第152話 冒険者ギルド、ベルハイム支部


 渦を抜けた先は冒険者ギルド、ベルハイム支部というところだった。

 そこで冒険者登録をした俺たちはポーションを2本売って、ここの金貨を20枚手に入れた。


 昼の時間をだいぶ過ぎていたので近くで食事でもと思いギルドから出ようとしたところで、いかにもなおっさんに絡まれてしまった。

 俺が相手をする前にペラが前に出てそのおっさんに対して煽る煽る。


「実力のない者はえてして自分を過大評価し、本当に実力のある物を過小評価する。お前のことだ。そんなのことではいくつ命があっても足りないぞ」


「な、な、何を!」

 おっさんはそれしか返せないものだから、とうとう腰に下げた剣に手をかけた。

 その瞬間、ペラはおっさんに詰め寄り、おっさんの剣のツバに人差し指を当てた。

 それだけでおっさんは剣を抜けなくなり、赤い顔をしてペラを睨んだ。


 それ以上やってしまうと弱いものいじめになってしまうので、それそろ俺が止めに入ろうとしたら、横合いからエリカの声が。

「おじさん、女子の指一本にもかなわないのにエラそうなこと言って、恥ずかしくない?

 恥ずかしくないから、粋がってエラそうなこと言ったんだったっけ?」

 エリカさん、そこで煽って何がしたいのですか?

「ペラもエリカも、もういいから。そろそろ行こうぜ」

「はい」「はーい」


 おっさんを無視して、エリカとペラ、それにケイちゃんを先に歩かせ俺がおっさんからの盾になるように出口に向かった。

 数歩歩いたところで剣を抜く音が背後からしたので、振り向きざまにレメンゲンを振り切った。

 切ったのはおっさんの長剣で、おっさんの長剣はツバから3分の1を残しその先は床に転がった。

 俺は返す刀でおっさんの首にレメンゲンの切っ先を近づけた。

「おっさん、自殺でもしたかったのか?」

 おっさんはプルプル震えながら首を横に振った。


「さっき、うちのペラがおっさんに教えてやっただろ? 相手との実力差を計れないといくつ命があっても足りないって」

 俺がそう言ったら、おっさんは今度は首を何度も縦に振った。

 俺が一番きつかったかもしれない。


 俺はレメンゲンを鞘に納め、立ち止まっていた3人のところに戻り今度は先頭に立ってギルドから出ていった。



 ギルドを出たらそこは石畳の広場になっていてその広場に面して店が並んでいた。

 少し見て回ったら食堂らしき店があったので、その店に入っていった。


 店の中にはそれらしい男女が飲食していた。立地から言っても当たり前だが、冒険者が常用している店のようだ。


 ちょうど4人席が空いていたので、そこに座ったら店の人がやってきた。そこらへんはどこの国でも同じようだ。それでとりあえず定食を4人前と飲み物として薄めたブドウ酒を注文した。薄めたブドウ酒はないかもしれなかったがちゃんと売っていた。

 ここのお金は金貨しかなかったので申し訳ないと謝って金貨で払ったら、おつりで硬貨が沢山返ってきた。内訳は銀貨19枚と大銅貨っぽい銅貨が8枚。

 サクラダだと定食と薄めたブドウ酒を4人分頼むと大銅貨12枚。銀貨1枚支払うと大銅貨8枚返ってくる。

 通貨についてはヨーネフリッツと同じみたいだし、物価的にはサクラダとそんなに変わらないのだろう。


「それじゃあ、「かんぱーい!」」


 定食のメインは珍しく魚だった。おそらくサバだ。サバの隣りに半分に切ったがライムが付いていた。足の早いサバが出てきたということはここは海に近いということだろう。俄然やる気が出てきた。


 俺はごくごく私的なことを考えていたのだが、エリカとケイちゃんはちょっと違ったようだ。

「さっきの男、わたしたちのことというか、エドのこと金持ちの御曹司と思って、わたしたちのこと御曹司の取り巻き女と思ってたみたいだよね」

「サクラダで絡まれたことはありませんでしたが、ここの『冒険者』?は程度が低いんでしょうか」

「きっとそうなんじゃない。そもそも何を冒険**するのって感じよね!?」

「そこはちょっと笑っちゃいました」

 何だか周囲から見られているような。


「あまり、ここのことを悪く言わない方がいいんじゃないか?」と、やんわりたしなめておいた。リーダーとして。

「それもそうね。悪いのはさっきの男だけだもんね」

「ギルドの方はいい人だったんですけどね」

「そうだよな」


「このお魚、ホントにおいしいですね」

「ケイちゃん、サバは骨があるから気を付けてね。でもすごくおいしい」


 新鮮なサバは実においしい。箸とショウユと大根おろしがあればもっとおいしいのだがライムでも問題なくおいしかった。


 食べ物のことはこれくらいにして、肝心なことを相談することにした。

「それはそうと、結局、ここはどのあたりだと思う?」

「ベルハイムって聞いたことないし、全く見当つかない」

「わたしも見当つきません。干し魚以外の魚がこうして料理で出てきたところを見るとここは海に近いということは分かりますがそれ以上のことは。

 どこかの店に行って買い物がてら聞いてみればある程度のことがわかるんじゃないですか?」

「ここの魚を買って帰れば食卓が豊かになるから、肉屋になるのか分からないけれど魚を売っている店を探そう」

 おっと、また自分勝手な方向に話がそれてしまった。

「そこで、ここがどのへんなのか聞いてみよう」と、フォローしておいた。


 すこしばかり急いで食事を終えた俺たちは店から広場に出た。

 そこで通りすがりの人に商店街はどのあたりにあるのかケイちゃんが聞いてくれた。


「こっちの通りが商店街だそうです」

 ケイちゃんが先頭に立ち俺たちが付いて歩く形で、商店街を歩きながら店を眺めたところ、サクラダの商店街とそんなに変わったところはなかった。


 しかし、冷静になって考えてみると、ここがどのあたりであるのか? と、いうことを聞かれた住人からすればものすごくおかしな質問ではないだろうか?

 旅人であろうと、自分がどっち方向からやって来たくらいは分かっているわけだし。

 ここは質問方法を変えて、ヨーネフリッツに行くにはどうすればいいのか? と、聞いた方がいいのではないか?

 相手がヨーネフリッツを知らなければそれまでだが、知らないなら知らないでそれも重要な情報になる。すなわち、ここはヨーネフリッツからとんでもなく離れた土地だということだ。


 そんなことを考えながら歩いていたらちゃんと魚を売っている店が魚屋として存在していた。だがしかし、魚屋でヨーネフリッツに行くのはどうすればいいって聞けるか? 普通。

 ここは港町の可能性が高いので、港への道を聞いて、港でそこらのことを聞くのがベストなんじゃ?

 それはそうと、魚は仕入れなければ。

「いろいろ、魚があるんだね」

「どうやって食べるのかわからないものまで」

「エドに任せておけば何とかなるわよ。目の色変えて魚見ているからきっとおいしく料理してくれるんじゃない?」

 そのつもりだけどな。

 サバはもちろん、イワシにヒラメ、キンメダイ風の目玉の大きな赤い魚。イカにタコからカニにエビ。そしてホタテにカキ。加えて異常にデカいウナギ。ウナギはグロテスクだったので敬遠した。


 店の客はみんな桶を持って買い物に来ていたので俺もリュックから空の桶を2つ取り出して*****それに魚介を入れて勘定してもらった。

 ここで俺は空樽を売っている店はどこか教えてもらった。その後、港の場所も教えもらった。


 俺の現在位置確認の方針転換をエリカたちも理解してくれたようで何も言われなかった。

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