クリスとガラクタじいさんと音楽の街
TEKKON
第一話 びっくり音楽箱
みんなは「歌が世界を幸せにする」って信じるかい?
僕はずっと信じているんだ。
それは僕が、歌とこの街が大好きだから。
そして、おじいさんと約束したからね。
今から話すのは、僕の住んでいる街で起こった大騒動。
ガラクタじいさんが作った”不思議な箱”が巻き起こした
とても不思議で、そしてとても悲しいお話だ。
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クリスとガラクタじいさんと音楽の街
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学校帰りのある日。ガラクタじいさんが僕を呼び止めた。
「ネオ君、いいモノ見せてあげる」
ガラクタじいさんは工作がとっても得意で、いつも面白いモノを見せてくれるんだ。
例えば、ゼンマイと歯車で動く戦うお城
おっきいモンスターの人形
止まりそうで止まらない不思議な振り子
他にもいっぱいある。おじいさんの家は宝箱なんだ。
でも、大人たちはいつもおじいさんをバカにする。
『役に立たないガラクタばっかり作ってる変人』だと。
それでも僕は、楽しそうにモノを作るガラクタじいさんが大好きだ。
「うん! 今度は何を見せてくれるの?」
「今回はワシの最高傑作。乞うご期待じゃ!」
おじいさんはそう言って笑う。
長くて白いヒゲが笑い声で揺れる。
それを見て僕までニコニコしてしまうんだ。
* * *
いつものようにおじいさんの家に入ると、テーブルの上に初めて見る木箱があった。
「これがワシの大発明、”びっくり音楽箱”じゃよ!」
「びっくり音楽箱……」
大きさはりんごが3個ぐらい入るくらい。
箱の上側には丸い穴が開いていて、そこからガラス越しに中を見る事が出来た。
「何コレ?」
「ネオ君、この穴に向かって歌を歌ってごらん?」
「……えっ?」
いきなり歌ってといわれても、困るし恥ずかしい。
けど、おじいさんは小さな太鼓を持って来て、そのまま叩き始める。
僕はそれに合わせて戸惑いながら歌うと、びっくりする事が起こった。
「……えっ!? 光った!」
上の穴がうっすら光り始めて、僕の歌に合わせて強弱をつけているようにも見える。
「これ、すっごい楽しい!」
「そうじゃろ、そうじゃろ」
おじいさんはとても嬉しそうな顔を見せる。
魔法使いや僧侶の血筋はない僕でも、こんな事が出来るなんて……
僕は夕方になるまで歌い続け、音楽箱もそれに答えるように光り続けた。
…
……
………
* * *
それから僕は、学校帰りにじいさんの家に寄った。
時には友達もつれてきたり、楽器を持ち込む事もあった。
おじいさんは何も言わず、その光景を見てニコニコしている。
そして、少しずつこのびっくり箱についてわかってきた。
音が大きくなるとそれに合わせて光が強くなること。
人数が増えても光が強くなること。
歌詞じゃなくてメロディーに反応していること。
好きな歌と嫌いな歌があるらしいこと。
僕たちはじいさんに聞いてみた。
「ねぇ、おじいさん。なんでこの箱は光るの?」
「それは…… ひみつじゃよ」
じいさんはいたずらっ子みたいな表情を見せて笑う。
「えぇ〜っ。ケチッ」
音楽箱の仕掛けは秘密のままだけど、ちょっとだけヒントを教えてくれた。
箱の中には青くて小さい特別なクリスタルが入っている。
そのクリスタルが音楽に反応して、それを光に変換しているらしい。
きっと魔法に必要なマジックパワーが発生しているんだ。
でも、そんな仕掛けより僕らが考えていた事は一つ。
このびっくり箱をもっとたくさんの人に使ってもらう事だ。
「おじいさん。もっと大きな箱作って学校に持っていこうよ!」
「……そうじゃな。ここは音楽の街じゃ。よーし、頑張るぞ!」
『やったぁ!』
僕達は確信して疑わなかった。
このびっくり箱がこの街を歌声で幸せにしてくれる事を。
そして、いつしかこの国を、この世界まで広がっていく事を。
歌が世界を幸せにしてくれる事を。
――しかし、それは大きな間違いだったんだ。
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