第5話芳樹の強引は通じず、吉原に

芳樹は、東都物産のビルを出るなり、歩きながら先輩の杉田竜二に電話をかけた。

最初から喧嘩腰に強く迫った。


「竜二さん!なめてんですか!」

「何でこの俺が営業なんすか!」

「俺、W大の野球部のエースっすよ!」

「それが営業なんて、ドブ板やって人にペコペコ頭下げる?」

「オヤジさんに会せてくださいよ!」

「一言文句言わないと、気が済まないっす!」


いきなり電話を受けた竜二は、ヘキエキしながら答えた。

「あ・・・そう?」

「今は・・・俺、銀座にいる」

「オヤジは・・・電話しないとわからないよ」

「オヤジと連絡がついたら、こっちから芳樹君に電話するよ」


モタモタとした竜二の言葉に、芳樹はキレた。

「あーーーー!」

「竜二さん、どうして、そんなにフヌケなんすか!」

「だから、女の一人もつかまえられないんすよ!」

「いいから、オヤジさんに会わせてください!」

「今すぐです!」


竜二は、芳樹にキレられ、ますます、慌てた。

「わ・・・わかった・・・」

「オヤジにメールは入れておく」

「後は、オヤジと交渉して」

(竜二は、仕方なく、父の杉田毅に竜二の件でメッセージを送った)


その5分後、芳樹のスマホに、東都物産部長杉田毅から、メッセージが入った。

「芳樹君、今は重要な会議中だ」

「その後も、少々政府と交渉がある」

「終わり次第、連絡する」


このメッセージの内容では、芳樹は、どうにもならなかった。

日本を代表する商社、東都物産の部長が出席する重要な会議である。

その重要な会議の後は、政府との交渉と書いてある。


先輩の竜二が「銀座にいる」と言ったことからも、察しはついた。

重要な会議の後は、政府の要人を招いて、銀座のクラブで接待になる。

また、竜二は、銀座のクラブで接待の準備を行っていると思った。

(竜二は、東都物産の御用出版社勤務、政府接待も「東都物産本社の直接接待」にならないように、ワンクッション置くのである)


「しょうがねえ」

「諦めるか・・・」

そう思った芳樹であるが、まだ、モヤモヤはおさまらない。

銀座での政府接待の場に押しかけて、「自分の人事配置の文句」を言おうか・・・

ただ、プライドだけは高い芳樹は、それは、恥ずかしいと思った。

政府要人の前で、「東都物産の内部の問題」をぶちまける、それは出来ないと思ったのである。



仏頂面をした芳樹の横を、上品なスーツを着たOLたちが通り過ぎて行く。

「東京のきれいな女を抱きたい」

芳樹は、身体の一部に、「欲望」のたかまりを感じた。


「このままでは、帰れない」

そう思った芳樹は、大通りでタクシーを拾った。


「吉原に行ってくれ」

「吉原」なら、「東京の」「きれいな女」が抱けると思った。


吉原の店で、あてがわれた女は、若くて、「東京風」のきれいな身体だった。

「技術」も高く、芳樹を「簡単」に「処理」した。

「お客さん、元気がいいのね・・・・何度も、がんばって」


芳樹は、気だるさの中で、女の言葉を聞いた。

しかし、女の言葉の裏に、「極めて自分勝手で、しかも早漏の指摘」があるとは、気が付いていない。

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