第二話 大人は何もわかっていない

 それから1ヵ月後、おじいさんは僕が入れそうなくらい大きなびっくり箱を完成させた。

 僕たちはそれを見てとても驚き、そして嬉しかった。

 

「おっきい!」

「全校生徒が歌ったら凄い事になりそう!」

「よし、明日これを学校にもって行こうぜ!」

『おーっ!』


…………


 次の日の朝。

 僕たちがいきなり運んできた大きな箱に、みんな戸惑っていた。

 特に先生たちは嫌がってるようにさえ見えた。

 でも、僕たちは自信があった。

 

「まぁ、見ててよ先生!」

「1回使ったら凄さがわかるから!」

「すっごく楽しいんだよ!」


 先生は僕たちのお願いを聞いて「1回だけなら……」と、僕の教室で試す事になった。

 実際にやってみせたら、友達のみんなは驚いてそれぞれ歌いだす。

 やっぱりこのびっくり箱はみんなを笑顔にしてくれるんだ。と嬉しくなった。


 しかし、先生たちはそうではなかった。反応はとても固い。

 呆然、疑い、恐怖の表情すら見せている先生もいる。

 

 こんなに楽しいのに、なんで大人はここまで怖がるんだろう。

 ここは音楽の街、リゼなんだからもっと喜ぶかと思っていたのに……

 僕はそれを見てとても悲しくなった。


 それから、少ししてこの大きなびっくり箱は音楽室に置かれる事になった。

 僕たち子供は『やったぁ!』と大喜びだ。


 音楽の時間が今までよりも楽しくなる。

 そして、ここからすべてが始まっていくんだ。

 歌は世界を幸せにするのだから。


 びっくり音楽箱はこうして僕たちの友達となり、「クリス」という名前が付けられた。


 * * *


 しかし、数日後。

 音楽の時間。いきなり国の兵士さんたちが教室の中に入ってきたんだ。


「な、何この人たち」

「こ、こわいよぉ……!」


 楽しい筈の時間が一気にピリピリした雰囲気になる。

 そして、兵士さんは音楽室の正面に置かれていた音楽箱を回収しようとした。

 僕たちはそれを止めようとするけれど、他の兵士さんが近づけさせてくれない。


「何をするんだ!」

「やめてぇ!」

「先生、この人達を止めてよ!」


 音楽の先生も知らなかったのだろう。でも、先生たちは何もしないでその光景を見ているだけだった。


 そして、音楽箱は持っていかれてしまう。

 さっきまでリズムに合わせてあんなに楽しそうに光っていた音楽箱は、もう光る事もなくただの箱に見えた。


 その後、僕たち全校生徒は教室で国の人からの話を聞いた。

 それは僕が予想もしなかった驚きの内容だった。


・これは王様直々の命令だ

・あの箱はとても危険な箱だ

・この事は他の人に言ってはいけない

・特に他の国の人に話したら許さない

・その時はお父さん、お母さんも一緒に逮捕する


 僕は、いや僕たちはその話を聞いてイライラしていた。

 大人たちが何を言っているかわからない。大人は何もわかっていない。

 あの音楽箱は皆を笑顔にする箱だ。危険なんてありっこない。

 そして、クリスが可愛そうすぎる。


 僕たちはそれを必死に伝えるけど、それを国の人は聞いてくれない。

 それどころか先生は僕たちを止めてくる。

 『これは王様の命令なんだから』というけれど、納得出来ない。


――そもそも、あの優しい王様は本当にそう言ったのだろうか。


 しかし、僕たちは何も出来る訳が無い。

 さっきの約束を守るように強く命令されて、今日の学校は終わった。


(学校にも兵士さんが来たんだから、もしかしたら……!)


 その帰り、おじいさんの家に行ってみたけど、たくさんの兵隊さんが家の前に立っていた。

 これは近づいたら危険だ。子供の僕にだってわかる。それくらい怖い雰囲気だったんだ。


 ガラクタじいさんはどうなったのだろう。これからどうなるのだろう。

 僕たちのミト国はこんな怖い国だったのだろうか。


 僕は突然変わった世界が怖くなった。


……

………


 * * *


 家に帰るとお父さんとお母さんが僕を抱きしめてくれた。

 ここにも国の人が来ていたみたいで、色々注意されたみたいだ。


「お父さん。王様の言ってる事は本当なの?」

「……」


 少し黙ったあと、お父さんは僕に今回の事について教えてくれた。

 何でミト国の大人達が慌てて学校に来たのか。何で音楽箱を持っていったのか。


 その大きな理由は、びっくり音楽箱が本当にびっくり箱だったから。


 お父さんは「音楽だけで箱が光りだす。この世界ではありえない事なんだ」と言った。

 魔法使いや僧侶が使う魔法詠唱とは違う。あれは血統のある人が使うから出来る事。

 さらに詠唱は言葉。言葉がない魔法自体がおかしい。

 

 つまり、ありえない。

 もしかしたら、光る理由はマジックパワーではないかもしれない。


「もし、本当に未知の物質だとしたら……」


 お父さんはそう言ったっきり、厳しい顔になった。

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