第49話 新生サクラダの星4


 ダンジョンギルドの鑑定士、ゼーリマンさんにケイちゃんの弓を見てもらったところ、名まえは軽金属みたいでちょっと軽いけど、軽金という弓の材料とすれば最高の金属でできていることがわかった。それと弓に彫られていた文字はウサツと読めるということだけは分かった。残念ながらゼーリマンさんさんでもウサツの意味は分からないそうだ。


「この弓の名まえが分かったことだし、各自休憩して6時に1階の雄鶏亭おんどりていの前で」

「りょうかーい」「はい」

 3人揃って3階に上がり、部屋の前で別れた。


 夕食まで2時間もあったので、部屋に戻った俺は荷物を片付けた後、洗濯しようと汚れ物と桶を持って1階に下りていき、水場に回った。


 洗濯前に上半身裸になって濡れタオルでよく拭いてさっぱりしてから洗濯を始めた。

 水洗いだけなので当然そんなにきれいになるわけでもないけど、ダンジョン内では不思議と下着とタオルとボロ布くらいしか汚れないので水洗いでも何とかなる。

 ギルドの寮に何人くらい住んでいるのか知らないけれど、今現在俺のように水場で洗濯している新人は俺を含めて3人だった。


 俺も含めた誰も何も言わず黙々と洗濯している。井戸端会議ってわけではないようだ。実際面倒ではあるし、新人同士の話ではお互い得ることもあまりないかもしれない。ちょっと言い過ぎか。


 会話がない以上、単純作業をしていると何やら考えるわけだ。

 ケイちゃんがいっきに有力戦力になった以上、明日から5階層に臨みたいのだが、俺は5階層の地図をちゃんと描き写していないことを思い出してしまった。

 大切なことは、ギルドの図書室の地図とエリカの持つ地図と実際の坑道を見比べることなので、先にギルドの図書室の地図とエリカの持つ地図を比べておけば何も描き写したものとエリカの地図を見比べながらダンジョン内を歩く必要ない。これだ!


 洗濯を終えた俺は、3階に戻って物干しロープに洗濯物を干し終わるや部屋を出てエリカの部屋の扉の前でエリカを呼んだ。


「エドモンドだけど、エリカいる?」

『なに?』

「5階層の地図を貸してくれないかな?」

『ちょっと待ってて』

 扉の前で少し待っていたら扉が開いてエリカが地図を渡してくれた。

「どうしたの?」

「いまから図書室に行って、図書室の地図とエリカの地図を見比べて、違いがあるかどうか確かめてこようと思うんだ。違いをエリカの地図に書き込んでおけば、俺の写しを持ち歩かなくてもいいと思って。そういうわけだからエリカの地図に書き込むけどいいかな?」

「もちろんいいわよ」

「ありがとう」

「夕食の時間遅らせる?」

「まだ1時間くらいあるから大丈夫。それじゃあ」


 俺は一度部屋に戻って筆をポケットに入れ、エリカから貸してもらった地図を持って2階の図書室に向かった。


 さっそく5階層の地図を開いてエリカの地図と見比べたところ、どうもエリカの地図の方が古いようで、坑道の足りない部分が何個所かあった。このパターンは予測していなかったのだが、俺はエリカの地図を修正することにして坑道を描き足していった。


 こういった作業も慣れたもので20分ほどで描き写しは終了してしまった。これで明日からエリカの地図を信用して5階層に臨むことができる。


 3階に戻って礼を言ってエリカに地図を返した。

「けっこう早かったのね」

「慣れてるから。エリカの地図の方が古かったようで、足りなかった坑道を書き込んでおいた」

「そうだったの。知らなかった」

「これでエリカの地図が図書室の地図と同じになったから。いつでも本格的に5階層に下りていけるよ」

「夕食の時、ケイちゃんも交えて明日のこと考えよ」

「そうだね」


 夕食までまだ時間があったので、俺は部屋に戻って時間調整し、6時を告げる街の鐘が鳴り終わったところで部屋を出て1階に下りて行った。

 エリカもケイちゃんも雄鶏亭おんどりていの手前に立っていた。お腹が空いてたのか?


 3人揃ったところで空いていた4人席に座り、定食が運ばれてきたところで各自で飲み物を頼み、 飲み物が運ばれてきたところで乾杯して食事を始めた。


 しばらくしたところで俺は明日のことを話し始めた。

「エリカの持っている5階層の地図とここの図書室の地図を見比べたところ、少し違いがあったんでエリカの地図を修正したんだ。

 これでいつでも本格的に5階層に進めると思う」

「もう5階層まで行くんですか」と、ケイちゃん。初日に3階層。二日目に5階層じゃ急だと感じるものな。

「急だとケイちゃんは感じるかもしれないけど、もともと俺とエリカも5階層くらいならいけると思っていたところに、新たな戦力としてケイちゃんが加わったんだから余裕ができたわけなんだ」

「なるほど。分かりました」

 ケイちゃんだって今日の自分の活躍を考えれば5階層が厳しい階層になるとは思えないだろうし。

「エリカもいいよな?」

「もちろん」

「じゃあ、そういうことで明日は5階層に下りてみよう」


 そのあと食事しながら5階層のモンスターとキノコについて俺とエリカでケイちゃんに説明しておいた。


「何回か5階層に下りて5階層に慣れたら、泊りがけで潜ってみたいんだ。

 というのは5階層まで片道2時間。往復で4時間かかるから5階層での活動は4時間くらいしかなくなって、帰りのことを考えると実質2時間しかなくなってしまう。

 2時間でそれなりの収穫があればそれまでだけど、まず無理だろうから、落ち着いて5階層を巡るためにも1泊したいんだ。

 6階層以降はもっと行き来に時間がかかるようになるわけだから予行演習って感じかな」

「分かりました」

「エド、泊りがけするために毛布とか用意する必要があるから、1日休みにしようよ」

「もちろんだ」

「エドってサクラダにやって来るときの乗合馬車で最初見た時、わたしを盗み見てるだけで頼りなさそうだったけど、ちゃんとリーダーやってるものね」


 今ケイちゃんが俺をチラ見して目を逸らせた!

 エリカさん、お願いですからケイちゃんとうか人さまの前でそういうのはやめてください。



 定食を食べ終え、飲み物も飲み終えたところで俺たちは席を立ってそろって3階に戻っていった。



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