第171話 ドーラ4、13階層へ


 エリカがサクラダの家に帰ってきて、しばらくしてドーラとペラは訓練のため裏庭に移動した。

 エリカがサンドイッチを食べ終わったところで、ドーラの扱いについて改めて相談することにした。

「ドーラなんだけど、儲けの取り分を4人で割るってわけにもいかないからどうすればいいと思う?」

「そうねー。チームの財布から給金を出す形でしばらくやって、ドーラちゃんが動けるようになったら正式にうちのメンバーということで4等分でいいんじゃない?」

「わたしもそれでいいです」

「わかった。

 そうなると、これまで12階層とかで手に入れた金貨とか水薬は3人でちゃんと分けとかないとマズいよな?」

「あー、あれね。アレは面倒だから、チームの財布ということでエドが持っててよ。ケイちゃんは?」

「今だって使いきれないほどお金があるわけですし。わたしもそれでいいです」

「そういうことだから、何か大きなことをするときは3人で相談して使いましょうよ。そのころにはドーラちゃんも正式メンバーだから4人でね」

「分かった」

 二人とも欲がないな。かくいう俺も、もうお金についてはあまり欲はないんだよな。


「それじゃあ、給金はいくらくらいがいいと思う?」

「あんまり大金だとそれはそれでマズいから、一月ひとつき金貨1枚くらいでいいんじゃない? 食と住はタダなんだし。自分のお金で使うものと言ったらホントに少ないし」

 今の俺たちから考えると金貨1枚は少ないと言えばすくないけれど、日本円に換算すれば10万以上だし。小学校5、6年生の小遣いと考えると与えすぎかも?

 それに、俺が金貨10枚貸してはいるけど、まだ半分も使っていないわけだし。

「じゃあそうしよう。あとで俺からドーラに伝えておく」

「うん。そうして」


「ドーラについてはこれでいいとして、明日からの13階層は何をする? やっぱり、赤とか青の階段を上ってその先の渦を確かめてみる?」

「そうねー。他にどこかに行かなくちゃいけないところもないのよねー。階段の上り下りや坑道を歩くのがつらいわけじゃないんだけれど、行ったり来たりなのがどうも気疲れするのよねー」

「そうは言っても移動するだけで何日もかかるわけですから、往復1日。いい運動と言えばいい運動かもしれません」

「ドーラを鍛えるという意味もあるから、行ってみようか」

「うん。分かった。そうしよ」

「そうしましょう」



 いちおう明日以降のことが決まったので、ドーラとペラの杖の訓練を見物しようと3人で裏庭に出た。

 午後からの訓練は立ち合い訓練だった。ドーラは前後左右に激しく動き回ってペラに打ちかかっている。それに対してペラは足をほとんど動かずドーラの杖をかるくかわしたりいなしたりして受け身一辺倒で手は出していない。これぞまさに強者の貫禄。


 実際、ドーラじゃなくて俺がペラに打ちかかってみても簡単にいなされる自信がある。

 相手はペラだからいいんだよ。



 ドーラの訓練は途中一度休憩を挟み夕方まで続いた。

 ドーラは音を上げず頑張った。ただ汗びっしょりになってしまったので、きつく絞った濡れタオルで汗を拭き着替えさせた。


「洗濯はダンジョンの中でするから、汚れ物はまとめておいてくれ」

「えっ?」

「だから、13階層まで下りたらそこでウーマに乗って、ウーマの中で洗濯する。その方が簡単だしきれいになるから」

「よくわかんないけど分かった」

 エリカもケイちゃんも俺とドーラの会話を聞いて笑っていた。



 訓練の後ドーラの部屋に行ってドーラの扱いについて説明しておいた。

「最初のうちは1カ月金貨1枚だ。住むところと食事代はタダだから足りないことはないだろ?」

「うん」

「ドーラがちゃんとした戦力、一人前になったら稼いだお金は4人で山分けだ」

「わたしが?」

「それはそうだろ」

「いいの?」

「全然問題ない」

「ありがとう」


 その日の夕食は雄鶏亭でエリカのお帰りなさい会だった。

 いつもの4人席だと椅子がひとつ足りなかったのでマスター兼給仕のモールさんに言って椅子を一脚持ってきてもらった。


「「かんぱーい!」」




 そして翌日。


 装備を整えた俺たち5人は家の戸締りをしてダンジョンギルドに向かい、朝食を雄鶏亭で食べ、渦をくぐった。


 ランタンに火をともしたところでドーラがそのことを疑問に思って聞いてきた。

「坑道はよく見えるのに何でわざわざランタンの火を点けるの?」

「ランタンも点けずに歩いていると、遠目からだと他のダンジョンワーカーがモンスターと思うかもしれないだろ? だから他のダンジョンワーカーが多い階層だとランタンを点けるようにしてるんだ。ちなみに13階層は昼間のように明るいからな」

「そうなんだ」

「一つ賢くなっただろ?」

「偉そうに言わないでよね!」

「分かった分かった。

 それじゃあ、今日の隊列は俺が先頭、エリカ、ケイちゃん、ドーラ、ペラの順だ。

 ペラはドーラのことよく見てやってくれ」

「はい」

「ドーラは歩くのがつらくなったら早めに言ってくれよ」

「うん」

「だいたい階層間の階段は30分歩くごとにある。

 まずは2時間半歩いて5階層分下りて6階層で小休止だ。そこまで頑張れ」

「うん。頑張る」


 時刻は7時少し前。俺たちは13階層に向けて歩き出した。


 渦のある空洞から30分ほど歩いて2階層の階段前に到着した。

「ドーラ、そこに見えるのが2階層への階段で60段ある。気を付けて下りるぞ」

「うん」


 階段を下り、そこから休むことなく歩き続けた。たまに後ろを振り返ってみたが、ドーラの歩調はしっかりしているようだ。


 2時間半歩き続け6階層にたどり着いた。歩くペースはこの間いつもと変えていなかったのだがドーラはちゃんとついてきていた。


「よーし、ここで小休止。

 各自装備を緩めてマグカップを出してくれ。

 ドーラのマグカップは俺が持ってるから」


 各自が装備を緩め、差し出したマグカップに水筒から冷たい水を注いでやる。ドーラには先日用意したドーラ用のマグカップを持たせて水を注いでやった。

 ペラは水は要らないと断って俺のマグカップを持ってくれたので、それに水を注いで俺も一息ついた。

「冷たい水がおいしー」

「黄色くて長いの食べるか?」

「うん」

「ほかには?」

「それじゃあわたしもいただくわ」

「わたしもいただきます」

「ペラは?」

「いただきます」

 ということで階段下の空洞の壁にもたれて座り5人でバナナを食べた。


「ドーラ。だいたいここで道の半分だけど大丈夫か?」

「自分でもおかしいと思うんだけど、全然つらくない」

 やはりレメンゲンの力が働いてたか。そうだろうと思って初心者のドーラではきついはずのいつもと同じスピードで歩いてみたのだが思った通りだった。


 10分ほどの休憩を終えて、緩めていた装備をしっかり身に着けて移動を再開した。


 そしてそれから2時間半。俺たちは11階層に下り立った。


「ドーラそろそろ12時なんだが、あと4、50分くらい歩けそうか?」

「うん。大丈夫」

「それじゃあ、いつものように13階層に下りて昼にしよう」

「了解」「はい」「了解」



 10階層からの階段下から30分ほど歩いて泉の前に到着した。

「ダンジョンの中に湖があるなんて! それにここ、こんなに広い」

「これからそこの島に渡る」

「まさか泳ぐの?」

「いや。見ててくれ」

 ドーラの驚く顔を期待して俺はウーマを目の前に出した。

「……」

 巨大状態のままだったので、予想通りドーラがアングリ口を開けて驚いてくれた。


「これが俺たちの移動住居ウーマだ。これに乗って泉を渡るから」

 ウーマは体を下げた状態だったのですぐにサイドハッチに手をかけてハッチを開いた。

「ドーラ、先に乗ってくれ。ちょっと高いけど一人で乗れるだろ?」

「う、うん」


 ドーラがハッチに足をかけて何とか中に入り、それに続いてみんな中に入ったところでハッチを閉じた。

 ウーマには何も言わなかったが湖に入って行き向こう岸の小島にたどり着いてそこで足を畳んで腹を地面につけた。

「短かったけれど、いったん降りて、階段を下りるからな」

 ドーラは俺の言葉を聞いて「うん」と答えたものの、口を半分開けたままウーマの中を眺めていた。

「ドーラ、いったん下りるぞ」

 ハッチを開けてもう一度ドーラを呼んだらやっと正気に戻ったようで、ウーマから飛び降りた。


 俺たちも順に飛び降て、最後にウーマをキューブに収納しておいた。



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