう言って、アップルパイの入った木の箱をテーブルの上に取り出してフタを開けた。


「うわー、これもおいしそう」

「おいしそうですねー」


「食べる時はこのテーブルじゃ小さいからどうする?」

「ダンジョンで使ってたテーブルがあるじゃない?」

「あれは、ウーマの中だから」

「そうか。どうせならお茶も飲みたいし、困ったわね」

「無理にここで食べなくても、食べたければお店に行けばいいだけですから、こんどウーマに乗る時に食べてもいいでしょう」

「それもそうね。

 じゃあ、これもしまっておいて」

「うん」


「そういえば、ここに戻ってくる途中、馬車の行列に出会ったのよ。馬車の数にして20台くらいだったかな」

「かなり立派な馬車でしたし、騎馬隊が先導していましたからかなり偉い人が馬車に乗っていた感じでした」

「この時期に何だろうな?」

「よそからわざわざヨルマン領に来るような貴族は少ないでしょうし、領内の貴族ならあんな長い馬車列で領都に来るはずないし。何だったんでしょうか」


「そんなに目立つ行列だったらうわさになるだろうから、今日の夕食を食べに下の食堂に行った時、周りのうわさ話を聞いてれば少しくらいわかるんじゃないか」

「そうね」


「夕食まであと2時間くらいあるけど、どうする?」

「どうすると言っても、何もないわよね」

「明日以降のことはいつものように食事中考えればいいですし」


 それから5人それぞれのベッドに座って夕食までたわいもない話をして時間を潰した。

 ペラは話しかけられない限り会話には参加しないのだが、少なくとも3人の女子トークを俺は聞いていて、何とも思わないどころか溶け込んで話せてしまう。話の内容がファッションとかドラマとかそういったことじゃないことが大きいのは確かだが、このスキルは人生経験60年の賜物か?

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