第27話次の標的

芳樹は、相続税対策を理由に、高知の実家からの仕送りも多く、それほど金には執着を持っていなかった。

「不倫行員」山下結奈と長谷部武から「せしめた」現金150万は、由紀、夏子、麻友の口座に50万ずつ入れるよう指示した。


その気前の良さに、由紀が逆に不安を訴えた。

「芳樹、手切れ金にして、追い出すの?」

夏子は、豊かな胸を芳樹に密着させた。

「出て行きたくない、ネットカフェだと眠れない」

麻友は、太ももを芳樹に絡ませた。

「匿名で私たちをバラすとか?」


芳樹は、せせら笑った。

「バラさねえよ」

「松戸支店は、オープン戦見たいなもの」

「まだまだ、これからだ」


夏子を見た。

「夏子の実家をつぶした行員の名前を覚えている?」


夏子の目が光った。

「うん、望月って言う、中年デブでハゲで超陰険」

「それを・・・つぶすの?」


芳樹は頷いた。

「当たり前だ、必殺仕置き人するぞ」


麻友は夏子に聞いた。

「今も同じ支店にいるの?」


夏子は不安そうに首を横に振った。

「わからない、でも、あいつ、私の顏も知っているし」

「下手に行くとバレる」

唇を噛んだ。

「2、3回、お尻触られた」

「でも、実家の印刷工場が借金していたから、我慢したの」


由紀が芳樹に迫った。

「まずは、銀行員の名簿」

「親父の組の子分を使ってもいい?」


芳樹は、少し考えた。

「かまわんが・・・」

「俺たちは、基本ステルス作戦」

「俺たちの秘密とか情報だけは、厳守」


由紀が頷いた。

「うん、呼ぶよ」



30分後、中年の精悍な男と20代前半のきれいな女が、芳樹たちのアパートに入って来た。

由紀が、二人を紹介した。

「この怖いおっさんが、君澤浩二さん、親父の子分でも上位クラス」

「で、こっちのお姉さんは、清水亜里沙さん、組の会計さん」


芳樹が自己紹介をすると、君澤浩二が芳樹の手をガッチリと握った。

「あんた、野球していたでしょ?W大でエース」


(本物の極道を見て少し緊張していた)芳樹の表情が緩んだ。

「わかりますか?」


君澤浩二も笑った。

「ああ、俺もW大の野球部出身」

「センター守っていた」

「お嬢様の頼み、それから可愛い後輩の頼みだ」

「それから、面白い仕事だ」

「任せて欲しい」


芳樹は、力を込めて、君澤浩二の手を握り返した。

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