第15話 ムラサメと三兄弟

「レオン様。ご無事でしたか」


 ギルドへ戻ると、アズが案ずるような表情で出迎えた。


「ただいま。この通りなにもなかったし、心配しなくても大丈夫だよ」


「……そうですか。そうですよね。あの無礼者ごときの拳がレオン様に届く道理などあるはずがないですからね」


「俺らは話し合いをしただけで、果たし合いをした訳じゃないからね?」


「あとは私が奴の頭を三回潰したあとレオン様が残りの一回を済ませば万全です」


「オーバーキル継続っ!!」


 どうやら従者から見た俺は短時間で人の頭を二回潰すような人間であるらしい。


「おかえり、ムラサメ君」


「話は済んだかい、ムラサメ君」


「だめだよムラサメ君、いきなり乱暴なことをしちゃ」


 どう伝えれば彼女に『普通の人類は一度潰れた頭は生えてこない』と理解してもらえるか悩んでいる一方で、ムラサメはまったく同じ顔の三人組に出迎えられていた。


 つぶらな瞳以外に特徴のないシンプルな顔立ち。髪型も同じで、三人とも頭頂部からアホ毛を生やしている。


 三人組は俺の前で横に並び同時に頭を下げる。合図もないのに完璧に揃った動作であった。


「迷惑かけてごめんよ」


 と、左の男。アホ毛が一本揺れている。


「ケガがなくてよかったよ」


 と、真ん中の男。よく見るとアホ毛の先端が二股に分かれている。


「ムラサメ君にはあとでよく言っておくから」


 と、右の男。彼のアホ毛は三つ股だ。


「君たちは?」


「僕の幼なじみのパーティー仲間だ」


 三人組の代わりにムラサメが答えた。


「見ての通り三つ子だ。彼ら"田中"家と僕の実家は隣同士だった」


『田中』というファンタジーらしからぬ名字が出たが、俺はもちろんアズも違和感を覚える様子はなかった。


 なにしろこのゲームLOAではキャラの名前に漢字が使用可能であるし、表示方法も『名・姓』『姓・名』のどちらからも選択可能である。


 そのため日本人風のキャラも普通に作成できるし、なんなら作中にも日本名のNPCが登場する。世界観の整合性より自由度を優先した結果だろう。


『改めまして、こんにちは』


 田中家の三兄弟が声を揃えた。ブレひとつないきれいに重なった声だった。


「俺は長男のタロ。素手の格闘が得意なんだ」


 と、アホ毛一本の男が言った。


「オレは次男のジロ。短刀使いだよ」


 と、二股アホ毛の男が言った。


「おれは三男のサブロ。後方から魔術で支援するよ」


 と、三つ股アホ毛の男が言った。


「俺はレオンだ。こっちはアズ。よろしくな」


「改めまして、よろしくお願いいたします」


 俺に合わせてアズもすんなりと挨拶をする。"無礼者の仲間"として多少なりとも態度に出るかと思ったが……そういう素振りはない。従者として礼儀作法は学んでいるだけに、ムラサメと三兄弟は別と割り切っているのだろうか。


「ああ、俺らはさっき改めてアズさんに謝って許してもらえたから。ムラサメ君のことも含めて彼女をあんまり責めないでね」


 どうやら顔に出ていたらしく、タロがそう補足する。


「あなたたちはともかく、私はまだムラサメとやらは信用していませんからね。……まったく。とんだ無礼者もいたものです」


「本当にごめんよ。ところで、アズさんは従者……ってことはひょっとしてレオン君は結構いいとこの出だったり?」


「マイヤー男爵家の三男だよ。とは言っても冒険者ギルドここにいる以上は貴族だ平民だのは関係ない。変に気を遣わないでくれ」


 "原作"のレオンであれば『平民風情がホニャララ』とでも言う場面であろう。脳内でその姿に蹴りを入れながら告げる。


 自分から『気を遣うな』と言うのもなんか自意識過剰っぽいが……さいわい三兄弟は特に気にかける様子もなく「じゃあ、遠慮なくそうさせてもらうよ」と答えた。


「話は済んだみたいだな。それじゃあ三人とも、さっさと依頼クエストでも受けよう」


 ムラサメが言った。


「さっそくか?」


「当然だ。僕がチヤホヤされるためには活躍しなきゃならない。善は急げだ」


「そうか」


「ああ。……じゃあなレオン。お前には絶対に負けないからな」


「あ、待ってよムラサメ君」


「それじゃあオレらはこれで」


「レオン君もがんばれよ」


 そう言い残し、ムラサメと三兄弟は依頼掲示板の方へと向かって行った。


「……それでレオン様。私たちはこれからパーティーメンバーの募集ですか?」


 アズが言った。


「そうだ。……取りあえず募集条件を紙に書いておこうか」


 俺はギルド内のテーブルで募集のチラシを書き上げ、ギルド内の連絡用掲示板に張り出してもらった。


 本格始動は明日以降とし、その日は土地勘を養うためにふたりでバレンシアの町を散策することにした。


 確かに俺は町のマップを覚えている。だが、ゲーム中の描写ではエリアとエリアのあいだが端折はしょられている。実際に足を運んできっちり位置関係を確認しておくに越したことはない。


 日が暮れるまで歩き回ったあとは宿へと戻り、俺たちの冒険者生活初日は終了し

た。



━━━━━━━━━━━━━━━

お読みいただきありがとうございます。

よろしければ、下部の「♡応援する」および作品ページの「☆で称える」評価、フォローをお願いいたします。

執筆の励みになります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る