悪魔本転生

秋風のシャー

ダメ人間

「絶対に負けたらダメだよ。

チャンスは一回何だからね。」


「うんうんそうだよねお兄ちゃん頑張るね。」

弱い独り言を呟きながら

後、2000円と言い聞かせてサンドに紙幣を投入する男。

シミの付いた白服、下は薄汚い茶色い短パン姿はまるでダメ人間そのもの。

このお金すらも汗水垂らし稼いだ妹のお金。


右手でハンドルを回すと玉が弾かれ釘の間を通り落ちる玉を

来い、来いと眺める。弾数がなくなるにつれて眉間にしわ寄せながら同じ動作を何度も行う。


「お、お、きた、きたー!」


演出が入り前のめりになったその時だった。


暗黒への切符が不気味な警鐘と共に切られた。

急な警報に

街中では佇立する人々。


店内ではその危険信号そっちのけで集中する人々。


次の瞬間、

縦へ横へと揺れる街。

店内もざわつき始める。 

が、まだ男の手はそれでも止まらない。

「ドリーーー厶」


誰しもが巨大地震を想起した矢先

、高周波の爆音が鳴り響く。


人間が本来聞くようなものでないこの音は

ゴーーーーーーーーー

空気を伝わり、街の窓ガラスを勢いよく割る。壁にヒビが入るが入る程の爆音が数秒に渡り鳴り響いた。

店内には強風が吹き荒れ、いたるものが吹き飛ばされる。それでもなおハンドルを離さない。あまつさえ水平方向に上体が浮きながらも男は画面を見続けていた。

「ド、ドリーーム。うわうわわわドリーム。」


しかし、叫び虚しく

パチンコ店は倒壊し、辺り一面が瓦礫の山とかした。

瓦礫の中にはパチンコ台の残骸、ハンドルと思わしきもの。

そして、それを握ったまま千切れた手があった。

まだ、やれると言わんばかりの執念がそこにはあったのだ。



多くの者が新たな門出を楽しみに期待を胸にし翼を羽ばたかせる今日は4月9日。ともあろうに桜並木のが連なる神田宮には各地から黒い服に身を包んだ人が集まり行列ができていた。その流れに沿って進む先には大きな白い木造の建物。


祭壇の前には多くの人の写真、そして、供花が添えられている。


一般人から陸、海、空の帽章の付いた者。立場は違えど目的を同じにした皆の悲しみの渦が蔓延る。


黙祷


同刻、

緑の芝生に彩られた広間に

車椅子の女が微風に髪を揺らしながら砂利の舗装路を進んでいた。


彼女は慰霊碑の前で車椅子のブレーキをかける。


司瑠星斗架


その名を瞬き一つせず眺める。


誰も分からないその瞳の裏にある感情。

…………………………………………

…………………………………………


その時、彼女の肩をそっと叩くものがあった。


振り向くと風がふきつけてきた。


その者がこの場にいる誰よりも落ち着いて見えたのは彼女が動揺していたからだろうかは全く微動だにしない表情からは読み取ることができない。


小声で

「お兄、お兄ちゃん…。」

と反芻する。

少しばかり目が輝き、何かを呟いた。

その時だった。後ろから声が聞こえてきた。


「しかし、この国も大変なダァ」

「聞けばそれは30メートルはあったとか、体を変形していたとか、噂が飛び交っているそうじゃないか。」


その声の中、声の主をよく見ると人違いだったことに気づく。触られたのも勘違いだったのだ。


男はこちらに目線に気づき声をかけてきた。

「君どうしたんだ。」


私は黒いコートのからちらちらちら見える軍服を見て目を背けた。

咄嗟に車椅子に載せてあった帽子を深く被り


「すいません」

と向きを変えその場を後にした。




「何処、ここ。何ここ。」


「おいでなすってありがとうございます。」

暗闇の中から出てきたのは金髪の女性。

「へ?」

「ここは、アローダルラヘブンス」


「ヘブン、死んだのか。どうして…

どうして、確定演習入ったのにー。」

「 そこ?」


頭を抱えたその時右手が無いことに気づく。

「手はどこにいった。」


「あぁ、それならパチンコ、とともに引き裂かれました。」


「冗談にしてはきついって。夢のドリーム諸共逝ったのかよ」

真顔の表情に血の気が引く。

対する女神らしき女性は真顔。

「まっ、いっか」

一瞬にして彼は落ち着いた。


「貴方にチャンスをあげましょう。」

お決まりの展開を咄嗟に阻む。

「いや、いいや。せっかく死んだんだ。

死ぬのは怖いけれど。もう済んだことだ。

俺なんかいないほうがいいって。心からそう思う」

「本当にいいのですか。」


「うんうん、それに。こんなものは夢に他ならない。そして、俺ちはそれを信じない。」

「確かに神様、仏様なるものは空想誰かの思いの中にいるものまして見えるなどはありえない話かもしれません。だからこれはあなたの頭の中で起こっている奇跡というべきことだと思ってください。ほら確定演出ですよ。」

「俺は俺を信じる。俺は俺の神を信じる。俺が神だ。」

「ちょっと、怖いんですけど。化け物ですか」

「結構」

「ちょっと、何で泣きそうなの」

「私にも事情があるのでふ。」

彼女は涙を拭いて近寄る。


「花麗のことはご存知ですよね。」


「妹、妹がどうしたって。」

「妹?誰のことですか。あぁ、呼ばせてるんですよね。分かります。いいですよね。」

ちょっと軽蔑している目に

「呼ばせてるってなに。いいじゃんいいじゃん……」

と挙動不審にものを言う。

「それに、家族だから」

間を置き固唾を呑んで言葉を待つ。

「で、どうなんだ」

「もう時期死にます」

「まじか」

「マジです。」

彼は一瞬、下を向いた。何かを考えるように。

「見せてあげましょう。あなたの死後、いや正確にはまだ生きていますが、どうなったかを」


「今なんて。」

「見せてあげましょう?」

「違う」

「生きてますが」


「いや死んでないんかーい」


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悪魔本転生 秋風のシャー @akikazenosyah

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