カースト最下層のモブAが魔王の娘と仲良くなり、世界を滅ぼすそうです。

土山 月

モブAの友達はモブBです。

 僕、マテアス・ムウは気がついた頃には、モブAとして完成された。


 幼い頃は可愛い幼馴染もいて、毎日楽しい楽しい日々を過ごしていた……気がする。


 しかし淡く白いモヤが記憶の中に残っている。昔の記憶などそんなものだろう。曖昧でしかない。


 いつからだろうか。僕のモブAとしての才能が開花した。

 




 僕は今日から魔法が発展したトルシア王国、王都にある一流魔法学院イーロアス学院に編入した。


 元は田舎の小さな魔法学校にいた僕がなぜ王都の一流魔法学院に編入したかって?


 実力だ。


 そう思っていた。


 井の中の蛙大海を知らずとは、まさにこのこと。


 僕は今、魔法学院最下層のクラスに属している。しかも、最下層クラスのカースト最下位。


 田舎の魔法学校の頃の立ち位置は、実力のある陰キャラだった。


 しかし、

 今はモブAどころかモブZだ。


「今日から編入してきた編入生を発表する」


 担任の先生の一言で扉の前に立つ、僕に視線が集まる。


 深呼吸をして教室へ、一歩踏み入れる。

「「「ウオォー!、あぁー?」」」


 クラスメイトの波のような歓声が悲しい。


 クラスの新メンバーに期待値を高くしていた分、新メンバーモブAの登場によって期待値の落差に落胆してしまう。


「さぁ、名前を言いなさい」


「あ、は、はい!な、名前は、マテアス・ミュッ……」


 舌に鋭い痛みを感じ、口の中に鉄の味が広がる。


「マテアス・ムゥだ。仲良くしてやってくれ。席は……そこ空いてるな。窓側の一番後ろの席でいいな?」


「あ、はい……ありがとうございました」


 早口になり、俯いた頭を上げられない。恥ずかしい。


 先生の指示された窓側の一番後ろの席に座る。


「よろしく、えっと……ミュー殿?」


 僕に話しかけてきた、小太りの眼鏡だけが特徴の僕と同じ臭いがする隣の席の男子クラスメイト。


「えっと……ムウです……」


 どうやら僕の自己紹介は失敗したようだ。


「拙者の名前はハルト ナカムラでござる」


 癖が強く忘れない印象を与える一人称と語尾。しかし名前はごく平凡でありがちな名前に中途半端な苗字ランキングの順位な苗字。容姿も相まっていかにもモブキャラだ。


「ハヤト、君とは仲良くなれそうだ」


「……ハルトでござる」


 いけない、いけない。早々に名前も間違えてしまった。


「ハルト、君とは仲良くなりそうだ」


「拙者もそう思い話しかけたでござる」


 類は友を呼ぶ。モブキャラAの友達はモブキャラBだ。





 朝のホームルームを終え、一限の授業までは時間がある。


 この一限までの時間で編入生の机の周りにクラスメイトが集まり質問がを絶え間なくされるのがお約束だ。


 編入生、第一の悩みだ!


「……なぁハル」


「ハルトでござる」


「……なぁハルト。どうして僕の周りには人だかりができない?」


「なんの特徴もなく、話しかける必要すら感じないからでござらんか?」


 モブBの言葉が胸にチクッと刺さる。


 まだ話しかけられずに悲観することでは無い。まだ一日は始まったばかり。


 一限の授業準備で忙しだけだ……きっとそうだ。


 一限後

「……」


 二限後

「……」


 昼休み

「……」


 放課後

「……」


 僕は今日、この隣のモブB以外と話していない。


「……なぁナカタニ」


「ナカムラでござる」


「……なぁナカムラ。今日誰一人に話しかけられなかったぞ」


「隣の席でござる故、よく知っているでござるよ」


 現実を突きつけられた。興味無いやつには誰一人話しかけてこない。


 本当に最下層も最下層。ワールド一の一で躓いた。


クッパ城どころでは無い。クリボーで躓いている。


 輝いて見える男女で談笑するクラスメイトの姿を横目に、肘をつき窓の外を眺める。


 夕焼け色の空が綺麗だ。この切ない気持ちを、この赤い空は世界の裏側に持って行ってくれないだろうか。


 空いた窓からそよ風が入り込み、髪を靡かせる。


「それは……ムウ殿がやっても映えないでござるよ」


「うるせえぇぇ!」


 頭の血管が浮かび上がるのがわかり、間髪なく叫ぶ。こいつ、この見た目で毒キャラなのかよ。


「おい、編入生ってどいつだよ」


 黄昏ている僕を邪魔するかのように、上級生の印の赤いネクタイを着けた一人の低い男の声が教室に響く。


 教室に残っているクラスメイトの視線が一斉に僕に集まる。


「ムウ殿、は、早く名乗りあげるでござる」


 隣から怯えたような顔のハルトが小声で僕にそう告げる。クラス中の視線がハルトと同じようなものを含んでいる。


「僕ですけど……どうかしましたか?」


「お前が編入生か。編入生と聞いてどんな凄いやつが来たのかと思ったら、落ちこぼれクラスのそれも魔力ゼロの雑魚みたいなやつだな」


 そう言って、この男は笑った。酷い言いようだ。


「マテアス・ムウです。よろしくお願いします」


 上級生だ。礼儀として名前くらいは名乗っておかないといけない。


「よせ、お前のような落ちこぼれの雑魚共の名前はどうせ覚えられぬ」


 一応、覚えようとはしてくれてるのか。そう言って、立ち去ろうとする男の歩みを止めさせる。


「名前は……」


 おい、何言ってんだと言った視線が僕の背中に幾つも突き刺さる。


 でも、こっちは名乗ったのにこの男が名乗らないのは如何なものか。


 男はこちらに不機嫌そうな顔で振り返る。


「お前、俺の事を知らないのか?」


 自信ありげにそういう男。


 僕がこの男を知るわけがないだろ。今日初めて会ったんだ。分かるわけなかろう。


「はい……存じ上げません」


「チッ、ユーラス・エス・ダリアだ。今後一切忘れるな。もし次会った時覚えていなければ、分かってるよな?」


 ユーラスは不機嫌そうな顔のままだった。


「は、はい!二度と忘れません! 」


 僕の返事を聞きもせずに、ユーラスは僕たちの教室から立ち去って行った。


 



 帰り支度の途中だったため、自分の机に戻る。


「ムウ殿。世間知らずも程があるでござる! 」


 世間知らず?僕がどうして世間知らずなんだ。


「僕、今日からこの学院に入ったから右も左も全然わからないんだよ」


 ハルトは説明するのが気だるそうに、はぁっと大きなため息を吐く。


「ユーラス・エス・ダリア様。この国の次期第一国王候補にして、この学院の最高実力者。歳は三年生の代だが、飛び級で最高学年である六年生。雲の上の存在だよ」


 ハルトの口調はこれまでと変わり真剣なものだった。


 そんな大層な人物がどうして学院最下層のモブAの僕にわざわざ話しかけに来るんだ。


「どうして、雑魚編入生の僕に話しかけてくるんだ?」


「それは……地方のことは知らないでござるが、少なくとも王都の学院への編入は相当異例なことでござるから、注目されるのも無理はないでござる」


 なるほど。だから、わざわざそんな大層な人物が地域にできた公園を珍しい程度の感覚で下見に来たのか。


 しかし、ひとつ引っかかる点がある。


「……なぁ、ナルト」


「ハルトだってばよ! 」


「……なぁ、ハルト。なら珍しい僕にどうして誰一人、話しかけてこないんだ?」


 第一国王候補の大物が下見に来る程なのに、どうして身近なクラスメイトに声をかけられない。


「それは……ムウ殿がモブでござるからよ」


 どうやら僕がモブだからモブAにはモブBしか話しかけてこないらしい。





 こうして僕のトルシア王国、王都イーロアス学院の編入初日を終えた。


 今日の収穫:モブBと友達になった

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