第2話佐々木真鈴

人事部杉村哲夫が、しっとり系の超美女を研修室の全員に紹介した。

「佐々木健治社長の御令嬢真鈴様です」


研修室にいる、陽平以外の新入社員全員が、その顔を緊張させ、背筋を伸ばした。


ただ、陽平は表情も姿勢も変えない。

鞄に研修書類をしまっている。


真鈴が、陽平のスーツの袖を引いた。

「ねえ、陽平君、今から、家に来て」


他の新入社員全員がザワザワとなる中、陽平は驚いたような顔。

「何かあるの?」

と、すぐには承諾しない。

そのうえ、ゾンザイな口調である。


真鈴は、陽平の袖を強く掴んだ。

「来てくれればわかる」

「それとも、用事でもあるの?」

「そこも付き合う」


陽平は、周囲を見回した。

このまま、真鈴と話を続ける前に、他の新入社員や人事部杉村哲夫にも「関係やら事情」を話しておくべきと思ったのである。

「ごめんなさい、驚かせているようで」

「真鈴さんとは、幼稚舎からの、お付き合い」

「小中高大学まで、先輩後輩かな」

「家族ぐるみの付き合いです」


少し間を置いた。

「コネ入社かどうかの判定は、僕にはわかりません」

「そう思われるのなら、非難でも何でも受けます」


人事部杉村哲夫が、陽平を制した。

「陽平君は、社長たっての、ご希望でした」

「そして試験選考でも、最高位でした」

「さっきのW大とかK大の事情は、当社には無関係です」

「適材適所の人事配置です」


真鈴が反応した。

「さっきの・・・って・・・あれ?」

「桑田芳樹ってネームプレートを付けていた人?」


人事部杉村哲夫が申し訳なさそうに頭を下げた。

「はい、申し訳ありません」

「少々、トラブルがございまして」


真鈴は、顔を曇らせた。

「私の顔を見て、舌打ちをするし、廊下に唾を吐くし」

「私が何をしたって言うのかしら」

「社員としてのマナーの前に、人としてマナーが出来ていないと思うの」


陽平は、怒りで顔を赤くする真鈴を、手で制した。

「靴屋に寄ってもいいかな」

「さっき彼に足を踏まれて、傷が付いた」

「また明日も研修で、また踏まれても困る」

「予備を買っておく」


真鈴は頷いた。

「車で来ているから乗って」

「銀座でいい?」

陽平は、今度は、素直に頷いた。

「助かります」


真鈴と陽平が、研修室を出た後、研修室はまた動揺が広がった。

「陽平君のほうが、強気な感じ」

「真鈴さんは、押されていた」

「でも、真鈴さんが、年上だよね」


人事部杉村哲夫は、誰か上司と連絡を取っている。

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