第129話 ワイバーンとペラ


 ものすごくデカい鳥が4、5匹、進行方向上空で舞っているのが見えた。

 俺たちの対抗手段はケイちゃんの矢だけなんだが、上に向けて100メートルも飛ぶかと言えば疑問だし、もし飛んだとしても相当威力は落ちるだろう。

 それに、ケイちゃんが矢を射るにしてもスリット越しでは狙いなどまずできないだろう。

 俺がキューブの収納で巨鳥の何かを引き抜こうとしても収納の射程はせいぜい20メートルしかないので、相手が接近してくれないと何もできない。

 まあ、このウーマが巨鳥の攻撃でどうにかなるとは思えないので甲羅の中に閉じこもっていればいいだけと言えばそうかもしれない。


 そういえばこのスリット。ウーマの甲羅に空いているわけで、ウーマに言えば大きさも位置も変えられるのではないだろうか?


 壁が自在に出入り口になるよりスリットの大きさや位置を変える方が簡単だろう。常識的に考えても。


「ケイちゃん、このスリットからじゃ弓矢を使うのは難しいだろ?」

 エリカの隣りで外を眺めていたケイちゃんに聞いてみた。


「動かない的が正面にあれば狙えますが、横だったり動く的だと厳しいです。

 あの鳥が近づいてきたら矢で攻撃するというなら、さらに厳しいです」

 スリットの位置を変えるのではなく、かなり大きくしないといけないってことか。

「ある程度開放されたところじゃないと無理ってことだな?」

「はい」


 相手は鳥だから、攻撃手段に飛び道具はないとすると、できることはくちばし攻撃か足の爪による直接攻撃。空からのフン攻撃もないことはないが、それは無視していいだろう。


 俺とエリカでケイちゃんの左右一歩前に立って鳥からのケイちゃんの直接攻撃を防ぐ。俺に余裕があれば収納を発動して鳥のどこかの部位を抜き取る。こんな作戦だな。

 上空からの飛び道具攻撃だと反撃のすべはないが、直接攻撃ならそれほど怖くないし、ケイちゃんの矢も威力を発揮するだろう。


「分かった。このカメの甲羅、前方3分の1が倉庫の出入口みたいにすっぽり空けばいいってことだ。

 ウーマ。前方甲羅の3分の1を払って露天にすることはできるか?」

 声の返事はなかったがわずかに上下の加速度を感じた。

「これから亀の甲羅を畳めるか試してみる。うまくいったらここが露天になるからみんな気を付けてくれ」

「分かった」「はい」「了解」


「それじゃあ、ウーマ、やってくれ」


 俺たちの立っている位置の天井が上の方から消えていき、完全に露天になった。前方からそれなりに強い風が吹いてきた。

 目の前には黒くてぶっといカメの頭が力強く屹立している。後ろは応接セットの手前で残った甲羅から壁ができていた。

 カメの頭は戦闘時邪魔になるので縮んでいてもらった方がいいな。それと風がこれだと矢の狙いも難しそうだから停止して迎え撃つ作戦だな。


「ウーマ。だいたい分かったから、甲羅を元に戻してくれ」

 すぐにウーマは反応してアーチ形の壁と天井に囲まれ、後ろにあった壁はなくなった。


「あと、30分もすれば鳥のところまで到着しそうだからまだ早いけど装備を準備しておこう」

「「了解」」

「俺の古い防具はあるけどペラの体に合いそうもないから、ペラは我慢してくれ」

「はい」

 エリカの古い防具もケイちゃんの古い防具も収納キューブに入れていないので、二人ともサクラダの家の自室に置いているはずだものな。


 エリカとケイちゃんが武器、防具を身に着けるため寝室に移動したので俺はキューブから武器と防具を取り出して身に着けていった。


「ペラ、俺の予備の剣があるけど使ってみるか?」

「いえ、必要ありません」

「しかし手足だけじゃ間合いが短すぎて相手にダメージを与えられないんじゃないか?」

「はい。わたしを狙ってくれればいいのですがそうでなければ有効な攻撃はできません。

 マスター何か投擲できる物をお持ちではありませんか?」

「石でもあればよかったんだが。……。

 床石がまだたくさんあるからアレを投げやすい大きさに切ってやろう」


 キューブから床石をウーマの床の上に10枚重ねて置き、それを短冊状に10等分になるよう10分の1ずつ収納しては同じ位置に戻し、今度は横方向に同じことを繰り返して合わせて1000個の正方形のレンガのようなもの作った。見た目は持ちにくそうだが、ペラなら何とかできそうな。これを4等分して5センチ角のサイコロを作ってもよかったがそれだと軽すぎてダメージを与えにくいだろう。ただ今の大きさだと大きすぎてペラからダメだしされたら、サイコロを作るしかないが。


「ペラ、ちょっと大きいけれど、これを投げられるか?」

「はい。これなら十分です」


 ペラの位置を後方左翼。ケイちゃんの位置を後方中央。俺がケイちゃんの右斜め前。エリカがケイちゃんの左斜め前とすることにした。


 準備を終えたエリカたちが戻ってきたのでフォーメーションを伝え、ケイちゃんの位置の床に矢の入った矢筒を2つと予備の矢を20本ほどバラで置いておいた。


「ペラはそんなに大きな石が投げられるの?」

「はい。大丈夫です。かなり硬い石のようですから威力もそれなりに期待できます」

「そ、そうなのね」

「はい!」

 ペラは自信があるのだろう。


 どういった形で鳥が突っ込んでくるか分からないが、ケイちゃんの矢が目に刺さればただでは済まないだろう。


 その鳥なのだが、かなり詳細が見えてきた。首が妙に長いし、しっぽが鳥のしっぽではなくヘビやトカゲのしっぽに見える。

 鳥ではなく、翼手竜か何かに見えてきた。


「ねえ、エド。なんだかあの鳥、変じゃない?」

「うん。かなり変だ。でも空を飛んでいる以上そこまで重くないはずだから、皮はそれほど厚くないと想う」

「そう言う意味じゃなかったんだけど」

「じゃあ、何?」

「アレってドラゴンってことない?」

「可能性はあるけど、そこまで大層な感じではないな。

 ケイちゃんはどう思う?」

「ワイバーンとかいうドラゴンの亜種じゃないでしょうか」

「それって強い?」

「お話で聞いたことがあるだけなので。でも亜種とは言えドラゴンならそれなりに強いんじゃないでしょうか」

「火の玉を吐くとか? それが一番嫌なんだけど」

「お話はあくまでお話ですからそこは何とも」

 それはそうだよな。ただ、ドラゴンのブレスとかファイヤーボールを撃たれたら防ぐすべはないので甲羅の中に閉じこもってワイバーン?がどこかに去るまでじっとしているしかできなくなる。


 そういった思案中でもウーマの前進は続いた。

 そしてとうとう、ワイバーン?がウーマに気づいたようで合計5匹のワイバーンが高度を下げながらこっちに向かってきた。


「ウーマ、停止してさっきのように甲羅を開けてくれ。それと頭は下に下げておいてくれ」


 わずかに前のめりの加速度がかかり、天井が開いた。前方からの風はわずかしかない。

 黒いカメの頭は射界を遮らないよう上ではなくまっすぐ前に伸ばされている。


 ワイバーンは単縦陣で突っ込んでくるようだ。先頭のワイバーンとの距離は約1キロ。時速200キロなら18秒でここまでやって来る。

 みるみる近づいて来る。

 俺が剣を抜き、エリカが剣を抜いたと同時に、俺の左脇から何かを切り裂くような音が聞こえた。超高速の物体が視界をかすめたように見えそのまま先頭のワイバーンに吸い込まれたように見えた。

 そのとたん、先頭ワイバーンの頭部から赤い何かが噴き上がり、そいつはきりもみして落ちていった。

 そして再び何かを切り裂くような音が聞こえ、2匹目のワイバーンの頭部か赤い何かが噴き上がり、そいつも羽ばたくことなくきりもみして地面に向かって落ちていった。


 そして、3度目、4度目、5度目と同じことが起こった。


 4度目、5度目の時にはかなりワイバーンが近づいていたのでワイバーンの頭部で起こったことがはっきりくっきり見て取れた。すなわち、ペラが投擲した超高速の正方形レンガが額に命中し、その部分が爆発したようにごっそり削り取られてワイバーンは即死したらしい。


 ペラ。何とか帝国の大層な名まえの兵器と自称していたがとんでもない。デタラメに強いじゃないか。


 エリカもケイちゃんもひとことも言わずペラを眺めていた。二人の気持ちは痛いほどわかる。

 当のペラは投擲ではだけてしまったブカブカの胴着を自分で元に戻していた。


 今回はありあわせの床石を加工したレンガだったけれど、ちゃんとした鋼球でも投げさせれば無敵じゃないか? 幸い12階層で扉を回収した鉄板は無数にキューブに入っているので、それを使ってどこかの鍛冶工房に頼んで決戦兵器として鋼球を作ってもらってもいいかもしれない。

 通常は煉瓦で十分そうだけどな。


 余ったレンガとケイちゃんの予備の矢筒と矢はキューブに収めて、天井はウーマに言って元に戻してもらった。



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