29 ワナ解除師の価値を知らしめるために

ミエル

「うーん、誰かが仕掛けたワナがいっぱいあるなあ。

 苦労して仕掛けたんだろうなあ。


 ダンジョンのワナは壊しても、3時間くらいで復活するけれど、これらのワナは違うなあ。

 出来る限り、壊さないように注意して通ることにしよう。」


 ボクは、1本道の通路を無事に通り抜けることができた。


ミエル

「ふう、ワナを ”こわさないように” 通るって、むずかしいなあ。」


ナレーション

「普通は、ワナに ”ひっかからないように” 通るんだよ。

 思わず、ツッコミました。」


 ミエルは、苦労した甲斐があって、【ワナ解除師ナリル】の前にたどりついた。

 ミエルの恋人みやびが、手をなわでしばられていた。


ワナ解除師 ナリル

「来たな、ミエル。

 おまえとみやびのせいで、俺の人生はんでしまった。」


武闘家みやび

「ごめんさ、ミエル。

 ここには、ワナがいっぱいあるさ。

 ミエルは、逃げて欲しいさ。」


賢者 ミエル

「みやび、無事でよかった。

 大丈夫だよ。 ボクには、【ワナ回避かいひチート】があるからね。」


ナリル

「そんなものがあって、たまるか!


 くらえ!


 足ばさみ! 壁からの多連矢打ち! そして、階段から落ちてくる大きい岩!」


 3つのワナが作動した。


みやび

「ミエルーーーー! いやああーーー!」


ナリル

「どうだ、見たか?

 オレこそが、一番の【ワナ解除師】、【ワナの専門家】なんだ。」


 砂けむりが晴れると、ミエルがいた場所が良く見えるようになった。


 そこには、からっぽの足ばさみ、折れた多くの矢、こなごなになった岩のカケラがあった。


ナリル

「ミエルは、どこに行った?」


 ボクは、みやびをしばっていた縄だけを、【火球 小】の呪文で焼き落とした。


ミエル

「けがはない? みやび。」


みやび

「ミエル、良かったさ。

 もうだめかと思ったさ。」


 みやびがボクに抱きついてきた。


ナリル

「人前で、なにをいちゃついているんだよ。

 本当にひとを不愉快ふゆかいにさせることが上手だな。」


ミエル

「あのね?

 なにをしたいのか、わからないけれど、全部、あなたのひとり芝居しばいだよね。

 ボクたちを巻き込むことは、止めてくれないかな?」


ナリル

「はあ、ふざけんなよ。

 ギルドに言われて、ボクをつかまえに来たんだろうが?」


ミエル

「ボクは、正義の味方じゃないよ。

 恋人のみやびをむかえに来ただけだよ。


 じゃあね、さよなら。


 もうかかわってこないでね。


 さあ、帰ろう、みやび。」


ナリル

「逃げるな! ひきょうもの。」


 ナリルがなぐりかかってきた。

 みやびが、ボクの前に出て、ナリルのパンチをかわして、ナリルの腹に下から突き上げる突き、つまり、パンチを入れた。


みやび

「あんた、いいかげん、うっとうしいさ。」


ナリル

「ミエルが、オレの専門領域である【ワナ解除】にいるから悪いんだろうが、お前さえいなければ、オレの地位は不動の殿堂入でんどういりだったんだ。


 それなのに、

  「ミエルとちがって、ダンジョンのワナについて一番大事なことを教えていない」

って、ギルドマスターから怒られたんだからな。」


ミエル

「ボクには関係無いよね。」


ナリル

「いいや、あるさ。

 そこにいるバカのみやびでさえ覚えていることを教えなかったって、責められたんだぞ。」


ミエル

「ひとの恋人にバカって言うな!

 泣いてもらうよ!」


みやび

「ダンジョンの注意事項なんて多すぎて覚えていないさ。

 覚えていることは1個だけさ。

 上級ダンジョンでワナに引っ掛かったら死ぬことだけさ。」


ナリル

「それを教えていないって、責任追及されたんだぞ。

 初級も中級もダンジョンのワナにかかってもスタート地点に戻されるだけじゃなかったのかよ?

 だったら、上級だって同じようなものだと思って当然だろうが?」


ミエル

「言っていることがシロウトだね。

 ああ、それで、上級パーティが全滅ぜんめつしたのか?」


ナリル

「ダンジョンのワナの怖さと、それを破るワナ解除師の価値を分かってもらうには、ワナを体験してもらうことが一番だろうが、なにが間違っているって言うんだよ。」


ミエル

「全部だよ。

 【ワナ解除師】なんて、新しい肩書というか変な肩書を名乗って商売することは、あなたの勝手かもしれないけれど、上級ダンジョンでするなんて、バカしかいないよね。」


ナリル

「俺をバカって言うなーーーー!

 くそー、おぼえてやがれ。」


 ナリルは、ミエルが来た道に向かって走り出した。


ミエル

「ダメだ。 そっちに行くんじゃない。」


ナリル

「バカか、だれが待つかよ。

 おれは他の町に逃げのびてやるんだ。」


 ナリルが地下20階層から地下19階層に続く廊下に入って、しばらくすると・・・


 遠くから悲鳴が聞こえてきた。


ワナ解除師 ナリル

「ワナにまれて、足が痛い。

 うわー、かべから矢が放たれた。痛い。


 げ、上からタライが落ちてきた。痛い。


 うわ、なんだ、これは、まさかあぶらか?

 そして、えっ、20本の火がついたロウソク?

 ぎゃあー、熱い、あつい、たすけてくれー!


 まさか、これは、おれが仕掛けたワナじゃないか?


 ミエルに、全部こわされたと思っていたのに、どうして残っているんだ。


 やめてー、かべが両側から、せまってくる。


 足がはさまって、動けない。


 ぶちっ。」



 ギルドの地下にある霊安室に、ナリルのなきがらが転送された。


 連絡を受けたギルドマスターと受付嬢が、ナリルであることを確認した。


受付嬢

「ミエルさんがやったのですね。」


ギルドマスター

「いいや、ミエルは、こんなに手の込んだことはしない。

 ナリル自身が仕掛けたワナに自分で引っ掛かったのだろう。」


受付嬢

「そうなのですか?」


ギルドマスター

「そうだよ。

 ミエルは時間があったら、みやびのムネ、ごほんごほん。

 宿屋のベッドで、みやびと仲良くしているからな。


 ミエルは、みやび中毒ちゅうどく重傷者じゅうしょうしゃだからな。


 ああ、いや、みやびとアツアツの恋愛中だから、愛情交換も多くて長いそうだ。」


受付嬢

「だれが言っているんですか?

 そんなことを言いふらしたら、みやびさんが、かわいそうじゃないですか?」


ギルドマスター

「みやびさん本人が、女性冒険者たちに言いまわっているんだよ。

 おかげで、だれもミエルに近づこうとしない。」


受付嬢

恋敵こいがたきを近づけないためですね。

 みやびさんは、わたしが思ったよりもかしこいのですね。」


ギルドマスター

「そのとおりだ。 みやびの学力は低いかもしれないが、頭が良くて賢いと思う。

 ミエルとは本当に相性あいしょうが最高に良いと言える。」


受付嬢

賛成さんせいします。」

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