蒼穹を駆ける金色の星に慈愛の怒りの贈り物を 14
「諸願七雷・
美琴が本気モードに入る。
背中に七つの一つ巴紋が出現し、こげ茶の瞳が紫色に変色する。
「───神刀真打、抜刀!」
その言葉と共に美琴の胸の中心にすさまじい量の雷が凝縮されて行き、そこに右手を触れさせてから上に向かって振り上げる。
彼女の手には見事な意匠の刀が握られており、その刀には強烈な力が込められているのを感じる。
美琴が最強形態『諸願七雷・七鳴神』状態でしか使うことができない、魔神としての彼女のスキルで作り上げられた刀、『真打・夢想浄雷』。
美琴が本気になった時でも稀にしか使わないもので、理由としては七鳴神自体
なので普段は陰打やユニーク武器の雷薙や野太刀の雷断を用いているそうだが、今この場では美琴以外にも火力がいるため解禁したようだ。
ただ、美琴のスタイルがよすぎるため胸の中心から引っ張り出すと言う行動が、はたから見れば胸の谷間から出しているように見えてしまう。
「
アーネストも再度神聖騎士を開放し、白い翼を背中から出現させる。
「いいな、そうやって特に大きな弱体化もなくクソ長いリキャストを終えれば何度も使える奥の手」
「そういう君だって、血濡れの殺人姫をストック消費で連続起動できるだろう」
「四回だけですー。四分しか持たないんだから、あまり使えないよ」
とはいうものの、夜空の星剣を常に使い続けてフィールド上には小さな満月がずっと存在しており、そのおかげもあって月下血鬼と月下美人両方が使用可能となっている。
併用したいがやりすぎると制御できないので、まずは月下血鬼で月光状態になってそっちを使い切ってから月下美人と血濡れの殺人姫の併用だろう。
「この作戦は主にヨミさんのファンが集まっていますから、血を分けてくださいと言えば喜んで命を差し出しそうですね」
「それだとボクPKになっちゃうんですけどフレイヤさん」
「レッドネームも、後々キルされれば罪が清算されますし、落とした装備やアイテム、お金などはヘカテーさんにお願いしておけば戻って来そうですけど」
「……もしかして、この状況ってボクにとって実は理想的?」
PKになってしまっても、ギルメンにPKKしてもらえばアイテムもお金も全部戻ってくる。
最高レア度のグランド素材は売却も譲渡も可能だし、実はあまりデメリットがないのかもしれない。
とはいえ自分がレッドネームになるのはあまりいいイメージではないので、それをやるにしても最後の最後だろう。
その時はヘカテーかノエルに介錯してもらおうと決め、月下血鬼を使用。月光状態に移行し、月光ゲージが出現して徐々に減少を始める。
「無駄話はここまで! もう全力で行きますよ!」
「言われなくても! 『ウェポンアウェイク』───『
獰猛な笑みを浮かべたアーネストがアロンダイトを開放し、白い光の奔流の斬撃を放つ。
ゴルドフレイはブレスで応戦し、ヨミと美琴は左右に弾けるように駆け出し、フレイヤはアロンダイトがブレスに押し負けたためその場に大盾を持つ人形、護国の王を置いて背中に機械の翼を展開して飛翔する。
月光状態はかなりの高倍率の強化を得るが、一番の真価は月光戦技という攻撃範囲の拡張だ。
消費するゲージの量によって威力が変動するので、理論値は全てのゲージを一回で消費しきっての最大射程最高火力の一撃だ。だがそれをすると時間をかけて溜めた月光ゲージが無駄になってしまうので、ヨミは間合いが倍程度になるように消費を抑える。
特大剣形態にしてそれに月光戦技を発動させて間合いを倍加させ、ついでにエネルギーを消費して胸にある噴射孔からエネルギーを噴射して振り下ろす勢いを増加。
剣を振るうのではなく剣に振り回される形となるが、間合いが伸びた一撃はゴルドフレイの太い首に命中して巨体を少し揺らす。
じろりと睨みつけられ口からエネルギーが漏れ出すが、美琴が鋭い一閃を胴体に叩き込んで鱗を一枚剥がしたのでそっちにヘイトが向く。
「顎下がお留守だぞ!」
接近していたシエルが顎の下でアオステルベンを上に向けて構え、引き金を引く。大砲のような銃撃音と共に強力な竜特効の攻撃が放たれ、逆鱗にそれが命中する。
既に亀裂が入り耐久が脆くなっている逆鱗は、更に亀裂を大きくさせて砕けるまであと少しと言ったところだ。
大ダメージを入れたシエルを排除しようと暴れ回るが、自分に向けられたヘイトを剥がしてその場に残す『ヘイトスクレイプ』を使い、誰もいない場所を攻撃させておちょくるシエル。
すぐにそこには誰もいないと分かり、一番近くにいるヨミを前脚で叩き潰そうとしてくるが、紙一重のところで回避して鱗と鱗の隙間を狙って特大剣を振るうが、相変わらずがちがちに硬いのでちょっと切り傷を入れるだけに留まった。
すると上に飛んでいたフレイヤが、右手に大きなランスを持って落下して来て、背中に突き刺さる。
ジャコン! という音が聞こえたのでそれも何かギミックがあるのかと思ったら、フレイヤが降りた場所から大爆発が起きた。
「フレイヤさん!?」
まさかの自爆ですかと思ったが、上る煙の中からノーダメージで出てきたので対策はしっかりとしているようだと安心する。
それどころか大爆発が起きたのになおも健在なあのランスの方がちょっと気になる。
「りゃああああああああああああああああああ!!」
防御が展開できずにいるゴルドフレイの顔面にエマが飛び込んでいき、斬赫爪に赫い腐敗の瘴気をまとわせて斬り付ける。
腐敗状態はまた解除されており、向こうも徐々に耐性を獲得しているため最初の時のようにすぐに腐敗状態になることはないが、腐敗状態にさえできればまた継続的にダメージを入れることができるので、エマが攻撃しやすいようにヨミも激しい攻撃を仕掛ける。
向こうもそれを察知しており、エマが攻撃しにくいように動こうとするが、美琴の特大の雷を食らってたたらを踏む。
そこにフレイヤのカーテナを持った女性フォルムの脚のない人形、
ギリギリと押し込み続けるが、ゴルドフレイが左の翼の付け根からエネルギーを噴射して高速回転して弾き飛ばし、そのままブレスを放って来た。
「めちゃくちゃするな!?」
「回転しながらブレスを撃つんじゃねー!?」
アーネストは楽しそうな笑みを浮かべながら、ヨミはうがー! と腕を振り上げながら叫ぶ。
逆鱗を攻撃されて一時的に制御が乱れている状態になっているはずなのだが、乱れているなら制御なんてしなくていいと言わんばかりにめちゃくちゃやってくるので、むしろ厄介になっている気がする。
そもそも自傷で自分のHPを減らすことで自分から本気を出せるようにしてくること自体、おかしな話なのだ。
災害のような回転ブレスを凌ぎきり、奴が地面に足を付ける前にヨミが低い姿勢で走っていき、エマも背中の翼を羽ばたかせて追従する。
迫り来る二人に向かってゴルドフレイも走って突進してくる。あまりにも音速タックルをしてくるので感覚が狂ってしまったが、70メートル越えの巨体から繰り出されるタックルはそれだけでも脅威だ。
食らわないよう左右に分かれるとエマの方を狙っていったので、そうはさせないと残っている右目を狙って突進していく。
罠だと分かっていたが、おびき出されなかったらエマが危険な目に遭うので行かないわけにはいかなかった。
案の定誘導されたヨミの方に急に振り向いて、短いチャージからのブレスを放ってきた。
ブリッツグライフェンを盾にして、それにできた影に潜ろうとしたがヨミの前に大盾を持った護国の王が来て、その盾でブレスを防いでくれる。
チャージが短ければブレス一回なら余裕で耐えられるのだなと思っていると、シェリアから影に潜って逃げろと言われたのでそれに従う。
直後に、不安定な姿勢でゴルドフレイが飛んできて、護国の王を粉砕してしまう。防御特化らしいそれを粉砕していくのを見て、制御できなくなっている方がめんどくさいじゃないかと頬が引き攣る。
だが本気状態になった上で制御できない分、バランスを崩して地面に飛び込んだ際に自傷ダメージがあるため、効率は良くなっているのかもしれない。
あわよくば自滅で終わってほしいが、それだと面白くないし何よりどこぞのイケメン戦闘狂が怒り狂うだろう。
「あまり自傷ダメージを入れないでくれたまえよ、ゴルドフレイ! それじゃあつまらない!」
純白の翼を羽ばたかせながらゴルドフレイの周りを飛び回すアーネストが、獰猛な笑みを浮かべながら叫ぶ。
ヨミも全面的にではないがそれには同意できるので、小さく頷きながら影に潜ってから接近し、ブリッツグライフェンを逆鱗目がけて振るう。
バレバレな攻撃など受けるものかと、逆鱗とは違う硬い鱗で攻撃を防ぎ、ブリッツグライフェンが当たってすぐに首を大きく振ることでヨミを押し飛ばす。
すぐさまアーネストが飛んできてブリッツグライフェンの柄を掴んでヨミを引っ張り上げ、圧縮したのかかなり小さなブレスが一発飛んできて、左脚を消滅させてしまう。
「い゛っ……!? も、もう少し早く移動してくれない!?」
「無茶を言うな! この翼で飛ばせるのは本来私一人なんだ! これでも結構頑張っているんだからな! というか、エマが翼を生やせるのに何で君はそれができないんだ!?」
「知るか!? 真祖吸血鬼でもボクはエマほど成長していないってことなんじゃないの!?」
「種族進化があると言う噂はあるが、ここにきて現実味を帯びて来たな!」
「に゛ゃーーーーーーー!?」
もう一発ブレスが放たれてきたので、アーネストが上昇して本当にギリギリのところで回避したのちに、ヨミをゴルドフレイの方に向かって全力で投げ飛ばす。
思わず変な悲鳴を上げてしまい、後で絶対泣かすと額に青筋を浮かべながら、ブリッツグライフェンを斧形態にして半分ほど溜まっているエネルギーを全消費する。
「『ウェポンアウェイク・
ゼロ距離でフルスイングした相棒を叩きつけ、エネルギーが余すことなくぶち込まれる。
フルチャージ状態ではなかったのでダメージは控えめになってしまったが、長時間の戦闘によってあちこちの鱗の耐久が下がっているおかげもあり、大きな鱗を数枚砕いた。
すかさずシエルが滅竜魔弾をそこに撃ち込み、トーマスが数度弾丸の起動を変えながら銃弾を撃ち込み、起爆させる。
「真実は偽りへ、偽りは真実へ。私が愛するのは真っ赤な真実。私が愛するのは真っ白な嘘。ちくたくと針は進み、巻き戻る。真実を嗤い、嘘を受け入れなさい───
リタの姿が変化していく。
メイド服が黒と赤を基調のドレスに変化し、アッシュブロンドの髪の頭からは大きな捻じれた角が二本生えてくる。尻尾も生えてきて、その姿は彼女本人の妖艶さもあって露出が少ないのに妙なエロスを感じてしまう。
作戦会議の時にリタからこのスキルのことは教えられていなかったので、突然のこの変化に驚く。
彼女の種族が、美琴経由で魔神だと言うことがバレているので、急激な変化は魔神族の固有スキルなのは確かだが、本人が一言も説明していないこともあってどういうものなのかが分からない。
一体何なのだろうかと思い、ゴルドフレイに攻撃を入れながら気にしていると、明らかに間に合わないであろう攻撃をリタが回避した。
なんかフレームが飛んだような違和感を感じていると、急にリタが五人に増えて五人同時に同じ個所に鋭い斬撃を叩き込んだ。
「なにそれぇ!?」
分裂したリタはすぐに一人に戻ったので持続時間は短いようだが、ゼーレの使う『ファントムラッシュ』の完全な上位互換なのは確かだ。
もし、対抗戦の際にリタが今の状態になっていたら、もしかしたら状況が大きくひっくり返されていたかもしれない。
「リタのあの状態は消耗が激しいので、彼女がああして注意を引きつけている間にガンガン攻めましょう!」
墜落するように地面に着地したフレイヤが、両手に展開した若干透けているエネルギーのようなもので構成されたブレードランスに、真っ白な炎をまとわせながら叫んで飛翔していく。
フレイヤも一体いくつ魔導兵装を持っているのか気になるところだが、今は彼女の言う通り少しでもダメージを入れる、あわよくばリタがあの状態である間に決着を着けるのが理想なので、再びエネルギーを満タンまで溜めるためにブリッツグライフェンをゴルドフレイの巨木のような足に叩きつける。
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