蒼穹を駆ける金色の星に慈愛の怒りの贈り物を 3

 ヨミの音頭を皮切りに一斉にプレイヤーがゴルドフレイに向かって走る。相手は四色最強の金色の王。様子見とかそんなことやってる余裕などないので、最初から全力で行くしかない。

 手筈通り、最強火力が揃い踏みのグローリア・ブレイスが前に飛び出して、ゴルドフレイのヘイトを買う。タンク組はフレイヤが作った高性能防御特化魔導兵装で攻撃を防ぎ、タンクスキルでタンク同士でヘイトを分散させることでアタッカーに注意を向かせない。


 亡霊の弾丸は常に中距離で銃撃。スナイパーは狙撃で弱点になりそうな部分を探り当てる。一番狙撃の腕が立つトーマスは逆鱗の正確の位置の割り出しが主な役割だ。

 また、クルルは孤立しての行動を取り、彼女の行動は常にシェリアが把握。大規模なレイド戦で全員に指示を出すために、これまたフレイヤが作った通信機器を使って、クルルの射線を確保するために適時指示を出し続ける。


「最初からこれを使えるなんて最高にもほどがあるわね! 『ウェポンアウェイク』───『固有解放ブートオリジン破滅術式フェアデルベン』!」


 前方にプレイヤーが一人もいない、ゴルドフレイが移動してもその先にも誰もいないのをシェリアから教えてもらったクルルは、楽しそうに笑みを浮かべちょっと頬を上気させながら固有戦技を発動。

 これを提案したのはヨミ自身なのだが、いきなりあれが飛んでくると思うと恐怖以外何物でもない。

 ヴォッ!! という独特な銃声が響き、秒間千発という殺戮の嵐が王に向かって行く。

 いきなりMP消費の激しいものを使っている理由も、フレイヤが作ったMPタンクを術師組や弾丸魔術がメインのガンナーに貸し出しているからだ。

 ヨミもそれを借りており、これによってある魔術がほぼ制限なく使えるようになっている。


 ランダムに高速で切り替わる弾丸魔術の嵐が王の鱗に当たって砕け、炸裂し、凍結し、燃え、斬り付け、分解しようと試みて、貫こうとする。

 だが全て堅固な鱗とそれを守るゴルドフレイの能力に寄って防がれ、鱗には傷一つ付かない。やはり逆鱗を攻撃して鱗を守る様に展開している何かを剥がさないといけない。


 ゴルドフレイが口元から金色のエネルギーを漏らし始めるのを見て、クルルはトリガーハッピーを止める、なんてことはせずに引き続き弾丸の嵐をお見舞いする。

 漏れ出るエネルギーが一気に増幅してあわや特大ブレスが放たれると言うところで、超速で突っ込んでいったフレイヤが顔面を殴り付けて意識を一瞬だけ逸らし、顎の下に展開したカーテナを持つ女性のフォルムをした足のない大型人形が、剣を振り上げかち上げる。

 完全に上を向かせることはできなかったが少しだけ上に傾き、斜めにブレスが放たれる。


「やっばぁ……」


 特大の金色ブレスは真っすぐ空に向かって行き、雲を散らしてしまった。

 エマが以前、ブレス一つで山が消し飛んだと言っていたが今のを見てこれは確かにそれだけの威力があると、冷や汗を流す。

 果たして今のをタンク組の全力防御で防げるのだろうかと思うが、この戦いでは一瞬でも油断できない。とにかく攻撃しまくって少しでもダメージを入れて、DPSチェックという悪しきものを突破して生き残るための手段を確保しなければならない。


「『ブラッディアーマー』、『ブラッドイグナイト』、『ブラッドクリエイト』!」


 三つの魔術を起動する。

 血の鎧をまとい、己の血を燃やして血の霧を発生させ、消費されていく血を自分のMPを使って回復させる。

 並行して使うと消費が激しくてすぐにガス欠を起こすため使えなかった『ブラッドクリエイト』は、MPを消費して失った分の血を回復する魔術だ。

 普段から『ブラッドエンハンス』でMPを消費しており、消費量より自然回復量の方が多くなっているが、イグナイトの方はエンハンスよりMP消費が激しく自然回復が追い付かない。

 そこにクリエイトを使うとどんどん減ってすぐにガス欠になってしまうので、ここぞと言う時にしか使えなかった。


 だが今は、フレイヤが貸してくれたMPタンクのおかげでMP消費を気にしなくてもよくなり、より高い身体強化の効果を得ることができる。

 これで雷王怨嗟も使えれば完璧なのだが、相変わらずこれを発動したら使っている自分の魔術が強制解除されるので、ここぞと言う時にしか使えない。


 ヘイトを買っているタンクの上を飛び越えていき、足元に血の盾を展開してそれを足場に踏み砕きながら跳躍。ブリッツグライフェンを装備して、両手斧形態で殴り掛かる。

 満タンまで溜まっているエネルギーを消費して瞬間的に筋力を増幅させての一撃だが、数ドットしかHPが減らなかった。とにかく逆鱗だと胴体への攻撃をすぐに諦めて、首元にあると言うそれを狙おうと見上げる。


 戦場の端にいるトーマスが電磁加速弾と爆撃弾を合わせた電磁加速炸裂弾レールブラストがゴルドフレイの顔面に命中して炸裂し、ほんの少しだけ頭が揺れるがそれだけだった。

 かなりの速度の高威力の弾丸なのに有効打はなし。彼の巨大対物ライフルのユニーク武器、シュティッヒェンにアンボルトの素材を渡すことで竜特効が付いたはずなのだが、なおも大したダメージではない。


「シエル!」

「言われなくても! 『ウェポンアウェイク』───『滅竜魔弾ドラゴンスレイヤー』!」


 シエルも固有戦技を発動し、大砲のような銃声を響かせて弾丸を放つ。

 STRを最近育てていたようで、腕が上に跳ね上がって後ろに滑るが吹っ飛ばなくなっている。

 元々ついている強力な竜特効に、アンボルト素材を使うことで更にそれを強化したことで倍率が竜王相手なら6.5倍に上がっている。

 威力が上がった分反動も大きくなったのでSTRを鍛えざるを得なかったようで、その結果がこうして実を結んでいる。

 王を殺すために作られた銃から放たれた弾丸が顔面にぶち当たり、クルルのバルカン砲ラッシュやヨミの一撃よりも大きくHPを削るが、全体のHP総数、HPバー20本というバカげた数から見れば微々たるものだ。


「あいつより強いって聞いてたから予想はしてたけど、何でこんなにHPバー多いんだよバカか!?」


 アンボルトであの理不尽だったのに、こいつはその理不尽を理不尽で塗りつぶしてきた。

 それでいてめちゃくちゃ硬いしめちゃくちゃ速いし、マーリンに協力してもらって空間凍結を覚えていなかったら無理ゲーにもほどがある。


「体力が多くていいじゃないか! その分存分に楽しめるぞ!」

「お前みたいな戦闘狂と同列に扱うな戦闘狂剣聖!?」

「そういう君だって戦闘狂だろ! 嫌だと言っておきながら、楽しそうに笑っているじゃないか!」


 開幕からずっとニィッと笑みと浮かべ続けているアーネストに言われて、やっとヨミも同じような笑みを浮かべていることに気付く。

 もとより戦闘狂なのは自覚してるが、アーネストほどではないと思っていた。しかし思い返せば、クソ雑魚だったプレイ初日から王に挑んで満足していたのだし、あまりあいつと変わらないかと開き直る。


『尻尾と翼の付け根からエネルギーの噴射を確認! 超速飛行による突進を警戒!』


 シェリアからの指示が、耳につけているインカムから飛んでくる。ぱっとゴルドフレイを見ると、確かに尻尾と翼の付け根からジェットエンジンのように金色のエネルギーを噴射して、飛ばないように踏ん張っている。


『タンク隊はあれを防御できるかどうかを試してください! 蘇りの祭壇が設置して起動させたので、十分間は死んでも大丈夫です!』

「フレイヤさんからの提案だけど、やってることが脳筋だよねこれ」

「あの人自体が脳筋だからな。頭がロマン砲で構成されてるし」

「ロマンって素敵じゃない?」

「そうだ、君もフレイヤと同類だったな」


 軽口を叩いてから、ヨミは影に潜り、アーネストはフレイヤから買い取った機械の翼を展開して飛んで逃げる。

 直後に初速から音の壁をぶち破ってきたゴルドフレイが飛んで行き、がちがちに防御を展開していたタンクたちと衝突する。

 一か所に何十人もタンクが集まっていればある程度は防げることが判明するが、一回で突破できないと察するや否や身を翻して一度離れてから、急加速して突っ込んでくる。


 流石に十分な加速距離を得ての突進は防ぎきれず防御を破壊され、一か所に固まっていたタンク数十人のうち半分ほどがHPを消し飛ばされてしまう。

 すぐに蘇りの祭壇の近くで復活したとはいえ、十分な加速距離を得た突進は防御が難しいと判明して、やっぱりこの戦いはいかにしてタイミングよく空間凍結を行い、いかに早く逆鱗を見つけ出すのかが鍵となる。


 トーマスと張り合うレベルの狙撃の腕を持つシエルは貴重なダメージ元なので今更狙撃に回せないし、常にエアモルデンを使って俯瞰で状況を把握しているシェリアに探してもらおうにも、奴は音速で飛んでいくし一目見て分かるように逆鱗が生えているなら苦労しない。


「逆鱗探しなら私に任せたらどうかな?」

「あれと真っ向からバトリたいだけでしょ」

「そんなことはないさ、この目を見てもそう思うかい?」

「すっごく思う」


 隣に降り立ち、とても信用ならない目をしているアーネスト。本当に見た目だけなら、高身長の金髪碧眼なイケメンなので王子様と言って差し支えないのに、戦闘狂すぎる一面が全てを台無しにする。

 かくいう自分も戦闘狂で美少女を台無しにしている節があるので、あまり強く人のことは言えないが、アーネストほど戦闘狂ではないと思っている。


「どっちにしろ、この中の誰かが見つけなければいけないんだ。狙撃手君に一番期待が寄せられているとはいえ、私たち前衛アタッカーが見つけてはいけないなんてルールは決めていないしな」

「何言っても行く気だこいつ」

「私は行くが、君はどうする?」

「……そんな魅力的なお誘いを受けて、行かないわけにはいかないでしょ」


 どのみちヨミも接近して竜特効兵器のブリッツグライフェンをぶち込みまくる必要があるので、アーネストのように前に突っ込んでいくしかない。

 しっかりと周りに合わせて行動しようかと思っていたが、思い切り弾けられる口実を手に入れたので、機械の翼を広げてヨミを置き去りにしていったアーネストを追いかけるように、血の武器を作ってそれに掴まり操作することで疑似的に飛翔して追いかける。


===

作者が勝手にやってる『勝手にQ&Aコーナー』


Q.竜の逆鱗って個体ごとに場所違うの?


A.デフォルトで喉元の一枚だけが逆鱗になってる。個体によって若干位置がずれてる程度。竜王クラスとなると体がデカいし鱗の数も多いから、探し当てるのに一苦労する

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