第14話 転生者会議

「フザケんなよ貴様っ!! よりにもよってユニーク持って行きやがってっ!!」


「仕方ないじゃんかっ!! 他に転生者がいるだなんて知りようがなかったんだからっ!!」


「僕が知るかンな事情っ!! 知らなかったじゃ済まされねえんだよこの野郎

っ!!」


「清々しいほど盛大な矛盾っ!!」


 前世でしばしば目にした"わきまえない人"の特徴を濃縮したような言動であった。


 極めてどうでもいいが、せっかくなので俺が前世で『自分が楽に生きるためならダブルスタンダード上等!』という言説を目の当たりにした際の気分をここで共有してもらいたい。


「だ……大体だな、なんで俺だけあーだこーだ文句言われなきゃならないんだよっ

!! 他の転生者の存在考慮しなかったのはお互い様だろうがっ!!」


 金髪男ムラサメの一方的な言い草に、さすがの俺も怒鳴り返す。


「そりゃあ確かにムラサメおまえはこの世界の主人公かも知れないっ!! つまり、お前がカラルリンを止めなきゃ"魔界の道"が開かれてしまうってことだっ!! 未来の危機を知っているお前が主人公としての責任を果たそうとしているのは分かるっ!! 相当な重圧なのも察するっ!! だから使命感に突き動かされての行動であると理解はできるっ!! だが――」



「え? いや、別にそういうのなくても普通は主人公になったら冒険者になって活躍するものだろ?」



 俺の前にいる男は、まるで朝霧に輝く春の新緑のような美しい瞳をしていた。


 …………。


 ………………。


 ………………うん!(思考放棄)


「……とにかく。いまさら〈不撓不屈〉ユニークスキルを返せと言われても無理だ。そこは頼むから諦めてくれ」


「…………。くそっ、やむを得ないか。ただし、代わりに『幽霊の記憶』イベは僕に回せ。これだけは譲らない」


 幽霊の記憶――バレンシアの町から南にある墓場で発生する連続サブイベントの名前である。


 そこに登場するのはひとりの幽霊。『生前は剣士であった』こと以外の記憶を失っている彼の頼みを引き受け続け、記憶を取り戻す手伝いをする――という内容だ。


 イベント完走後、未練を晴らした幽霊は己の剣術を封じたスキルシードを主人公に託してあの世へと向かう。


 そのスキルシードで習得できるのは、ユニークスキル〈星辰せいしん流剣術〉。極めて強力な単体攻撃重視の剣術スキルであり、これを覚えさせたキャラはパーティーの主要アタッカーとしてクリア後の隠しボス戦に至るまで頼れる存在となる。


 ……まあ、防御重視の俺にとっては優先度の低いスキルだ。戦鎚使いのアズにとっても無用の長物であるし、他に有効活用できる奴がいるならそいつに託すのがいい

か。


「そうだな。譲るよ」


「ああ」


 ようやく納得したらしく、ムラサメは矛を収めた。


「それでだ、ムラサメ。やはりお前は"原作LOA"通り禁足地にある賢者の秘宝を入手するつもりなのか?」


「もちろんだ」


「いいのか? お前も知っているだろう。あれが単なる賢者アガスティアの"私的な手記"だと」


 禁足地にあるものは、魔界の道を封印している『アガスティアの大聖樹』――強大な加護の力を秘める聖樹の根本に、賢者は一冊の手記を埋めたのである。


 それは決して高尚なものではなかった。己の心境や遊び心を満たすための魔術理論など、とにかく思いついたものを片端から書き記しただけの、本人が末尾で"落書き帳"と自嘲するような代物である。


 ただのいち個人が土の下へと葬ったささやかな秘密――それがいつの間にか『賢者が禁足地になにかを隠した』という噂へと発展、長い時を経るにつれ"賢者の魔術で作られた、大変な価値のあるもの"と尾ひれがついていった。


 それが『秘宝』の正体だ。ようは賢者への過度な憧憬が生み出した幻である。


「知っているさ」


「知ったうえで求めるのか? ゲームの二周目とは訳が違う。人様のメモ帳掘り返すために現実リアルで命を懸けるってことだぞ。お前はそれでいいのか?」


「関係ないね。なにしろ僕はいつ転生チート展開に巻き込まれてもいいよう常日頃から心の準備を怠らなかった男だ。ゲームの世界を現実リアルで体験できる千載一遇の好機にビビッて怖気づくような根性なら前世に置いてきた。"秘宝がただの手記"? だからどうした。その程度のネタバレで僕の憧れを止められると思うな」


 言い切ったぞこの主人公様。ある意味すげえな。


「それに"大したものじゃない"ってのはシナリオを通じて顛末を知った僕らの感想

だ。こっちの世界の住民にとっては貴重な資料であるのに代わりはない。


 それに実利的な意味でも得るものはある。禁足地として長らく人を遠ざけ続けたせいで、大聖樹は正確な位置どころか存在すらも忘れ去られている。それを再発見するってのは名声に値する偉業だとエンディングでも示されてるだろう」


「まあ……そうだな」


「そういう訳だ。僕は秘宝を狙う、君は死の運命を乗り越える。別に利害がかち合う訳じゃない。今後もお互い好き勝手にすればいい」


「俺の運命を変えるのに協力してくれないか?」


「そんな義理はないね」


「俺の命を守るのは悪魔たちの企みを邪魔することに繋がる。この世界を守ることにも繋がるはずだ」


「調子に乗るな。貴様は僕の最強主人公生活を脅かす敵だ、ライバルだ。貴様のせいで僕は『この世界ゆいいつの知識チート持ち』としての立場を失ったんだぞ。


 しかも更生することで僕から『知識チートを活用し、クズ男爵を正義という名の棍棒でスカッと気持ちよくブン殴る権利』まで奪いやがって。どうしてくれるんだ」


「……お前も大概クズだよ……」


「黙らっしゃい。それに心配するな。襲撃は当面先の話で、しかもその時は僕も現場にいる。どうせお前、カラルリンと戦って撃退しようって考えてるんだろ? そこで僕が手を貸してやるだけでも十分だ」


 ……まあ、それもそうか。


 どのみちまず俺自身が襲撃に備えなければならない点に変わりはない。問題解決のため他人の力を借りることと、問題を他人に解決してもらうことはまったく違う。


 襲撃時に協力を得られるというだけ上出来だ。


「……分かった。なら最低限の情報共有だけはして、それ以外はお互い好きに動く。それでどうだ?」


「ああ」


「ゲーム知識の利用はどうする? 共有可能な部分はともかくとして、作中ひとつしかない装備やスキルシードもあるだろう?」


「そんなのは決まってる。お前と仲良くハンブンコ、なんて断固ごめんだ。……事前協議があったものを除き、恨みっこなしの早い者勝ちだ」


「……そうだな。俺もそれで構わない」


「決まりだ。〈不撓不屈〉はくれてやったが、それ以上遅れを取るつもりはないからな」


「健闘を祈るよ」


 話のついた俺とムラサメは、冒険者ギルドへと戻っていった。



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