船の上からお届け
少ししてから旅行組全員が集まったので、早速美琴にヒノイズル皇国への行き方を教えてもらう。
「一番知られているのは港まで行ってから船で行くことだね。私はその方法で行ったわ」
「船旅ですか。それは楽しそうですけど」
「感覚がリアルで、今俺たちが試用してるこのゲーミングデバイスでよりリアル寄りになったから、ないとは思うが船酔いしそうだな」
「さ、流石にないん、じゃないですか?」
船酔いは三半規管が揺らされて怒る体調不良だ。なので流石に内臓までは再現されていないこのゲーム内でそういったことが起こることはないのだが、ここまでリアルになっていてこの映像を見ているのは自分の脳だ。
ゲームの自分は平気だと思っていても脳が本当に船に乗っていると錯覚して、船酔いを引き起こす可能性がある。
「私たちは特に船酔いはなかったけど、去年同じ船に乗ってた他のプレイヤーはちょっと怪しかったわね」
「じゃが、ヨミとヘカテーならば平気じゃろうな。普段からあれだけ飛び回っておるのじゃ。激しい揺れには慣れておろう?」
「私も特に車酔いとかしないから……トーチちゃんとルナちゃん辺りが怪しいかもね」
船旅になるかもしれないと少しテンションを上げていたトーチとルナだが、もしかしたら船酔いがあり得るかもしれないと知って、ちょっぴりテンションが下がっていた。
「まあ平気でしょ。ゲームにまで船酔いなんてあったら大変なんてものじゃないし」
「で、ですよね! そ、それに私たちは最悪ワープポイントで先に行っちゃえば、」
「あ、船の上にワープポイントないから、乗ったら着くまでそのままよ」
「……先に飛んじゃダメですか?」
「だーめ。こういう船旅って言うのは、みんなで行った方が楽しいものよ」
「つ、辛くなったらボクが膝枕でもしてあげるよ」
ちょっと気分が沈んでしまったトーチの頭を優しく撫でながら言う。
ちょっぴり期待の眼差しを向けられたが、流石に年下となるとなんでそんなに自分の太ももがいいのか、と思わない。今回に関しては自分から進言したのだからなおさらだ。
「ゲームの中だから、丸一日かけて移動ってことにはならないわ。そもそも魔導技術で船が進む速度ってかなり速いし、今日中は流石に無理かもだけど明日の朝になれば着いてるんじゃないかしら」
「そんなに速いんですか」
波が高いとぐわんぐわんに揺れそうだ。
「結構快適よ? あぁでも、この時期はなぁ……」
「何か問題でも?」
「うーん……私たちの強さで言うなら問題というほど問題でもないのよ。簡単に言うと海棲系のエネミーが大量発生している頃なのよね。イカとかタコとか」
「それって捕まえたら焼いて食べられます?」
「真っ先にそっち出てくる? 行けるわよ、私のインベントリにお醤油とバターあるから、捕まえたら分けてあげる。捕まえたら、ね」
何か含みのある言い方だが、問題ないと言っていたしそれを信じよう。何かあったら、ヨミのインベントリ内にあるレッドホットスパイスティックを口に突っ込む。
行き方を決めたので早速船に乗り込もうと言ったが、港がある第九都市ノナポリスに行かないといけないことが判明した。
銀月の王座は揃ってまだそこを開放していない、と思いきやこの場にいないゼーレがそこに行ってワープポイントを開放してあったため、彼女の過去の行動に感謝して全員でノナポリスまで転移した。
♢
ノナポリスの港には船はあったがまだすぐには出向しないと言われ、乗り込んで適当にあいている部屋を見つけてその中でくつろぎ、暇だったので配信を付けて雑談をすること一時間ほど。
汽笛の音が鳴って船が少し揺れたのを感じたので、デッキに出る。
美琴の言った通りかなりの速度で進んでおり、見る見るうちに港が小さくなっていく。
「んー! 潮風が気持ちいいー!」
長い髪が潮風に吹かれて空を遊び、ヨミは髪が乱れるのを気にせずに伸びをする。
いつもならノエルがすぐにお叱りを入れてくるが、今回は許してくれるようだ。
「ヨミちゃんヨミちゃん」
「んー?」
「ちょっと前に配信付けたの忘れてる?」
「ううん? 別に忘れてないけど」
”なん……だと……!?”
”つまり意識したサービスショットではなく、天然……って、コト!?”
”スクショしましたありがとうございます!”
”天然であんなエッッッッッなサービスしてくれるなんて最高すぐる”
”何もかもが素敵すぎます”
”これは夏のイベントが楽しみだぁ……”
”ノエルお姉ちゃんもちょっと呆れてるの草”
”素晴らしき腋と横乳ショット感謝します!”
「……っ、こ、この……!?」
どこを見られたのか、どのように見られたのかを理解してみるみる真っ赤になるヨミ。
そう言えばこいつらは、ノエルや美琴たちと比較すると貧相なこの体でもそういう目で見ることができる変態で、腋や横乳などを見せようものならハイエナのようにたかってくることを忘れていた。
咄嗟に変態と罵りそうになったが、それすらも喜びに変換されそうなのでギリギリで飲み込む。
”恥じらうロリっ子はいいぞぉ……”
”普段が清楚(?)で戦闘狂なところばかりだから、こういうの本当に新鮮もっと頂戴”
”ヨミちゃんや、そうやって恥じらう方が破壊力あることをお忘れで?”
”両腕で胸を隠す。服を着ててもエロスを感じますよ”
”おい、あんまりいじめすぎるなよ。涙目になってますます破壊力上ったじゃないか”
”最近メスガキの頻度が減ったけど、こういう恥じらいがたくさんあってよき”
「っ、っ、っ……!?」
次々と飛んでくるコメントにどう返せばいいのか分からなくなり、ぐるぐると目を回す。
「はいはい、可愛いのは分かるけどあまりいじめない───ひゃっ!?」
思考停止してすぐにノエルが近くに来たので、ほぼ条件反射のようにノエルに飛びつく。それがますます
「リスナーのみんなも意地悪」
「はいはい、拗ねないの。ほとんどヨミちゃんの自業自得だからね?」
「薄情者」
カメラから隠れるようにノエルを盾にしているが、当のノエルは終始ずっと笑顔である。なんで楽しそうなんだと、後ろからほっぺたをむにーっと引っ張る。
「ほんと、姉妹みたいで微笑ましいわねー」
「私が本当の妹なのに、あまり姉妹っぽいことしてない気がする」
「それはシズさんがこっちだと暴走気味だからでは?」
「えー? 私はお姉ちゃんを可愛く着飾りたいだけなんだけどなー」
「それが原因だと思いますよ……」
「そんなこと言ってー。そんなこと言うなら、トーチちゃんもフリフリの魔法少女風に仕上げちゃうよ?」
「勘弁してくださいよぅ……」
「トーチの魔法少女風とか私超見たいんだけど」
「ルナちゃん!?」
ぞろぞろとアーネストとシエルを除いたメンバーが出てくる。
あの二人は何をしているんだと視線を走らせると、釣竿を持って釣り勝負をしていた。
なんで男子はすぐにそういうことをするのだろうかと呆れ、ちょっと前まではあっちにいる側だったので口に出さずに飲み込む。
「やほー、ヨミちゃんのリスナーのみんな。ゴルドフレイ戦に参加してた人もいるだろうからここで言わせてもらうね。あの時はありがとう、助かったわ」
「まさか、妾たちがグランドを討伐するとは思わなんだ。現状で最上級の素材まで手に入れられて、大満足じゃ」
「フリーデンにはグランドの素材を加工できるクロムさんがいますし、最高品質の武器も手に入りますから、完成が待ち遠しいです」
”そうじゃん!?”
”あああああああああああああああああああああああああ!?!?”
”フリーデンの場所教えてええええええええええええええええええ!?”
”グランドが……グランドウェポンが欲しいのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!”
”変形武器、高出力エネルギーぶっぱ、大型兵器……ロマンの塊になる武器。くぁwせdrftgyふじこlp”
”グランド武器が欲しすぎて発狂しそう。ヨミちゃんとおそろの性能がいいけど、使いこなせる気がしないから変形しても、剣と斧だけでいいや”
美桜たちがグランド装備を入手可能であると分かった途端、リスナーが発狂する。
ちらほらと参加者と思しきコメントを見つけられて、クロムをフリーデンから引っ張り出してほしい、フリーデンの場所の情報を言い値でいいから売ってほしいなど、様々なものが送られてくる。
こういうのを見ると、自分が優位に立てていると感じてむふーっと笑みを浮かべる。
「ちなみに、クロムさんにはボクの二つ目の専用装備を作ってもらってるところなんだ。……ぶっちゃけこれ以上武器増やしてもしょうがないから、既存の武器を補助したり補強する程度のものだけど」
「へぇ、そんなものを頼んでいるのですか。完成したらぜひ私にも見せてくれませんか?」
「いいですよ。フレイヤさんは自分で?」
「そうしたいところですが、失敗したら怖いので一回クロムさんに頼みます。その上で、まだ大量に取れる素材を使って自作しようかと」
「フレイヤさんが自分で作る、グランド素材を使った魔導兵装とか考えたくないんですけど」
「フレイヤ様のことですから、きっととんでもない破壊力を発揮するでしょうね」
「…………」
「何か?」
「いや……あっちとこっちでギャップ半端なさすぎて」
大鎌ぶん回すメイドさんモードになったリタを見て、本当に多重人格なんじゃないかと疑いの目を向けてしまう。
それくらい雰囲気が別物だし、ノエルもリアルとのギャップに目を白黒させている。
美桜も結構ギャップはあるが、ふとした時にFDOのサクラだと分かるが、リタとシルヴィアは本当に結びつかない。
これは最強のリテラシーだなと思っていると、美琴が周りを気にしているのに気付く。
「どうしたんです?」
「いや、そろそろかなーって」
「そろそろ?」
何のことだと首をかしげると、ドーン! と水柱が立ち、海水が降り注いできてびしょ濡れになる。
「何!?」
海水で濡れて顔に張り付いた髪の毛を払いながら、なんだと水柱が上がったほうに目を向ける。
そこには、異常なまでにデカいタコの足が一本そびえ立ち、うねうねと動いていた。
『ENCOUNT BIG ENEMY【OCTO DEVIL FISH】』
「名前そのまんまやんけ!?」
呑気な 『BATTLE START!』の表示と同時に、安直な名前にヨミはツッコミを入れざるを得なかった。
===
作者が勝手にやってる『勝手にQ&Aコーナー』
Q.この時のリスナーとタコの気持ちを教えて
A.リスナーA「触手キチャアアアアアアアアアアアアア!!!!」
リスナーB「FOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!」
タコ「よっしゃ仕事だああああああああああああ!」
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