蒼穹を駆ける金色の星に慈愛の怒りの贈り物を 7

 教えてくれたエマ曰く、ゴルドフレイの必殺技は金剛隕星雨というらしく、破壊することは考えてはいけないらしい。

 詳しい原理までは分からなかったそうだが、当時のナイトレイドの国王が本気で攻撃しても、岩の塊でしかないはずのそれは破壊できずにナイトレイドの王都を更地にし、城を潰し、多くの魔族が息絶えた。


 長い時を経て、同じ真祖吸血鬼のヨミが隕石の雨を目の当たりにして、そういうことかと理解する。

 あの隕石は魔法陣から召喚されたもの。材質は岩や隕鉄であることに変わりはないが、魔術と言う者が発展しているこの世界なら落下前に破壊することは本来はたやすい。

 ではなぜ命ある限り不死であった、今は亡き夜の王の力をもってしても破壊できなかったのか。答えは単純だ。

 魔術では決して対抗できない能力は、数が知れている。


 劈くような轟音をいくつも響かせながら、金色の隕石が次々と落ちてくる。

 体が浮きそうなほどの衝撃と、聴覚が一時的に消し飛ぶ爆音。この世の終わりだとさっかっくするほどの純粋な破壊の雨に、フィールドに残った隕石の裏に体を隠すヨミは耳を塞ぎ目をぎゅっと閉じて体を丸めた。

 いったいどれほど雨が降り続いたのか、キーン……、と鳴る耳鳴りに顔を歪めながら目を開けると、体を隠していた隕石が砕ける。


 あの破滅の雨を凌ぎ、全員で安否確認を素早く行う。一部のプレイヤーが少しパニック状態になっていたが、ゴルドフレイが降りてきていないのでそれまでにどうにかして周りのプレイヤーが落ち着かせる。

 ステラは無事なのか、と不安になって彼女がいる方を見ると、姿が見えない。ぞっと最悪を想定してしまい顔を真っ青にするが、隕石に巻き込まれないようにフィールドから離れていただけのようで、ひょっこりとまた姿を見せて安心する。


「ウォータイスの必殺技もすさまじいが、こいつのも半端じゃないな……。これで竜王序列的なもので言えば四番目なんだろう? 狂っている」


 アーネストも耳鳴りが酷いのか、がすがすと自分の頭を軽く叩きながら言う。


「アンボルトの必殺技もすごかったし、一目であれは喰らったら即死するんだと分かったけど、これはもうその次元じゃないね」


 今思えば、あの必殺技を乗り越えられたのは気付かぬうちにDPSチェックをクリアしていたからかもしれない。

 早々に逆鱗の位置を把握できて、全員でどうにかして逆鱗をいじめ抜いて、大ダメージを入れ続けた。だから200人が隠れられる大きな琥珀の塊が地面から出てきて、あの必殺技を食らわずに済んだ。


 あの地獄のような破滅の雨を凌げたと歓喜に湧くが、これで終わったわけじゃないのでアーネスト、ヨミ、美琴、フレイヤ、クルルで号令を出して散開させる。

 未だに降りてこない竜王に不安を覚えていると、今度はアーネストを中心に広範囲AoEが発生する。先ほどヨミでも反応できなかった墜落攻撃の前兆だ。


 巻き込まれまいとヨミたちは自ら離れ、アーネストも巻き込むまいと機械の翼を羽ばたかせてフィールドの端に移動する。

 さっきヨミを叩き潰したあの一撃は、まだ見える範囲で円を描いていたが今はその姿が見えない。ただでさえ加速に十分な距離があるのに、事前に速度を出してから更に加速するつもりなのかと、いやな汗が流れるような感じがする。


 アーネストの足元にあるAoEが点滅を止めて一際赤く光ってから二秒後、音を遥か後方に置き去りにした金色の巨大な槍が、真っすぐ地面に突き刺さった。

 遅れて大轟音と体がちょっと浮くほどの衝撃が走り、さっきよりも速いじゃないかふざけんな!? と目を剥く。

 流石にアーネストも今のを食らって即死しただろうと思ったが、ヨミに一度行ったことでシェリアがタイミングを把握したのか自力で読み切ったのか、左腕を欠損し機械の翼も左側が破壊されながらも生き残っていた。

 壊れた翼での飛行は難しいのか、転移魔術を使って戻ってくる。


「すまん、フレイヤ。避け切れずに攻撃を受けてしまった」

「気にしないでください。デスせずに生還することが一番の儲けものですよ。それはあなたのものですので、戦いが終わってから新しく作り直します」

「感謝する」

「兄さん!」


 アーネストの妹をイリヤが駆け寄ってきて、欠損している左腕を見てからぶつぶつと呪文を唱え、背中から純白の翼を生やしてからアーネストを優しい光で包む。

 兄妹そろって神翼族で、性能は真逆なのかもしれない。アーネストは戦闘狂で戦い特化で、イリヤはシールダーで攻防自在でサポート能力に優れている。

 ある意味バランスのいい兄妹だと苦笑する。


「来るぞ!」


 アーネストの左腕が再生するのと同時に、砂煙を吹き飛ばしながらゴルドフレイが突進してくる。

 フレイヤが前に飛び出して、複数の防御特化魔導兵装を併用して突進を止め、アーネストは機械の翼をしまって自分の脚で地面を駆けてゴルドフレイに向かって走っていく。

 彼のギルドメンバーも彼に続き、ヨミも負けていられないと走る。


 相変わらずゴルドフレイは赤い腐敗状態のままで、体に付いている小さな傷がじわじわと赤く腐っていき、HPバーが少しずつ減っている。

 それに、今の墜落攻撃は防御を張れていない状態で行ったのか自傷ダメージが入っており、三本目が削れ切って四本目に突入している。

 ここまで順調に、ゴルドフレイのHPを削れている。しかし、性格の悪い運営のことだ、絶対にこれだけで済むはずがない。

 絶対に何か変なイベントを仕込んでいるだろうから、それを警戒しながらまだ防御が張られていない体に、斬赫爪を叩き込む。


 怨嗟ゲージがあと一割ちょっとでなくなりそうなところまで減っていたので、再び雷王の攻撃をぶち込んでやろうと体をよじ登る。

 ゼーレが攻撃してどこに逆鱗があるのかを視覚的に分かりやすくしてくれており、斬赫爪を持って接近するヨミを振り払うような攻撃を掻い潜って逆鱗まで接近し、かかっている自己バフを解除して雷王怨嗟を発動させる。


「これを逆鱗に当てたらどうなるんだろうねぇ!」


 ぺたりと左手を逆鱗に触れさせながら王の雷を開放。ゼロ距離で雷撃が叩き込まれ、特大のダメージが入り四本目が一気に削れて残り一割以下になる。

 このまま五本目に突入させたかったが怨嗟ゲージが八割まで溜まったので、これ以上はダメだと判断して解除。

 雷王怨嗟が解除されて他の魔術の使用可能となり、ぱっとゴルドフレイから離れて落下し、地面に当たる直前に『シャドウダイブ』で影に潜って離脱する。


 弱点に雷をしこたまぶち込まれ大ダメージを受けたゴルドフレイは、斬赫爪に怯えつつも自分にここまでダメージを入れたヨミに怒りをむき出しにし、排除しようと尻尾と翼の付け根からエネルギーを噴射し、音速を突破して接近してくる。

 先読みして回避しながら斬赫爪で撫でつけて、少し減っているであろう腐敗ゲージを少しでも長く維持しようと試みる。

 また制御を失ってもんどりうって転がってくれたら面白いのだが、恐怖よりも怒りの方が勝っているようで制御を失わずに旋回してもう一度突っ込んでくる。


領域スパティウム凍結封印プロイベーレ!」


 アーネストのギルメンの一人ダビデが、杖を掲げながら空間凍結魔術を使用する。かなりの高難度魔術なのによく覚えたなと思ったが、ダビデってそういうことかとなんか妙に納得して、トーマスが逆鱗を狙撃したのでヨミも斬赫爪の固有戦技を発動させて体を斬り付ける。

 ヨミには見えない腐敗ゲージが減少した側から再び蓄積させる。一秒たりとも腐敗を切らすつもりはない。


 少しでも持続時間が長くなるようにと斬赫爪に腐敗の瘴気をまとわせながら攻撃を続けていると、ゲージ管理を怠りヨミ自身も赫の腐敗を受けてしまう。

 体の端から、内側からじわじわと腐っていく言い表せない感覚と気持ち悪さに顔を歪めるが、HPの減少が思ったよりもかなり遅く自己回復の範囲でどうにかできそうなので、状態異常を無視して次々と血魔術と血壊魔術を使ってバフをかけ、MPを消費して血を補充する。

 血が燃えて霧となって体から吹き上がり、スリップダメージを受け腐敗と重なってかなりの速度で減っていくが、自己回復スキルを上げておいたおかげで減る方が多いがまだ耐えられる。


 ゴルドフレイが邪魔だと言わんばかりに体を大きく揺らしてヨミを弾き、宙に浮いてしまった小さな吸血鬼を食い殺そうと大きく顎を開ける。


「ボクのことを食べようって? 残念、特大魔術でも食らってなよ金ぴかトカゲ!」


 中指は流石にやりすぎなので、左手で親指を立ててから下に向ける。

 直後にフレイヤと位置が交換し、彼女が左手に持つ黒いランスに巨大な炎をまとわせながらそれを突き出す。


焼き穿つ殲星シリウス!」


 特大の炎の槍がゴルドフレイの口腔内にぶち込まれ、大ダメージを食らう。

 その一発だけに留まらず、フレイヤは機械の翼を展開してホバリングしながら、ランスの戦技なのかすさまじい速度で連続突きを繰り出してさらにダメージを入れた後に、後方に下がって炎を更に巨大化させてからランスを投擲する。

 着弾した瞬間に大爆発を引き起こして強烈な熱波が襲い掛かってくるが、ヨミとヘカテーは炎が弱点になるため炎をレジストするアイテムを一つ貰っていたおかげで、ダメージを受けることはなかった。


「ギィィィァァァアアアアア!?」


 炎に体を包まれたゴルドフレイがばたばたともがく。竜王という割には変だと思ったが、バーンロットには炎の能力もあるのでああして体を炎に包まれると、もしかしたら奴のトラウマを引き出せるのかもしれない。

 と、思ったのだが、最初にトーチの巨大イノケンティウスと普通に殴り合っていたので、違うなと自分で否定する。


 ともあれああして動きが悪くなっているので、この瞬間を逃すわけにはいかないと斬赫爪をしまってから背中にあるパーツを集めてブーツ形態にして、全エネルギーを全ぶっぱするために消費せずに真っすぐ走っていき、鎖を首に巻き付けるように飛ばしてから跳躍。

 巻き取りながら加速して体重移動で弧を描くように移動して、途中で血の槍を作って引っかけることで急激に軌道を変えつつ急加速。

 フレイヤが炎を消してくれたのでぐっと右足を引いて、固有戦技を開放する。


「『ウェポンアウェイク・全放出フルバースト』───『雷霆ケラウノス脚撃ヴォーダン』!」


 加速による勢いと自分で蹴り出す勢いを乗せた上からの蹴り落としがゴルドフレイの脳天に当たり、すさまじい衝撃音と共に重なるように雷の追撃が発生し、ゴルドフレイの頭が下に落ちる。

 地面に叩きつけられることはなかったが大きくバランスを崩し、そこにノエルがヘカテーの飛ばす血の武器に掴まりながら飛んできて、ヨミに向かって手を伸ばしたのでその手を取り、くるりと回転しながら彼女を下に向かって思い切り投げ飛ばす。


「『ウェポンアウェイク』───『雷霆の鉄槌ミョルニル』!」


 雷の巨大メイスが加速したノエルによって頭に叩き込まれ、遂にゴルドフレイは地面に叩きつけられる。

 エネルギーによる防御がない今立て続けに繰り出される竜特効兵器の固有戦技は非常に有効で、目に見えてHPバーが減っていく。

 この首を斬り落とすことさえできればクリティカルで即死できるのだが、首が太すぎて落とすのに一苦労するしその前にHPを削り切れそうなので、素直にデッドエンドを目指すことにする。


===

作者が勝手にやってる『勝手にQ&Aコーナー』


Q.ヨミちゃんはダビデの名前を、何で一人で納得してたの?


A.ソロモン王の父親がダビデ王で、ソロモン王は魔術王として知られていてその父親だからそういう名前にしたんだなと一人で納得してた

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