第4話社長の邸宅(真鈴の家)に

研修室を出た陽平と真鈴は、エレベーターで地下駐車場に。

そのまま、運転手付きの黒ベンツに乗り込んだ。


陽平は顔なじみの運転手酒井に声をかけた。

「ごめんなさい、私用ができてしまいました」

運転手酒井は、深みのある声。

「事情は、人事部の杉村さんから聞きました」

「よく我慢しました」

「桑田芳樹については、杉田部長の関係とか」

「ただ、陽平様と真鈴様との関係は、知らなかったと思われます」


陽平は、目を閉じた。

「申し訳ない、面倒な心配をさせてしまいました」

その陽平の手を、真鈴が握った。

「陽平君を傷付けるなんて、許せないな」

陽平は、首を横に振った。

「傷付いたのは靴だけ」

「彼が、あの程度、あの種類の人間とわかっただけでも、収穫」

「それにしても、杉田部長の関係となれば、慎重に動かないと」


黒ベンツは銀座の老舗靴屋に着いた。

陽平と真鈴は、靴屋に入り、靴を買って、すぐに出て来た。


運転手酒井が、冷やかすような笑み。

「花の銀座でデート歩きもなさらないとは」


陽平は、笑って返した。

「真鈴さんと?」

真鈴も笑った。

「陽平君とお洒落なデートって感じはないよ」

「子供の頃から、ずっと」

陽平は車窓に顏を向けた。

「他人のような気がしないんです」

「恋人なら、もう少し緊張感があるんですが」


運転手酒井は、また、少し笑った。

「見ていて、癒されます」


真鈴は、陽平の頭をコツンとした。

「どうせ、年増です」

「陽平君から見れば、オバサン?」


陽平は、そのまま、真鈴にもたれかかった。

「安心感があるよ、真鈴さん」

「ところで、社長は何の用かな」


真鈴は、首を傾げた。

「うーん・・・私も聞いていないよ」

「とにかく、連れて来いって」

「珍しく真面目な顔だったよ」


陽平は、真鈴から身体を離した。

「健治さん、真面目な顔の時は、いい感じ」

「子供の頃から、かっこいいと思っていた」

「社員としての、心構えの教えかな」


真鈴は、話題を変えた。

「母さんが、散らし寿司を作るとか」

「おめでたい時の定番だよ」


陽平は、首を傾げた。

「佳代子さんからは、もう就職祝い貰ったよ」

「すごく書きやすい万年筆」

「そうなると・・・真面目な顔で、おめでたいって、何?」


黒ベンツは、首都高に入った。


陽平のスマホにコール音。

「はい、陽平です」

「え?父さんと母さんも社長の家に?」

「何事?急に決まったの?」


陽平の顏に、困惑が浮かんでいる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る