死神だって逃げたいんです。
おふ
File001
「今日から君の一人称は『俺』で、君の名前は『
とある冬の日の夜。
「そっちの名前はどうするの?」
「ウチ…じゃない『私』にしよう…の名前は、『西河
「俺、と…カレンは、つまり血縁って
「まあ、そゆこと」
「……」
沈黙が痛い。
元にはもう、戻れない。
私は、『ウチ』を辞めた。
レオンは、『僕』を辞めた。
今度こそ。
「…大丈夫」
「うん」
「──
*
殺伐とした部屋の中。
冷たい目を向けられて、私は話し始める。
そう、あれは、12月3日の夜のこと。
「あの時から私の、長い1年が始まったんです。名前決めて、これから先何処へ行こうかって考えて」
レオンと私の“生まれた”日を、ただ思い出す。
「寒かったなぁ…」
息を吐くと、黒い空が、少しだけ白く染まっていく。
そんな冷たい夜のことだった。
*
「…てかさ、」レオンが訊いてくる。
「俺らが血縁とかそんな嘘ついたら、すぐバレちゃいそうだけど」
「だから、レオンはそっちのお父さんの連れ子で、でもそのお父さんが死んじゃって、残されたお母さんの再婚相手の連れ子が私」
「なんか…ドロドロしてんな」レオンの苦笑い。
「その方が、相手も気まずくなって遠慮しちゃうから、詮索されにくくていいかなって」
「そんなもんか…」
「そんなもんだよ」
「そっか」
「にしても即興にしてはいい名前つけるじゃん。名字もかっこいいし」
「でしょー私天才かもしれない」
「いやそこは謙遜しようよねぇ」
「てかそっちのネーミングセンスがヤバいだけじゃなくて? 私『山田花子』は流石に嫌だったからね」
「だって適当に名前言ってって言うから」
「でもだからって花子はさぁ」
「別にいいじゃん逆に」
「じゃあ『山田太郎』にしてやろか」
「それは…ド○ベンだから…やめて…」
「ハハ…
自分の笑い声が、薄っぺらく聞こえる。
何もかもが、薄っぺらく見える。
未だに、…あんなことがあっても、まだ。
感じられる全てに、色が無い。
家族の
この程度の黒には何も感じない。
そんな私が怖いとも、思わない。
レオンが続ける。
「髪型変えるのは、顔を変えた後に美容院行くとして。整形するには…やってくれる知り合いはいるけど…結構金がいるからな…」
「金ねぇ…思い当たる節、あるよ」
「え、どこ?」
「『ウチ』の家」
「…成程ね」
「無駄に金持ちだったからね。レオン、金庫開けることってできる?」
「…一応」
「よかった。家にある金、全部盗っていいからね。あと、ついでに服も着替えよう。2人とも制服姿じゃ、これから先困るから」
「…だね」
「…ん?」
唐突に、雪が降りだした。
珍しい。ここら辺で雪が降る日なんて、あんまり無いのに。
「…綺麗だね」
うん。綺麗。
普段のウチなら、走り出して騒いでる。
でも、そんな気分じゃない。
雪が冷たすぎるから。
雪の降る中、ふと、レオンが切り出した。
「…これで、本当にいいの?」
「」
背筋が凍る。寒さに心が震える。
「まだカレンは、逃げれらるのに」
「……」言わないで。それは。
「俺が悪いだけだから。俺が…。今更無かったことにはできない。でも、そっちは悪くないだろ」
「………」違うんだよ。
「今すぐ警察に通報して、強盗にやられたとでも言えばいい。そうすれば、誰から見ても、家族を亡くした可哀想な娘になれる」
「レオン、それ以上言うな」
「
それを言わないで。
1人で負わないで。
私のせいで、また、消えないで。
「私は、翠じゃない」
「………」
「違うから。いいんだよ」
もう戻れないんだから。
昔には。
「別れに行こうよ。『翠』と『
「……」
「“1年後まで、普通の人として普通に生きる”。そうしたいなら、私も一緒について行った方がいいでしょ」
「………」
「レオンは、『死神』なんかじゃない。人間だ」
「…分かった」
そう、それでいい。
君は、人間なんだから。
私が、死神になればいい。
お母さんを殺したのは、翠。
それでいい。
*
遡ること数ヶ月前──。
初夏。鳴き始めた蝉が暑苦しい時。
のちに、殺人犯となる2人が。
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