【タイトル】re:ブログ記事確認のお願い

【タイトル】

re:ブログ記事確認のお願い


【本文】

〇〇さんへ


お疲れ様です。


記事確認しました。素晴らしい記事だと思います。お疲れ様でした。


1点確認なのですが、添付で送っていただいた差し込み用の画像の④なのですが、こちらで合っていますでしょうか?黒いモヤのようなものがかかっています。もし間違いでしたら、次回出勤時に差し替えておいてください。


ご確認お願いいたします。


〇〇


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>>【タイトル】ブログ記事確認のお願い


>>【本文】

>>〇〇さん


>>お疲れ様です。

>>ブログの記事について、自分なりに作成してみました。こんなものでいかがでしょうか。

>>差し込む画像もいっしょに送ります。

>>おやすみ中にすみません。感想とかアドバイスがあればお聞かせください。

>>返信は、次回出勤時で構いません。

>>よろしくお願いいたします。

>>〇〇

>>添付ファイル「20170429記事.docx」

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閉館後、薄暗くなった美術館の事務室で、私は静寂の中で一人、デスクに向かって仕事を続けていました。次回の展覧会の企画内容が決まらず。この日は珍しく残って事務所に作業していたのでした。


デスクトップに先輩からのメールが届いたという通知がありました。今日は休みのはずなのに……仕事熱心な人だと、感心と呆れが半々の感情でメールを開封しました。メールの内容は、私が送ったメールの添付ファイルが間違っているという指摘でした。


私はあわてて添付した画像を保存しているフォルダを開け、指摘された画像を確認しました。そこにはちゃんと、私が美術館のホールでおどけた演技をしている写真がありました。あれ?おかしいな?と思い、送信メールフォルダを確認してみましたが、ちゃんと私が意図した画像が添付されています。


「なんでだろう……先輩の勘違いかな?」


私は少し考えましたが、答えは出ませんでした。この先輩は、結構抜けてるところがあります。過去にも何度かメールを送り間違えていたこともあるので、もしかしたら先輩が間違っているのかもしれないと思いました。再度やり取りをするのもめんどくさいので、再度画像を添付してメールを送ることにしました。




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【タイトル】

re:ブログ記事確認のお願い


【本文】

〇〇様


お疲れ様です。確認ありがとうございます。


画像について、差し替え承知致しました。こちらの手違いにて申し訳ありませんでした。次回出勤時に確認しておきます。


念の為、添付予定の画像を再送いたします。


どうぞよろしくお願いたします。


〇〇


添付ファイル「画像4.jpg」

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先輩へのメールを送り一息つくと、すでに外は暗くなっていました。この美術館は大きな公園の横にありますが、時間になると自動で公園の照明も消えます。この美術館は山道の途中にあり、夜間に照明まで消えてしまうと、山道を通る車のヘッドライトの光が遠くの方に見えるだけで、本当に足元も見えないくらいの暗闇になってしまいます。


この美術館はバブルのころに、観光地として再開発する過程で建てられたものだそうです。当時は観光施設と文化施設が隣接した別荘地として、大々的に売り出していたのですが、別荘地ブームが終わったこともあり、現在ではほとんどの別荘地が売りに出されるか、放置されてw廃屋のようになっています。人の気配はほとんどない別荘地は、管理のおじさんがたまに草刈りに来るくらいで、別荘地と市街地をつなぐために山間部を切り開いて作られた道路は、今ではほとんど誰も通らない道になってしまいました。冬になれば、隣町のスキー場に行くための観光客が通るものの、それ以外の時期は美術館への来訪者か、トラックドライバーが抜け道として通るだけの道路になっています。


今、建物の中には、遠くの方で光るヘッドライトのわずかな光と、館内の非常灯の薄明かりがぼんやりと漂っています。普段は陽の光で明るい雰囲気のホールや廊下も、この時間になると雰囲気が一変し、闇と静寂が支配しています。その静けさは、事務所自分がキーボードを叩く音や、資料の図録をめくるも、ホール中に響いているのではないかと錯覚しそうになります。


音が響くのは、おそらく私の錯覚ではないかもしれません。美術館のホールの奥には、収蔵庫に通じる廊下があり、コンクリート造りの建物とそこに満たされた空気、そしてこの建物の構造が、必要以上に音を反響させているのかもしれません。


廊下の奥にある収蔵庫には、貴重な美術品や資料が大切に保管されています。普段は厳重に管理されていて、業務上必要なときにだけ入ることが許されています。収蔵庫の中は、保存中の資料の風化やダメージが影響が最小になるよう考慮され、普段は照明も落とされています。夜の収蔵庫付近は、日中よりもさらに闇が濃いような気がします。鉄の扉の隙間から、収蔵庫の中の闇が外に漏れ出しているせいかもしれません。夜の収蔵庫には、そんな妄想をさせるような特別な怖さがありました。収蔵庫の中には、5年、10年と、日の目を見ずに保管されている資料も数多くあります。生身の人間とは全く別の時間が流れている空間がそこにあるという事実と、その場が纏う静けさと薄暗さに、私は何か足元を揺さぶられるような不安感を感じていました。一度そんな不安を意識してしまうと、忘れようとすればするほどさらにそれを意識してしまいます。不安の芽に自ら水を与えにいくような悪循環から意識を逸らそうと思い、目の前の仕事に集中することにしました。大袈裟に音を立てながら、作品や作家の資料の収まった大きなファイルを開き、頭を切り替えます。PC内でファイルを開き、幾つものアイデアを検討しながら、展示候補になる作品を書き出したり、動かしたりして検討していきます。しかし、いくら考えてみてもなかなかアイデアはまとまりません。頭の中がこんがらがってきた私は、椅子の背もたれに寄りかかりながら、作業で凝り固まった背中を伸ばしました。ストレッチついでにふと時計を見ると、すでに21時を回っています。この職場に来てから、こんな時間まで残業をするなんて初めての経験でした。


そんなに仕事の没頭していたのか……と驚き、まだ残業をするかどうか考えていると、どこからか、微かな音が聞こえました。最初は、公園の木の枝が屋根下どこかに当たっている音かと思いました。しかし、どうも、そういった音とは違うようです。今まで聞いたことのない音に、少しの恐怖と好奇心が湧いた私は、その音の出所を探るため、じっと耳をすませました。


コンッ……コンッ……


その音は廊下のもっと奥のほう、収蔵庫の方から聞こえるようでした。


コンッ……コンッ……


まるで誰かが廊下を硬い靴で歩いているような、もしくは部屋に入るときにドアをノックするような、そんな音です。音はゆっくりと規則正しく鳴っています。


コンッ……コンッ……


その音は、非常に小さい音ですが、確実にホールに響いています。出所が想像できないその音を聞いていると、だんだんと得体の知れない恐怖が私の心を襲いました。他に誰もいないはずの美術館で聞こえる音。日中なら気にも留めないような小さな音です。夜の美術館の静寂の中で、その音は廊下を反響し、この事務室まで確かに響いています。音は若干の強弱はあれど、移動している様子はなく、特定のどこかから鳴っているようです。


すでに恐怖は私の心を支配しつつありました。この時、この音を聞きながら事務所から退室する勇気は私にはありませんでした。しかしある一方では「ここは私の職場なのだ」という、義憤のような感情も湧いてきました。私は、恐怖を振り払うように、そしてこの美術館を支配しつつある謎の音に対して少しだけ当てつけるつもりで、作業中のPCでお気に入りのYoutuberのチャンネルを開き、音量を大きくしました。


「……ネット保険が高いと感じたことはありませんか!ダイレクトネット保険なら……」


Youtube広告の軽快な声が作業中の事務所に流れました。普段は不愉快でしかない役者の媚びた声が、逆に私を冷静にしました。


そうだ、ここは山の中だから、屋根裏に動物が入り込んだのかもしれない!もし仮に不審者ならば、ずっと何もしてこないのはおかしい!そしてここは割と新しい美術館だから、変な呪いとかもないはずだ!収蔵庫は自動警備になっているから、何かあれば警備会社がすぐに来る。正体がわからないから不安なだけで、心配することはない。大丈夫!そう自分に言い聞かせ、不安から目を背けるように中断していた作業を再開しました。しかし、足音は消えることなく、むしろ気にしないようにしていることで、かえってはっきりと聞こえるようになってきました。流れている音を掻き分けるように美術館内の空間に反響するその音は、薄暗い非常灯の光と相まって、より不気味さを増していきました。冷や汗が背中を伝うのを感じた私は作業を辞め、デスクの上の資料の片付けをはじめました。「大丈夫、大丈夫」と自分に言い聞かせるように呟きながら、資料を一枚一枚所定の棚に戻していきます。その間にも、まるで私の注意を引こうとしているかのように音は聞こえてきます。


自動再生していたYoutubeでは、すでに私の作った再生リストを流し終え、見たことのない関連動画が流れはじめていました。


「……どうもこんにちは!ミッチーradioです!今日は特別なゲストをお呼びしています」


どれだけの時間が経ったのか。ふと気がつくと、音はいつの間にか止んでいました。静寂が再び美術館を支配し、先ほどの出来事が嘘のように思えます。時計に目をやると23時を過ぎています。私は急いで荷物をカバンに詰め込み帰り支度をしましたが、心の中に残る不安は消えることはありませんでした。


「続きは明日やろう!」


恐怖を振り払うようにわざと大きな声で呟くと、私は事務所を早足で飛び出しました。


翌日、美術館は何事もなかったかのように開館し、私もまた日常の業務に戻りました。昨夜の出来事は誰にも話していません。何もなかったし、自分でも、あれが何だったのか知りたいとも思いません。

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