第175話 おいしい悲鳴。再び赤の渦へ。


 エキスを堪能して風呂から出た俺は、ドーラを驚かせようとおいしいものを作ることにした。

 何を作ろうか考えた結果、結局ハンバーグを作ることにした。そして主食はご飯だ。

 先に米を研いでそのまま水に浸けておく。


 ハンバーグについては作り方は前回とほぼ同じだが、今回はハンバーグの中にチーズを入れることにした。

 ひき肉は豚肉と牛肉を細かく切ってある程度潰したものだが、それはペラにやってもらった。その他の下ごしらえもほとんどペラがやってくれたので、かなり楽になった。

 とろけるチーズも問題はない。


 俺とペラが台所で立ち回っている間、ドーラがやってきて目を丸くしていた。

「エド、何ができるの?」

「肉を細かく切ったものを固めて焼いた料理だ」

「わざわざ切ったものを固めるの?」

「そうするとすごく肉が軟らかくなるんだよ」

「へー」


 今回のハンバーグソースだが、ケチャップにショウユと砂糖を加え、コショウ振ったものをフライパンで火を通し、少し水気を飛ばしてとろみを出したものを用意した。


「今度はなにしてるの?」

「今度はソースを作っているんだ」

「いい匂いするんだね」

「楽しみにしててくれ」


 ハンバーグは一人2個。全部で10個だ。みんなハンバーグは大好きなのでちょっと大き目に丸めたものをまな板の上に並べた。


 それを5枚ずつフライパンに入れて焼いていった。


「火がないのに焼けるの? というか焼けてる!?」

「そういうものなんだ」

「そうなんだ」

 ドーラの理解力が高いのか、理解することを最初から諦めているのか今一判然としないが、なぜ? なんで? なぜなの? よりよほどいいのは確かだ。


 1回目のハンバーグを焼き終わったところで、ご飯を炊き始めた。ご飯についてもペラに任せておくことができる。非常に楽だ。


 焼き上がったハンバーグを1枚ずつ平皿に置いて行き、ストックしていた温野菜を添えていったんキューブに収納しておく。今回の付け合わせの温野菜は焼きナスだ。ショウユをかけて食べるつもりで作ったものだ。


 2回目のハンバーグができ上ったところで、先ほどの皿を出し、今焼き上がったハンバーグを追加してスプーンでソースをかけて出来上がり。あとはスープをよそって、ご飯が炊けるのを待つばかり。

 ご飯を炊いている鍋から湯気と一緒にご飯の炊けるいい匂いが漂ってくる。


「ねえエド、鍋に入っているのは何なの? 白い何かを入れていたのは見てたんだけど」

「名まえは分からないから一応白麦と呼んでるんだが、さっき食糧倉庫の奥で見せた穀物だ。食べてみれば分かるよ。もう少し待っててくれ」

「おいしそうな匂いだよね」

「だろ?」

「うん」

 なんでもそうだけど、日本語をむやみに使えないところが面倒だよな。KOME、GOHAN。勝手にそう呼べば「はぁ? なんでその名まえ知ってるの?」ってなるものな。


 ご飯が炊けたところでペラが火を落とし、10分ほど待ってスープをよそった。

 その間にペラはテーブルを台ブキンで拭いてカトラリーを並べている。

 よそったスープも順にテーブルに運ばれ、キューブに入れていたハンバーグの皿は俺がテーブルに並べていった。最後にご飯を皿に盛り、それをテーブルに運んで出来上がり。おっと。ショウユ差しはないので焼きナス用のショウユを深皿に入れて小スプーンを付けておく。


 既にエリカたちは満を持してといった感じで席に着いているので俺とペラも席に着いた。


「「いただきまーす」」


 さっそくハンバーグにフォークを突き刺し、フォークだけでハンバーグを一口大に切って口に運んだドーラ。

「なにこれおいしー! 中からチーズがとろけて出てきたー!」

 おいしい悲鳴ありがとう。


 ときおり聞こえるドーラのおいしい悲鳴を聞きながら夕食を終えて、デザートの時間となった。今日はマンゴーだかパパイアだ。実際のところ、生前名まえを意識して食べた記憶がないので俺では区別がつかない。どっちでもいいし、この名まえをこの世界で使えるわけでもないし。


「なにこれおいしー!」

 おいしい悲鳴ありがとう。そいつは果物だ。名まえはまだない。


 食事を終えて、後片付けも終え、俺はエリカたちの洗濯が終わった洗濯機に汚れ物を突っ込んだ。放っておけばいので、もうすることがない。


 ドーラも肉体的にはそれほど疲れたわけではないのだろうが、早々に寝室に入って寝てしまった。

 残った俺たちも特に用事はないので、寝室に引き上げて各々ベッドに入った。

 寝室のベッドは4つ横並びなので、病院という感じはしないのだが、ウキウキするような感じでもない。

 ということで、俺も目を閉じていたら、魔力操作をしなくてもそのまま寝入ってしまったようだ。



 翌日。


 俺の体内時計で午前9時ごろ。ペラに聞いたら9時20分。ウーマは赤い階段下に到着して停止した。

 装備を既に整えていた俺たちはウーマから飛び降りた。ウーマはそのままキューブにしまっている。


「ここからどこに行くの?」

「この階段を上ってくと12階層みたいなところに出て、その先もサクラダダンジョンと同じ感じなんだ」

「ということは渦があるってこと?」

「その通りなんだけど、前回渦の前に行った時、渦を抜けられなかったんだ。

 それで今回は渦に向かって試したいことがあったから再度挑もうと思っている」

「フーン」


「リンガレングを先頭に昨日の隊形で上って行こう」

「「了解」」「うん」


 リンガレングが階段を上り始め、その後を俺たちが付いて上って行った。


 階段を上り切った俺たちは、何事もなく赤い部屋を抜け赤い点滅を避けながら11階層への階段部屋を目指して移動した。


 11階層への階段を上って小島に出たところ、池の氷はある程度とけてはいてがほとんど凍ったままだった。

 黒スライムはリンガレングの冷凍攻撃で死滅しそのままダンジョンに吸収されてしまったようで痕跡すら見えなかった。これなら大丈夫。


 歩いて渡れそうに見えたが、底が抜けても嫌ななのでウーマをキューブから出して乗り込み池を渡って対岸に到着した。池を渡る間、何度かウーマ内部が珍しくわずかに揺れたのだが、おそらくウーマの足が氷を踏み抜いた。とか、あったのだろう。


 泉を渡り終えウーマを降りてキューブに入れ、リンガレングも一緒に収納してから俺たちは上り階段を目指して歩き始めた。


 途中昼休憩を1時間挟み午後3時半ごろ渦の前に到着した。


 今回もモンスターに出うこともダンジョンワーカーに出会うこともなかった。


 前回ここに来た時は、渦は当然通れるものと思って渦を抜けようとしたらぶつかったので、まずは手を伸ばして感触**を確かめた。

 やはり壁にあたったような感触で、通り抜けはできないようだ。

「ダメみたいだ」

「それじゃあ、呪文を唱えましょう。それで呪文は何だっけ?」

「ここは赤ですから『われを称え唱えよ。赤き黄昏の神アラファト・ネファル』」

「それじゃあ、みんなそろって唱えよう。せーの『われを称え唱えよ。赤き黄昏の神アラファト・ネファル』」

「「われを称え唱えよ。赤き黄昏の神アラファト・ネファル」」

 ドーラはいきなり俺たちが妙な呪文を唱えたものだからすごく不思議な顔をしていたが、俺たちに少し遅れて唱和した。

「われを称え唱えよ。赤き黄昏の神アラファト・ネファル」


「さて、渦は抜けられるのか!?」

 渦の見た目は何も変わっていなかったが、渦に向かって手を伸ばしてみたらそのまま向うに抜けたようだ。

「ちゃんと通れそうだ」

「やったわね。さすがはリーダー」

 久しぶりにさすがはリーダーを聞いてしまった。

「それじゃあ俺から」リーダーとして。

「ベルハイムの時は何も考えなかったけれど、抜けた先がどうなっているか様子を見てくるから、俺が迎えに戻ってくるまで入らないようにな」

「「了解」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る