ひとひらの波紋は消えて水際に気付かぬふりの眼がふたつ


ひとひらの波紋は消えて

水際に気付かぬふりのまなこがふたつ



坂道の途中の脇道に沼への沿道がある

数本の山桜が幽玄の趣きで出迎えてくれる


地元では夜にこの道を歩く者はいない

曰く、枝に死体がぶら下がっていた

曰く、何かに喰い荒らされた死体が上がった

曰く、沼の真上に女の幽霊を見た

立派な心霊スポットである

馬鹿馬鹿しい


季節外れの山桜が散っている

ひらひらと水面を揺らす静寂の世界


完全にひとりは初めてだな


生暖かい風が吹く

全ての音が鳴り止んだ


脳内に警報が鳴る


視線が刺さった

無意識に目だけで視線の出元を追う


水際の草かげに大きなふたつの眼がある

あの位置では身体の大半は水の中だ


警報の警戒レベルが上がる


今、立ち去らなければ

いのちが危うい


自然を振る舞い

明るい道へと歩いて行く


背中に視線がこびりつく

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